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「現状分析と対抗戦略」討論欄

マスコミを統制する自民党に見る新たな階級闘争の地平

2013/7/6 櫻井智志

 共同通信は2013年参院選について全国の有権者三万人を対象に電話世論調査を 行った。その結果を7月6日の新聞朝刊が伝えた。
 百二十一議席のうち自民党は過半数を獲得、公明党と併せて七十一議席を超える勢 いと伝えた。民主党は改選数四十四議席が約半分に激減、維新の会とみんなの党は十 議席以下となる見通し。共産党は比例代表の三議席に加え東京、大阪の選挙区で議席 獲得をうかがう。社民党は比例代表での一議席に減らし、生活の党、みどりの風は議 席獲得の見通しが立っていないという。
 だが、原発の再稼働や新設では自民党は他の政党の反対に比べ、孤立している。護 憲では維新の会とみんなの党が改憲勢力として自民党と同調している。
 国民の圧倒的な多数は、福島原発がどれほど災害当事者達を苦しめ、世界中が日本 の原発対策と避難や復興の対策が不十分であるかを注目している。
 そんな中を外交でとびまわった安倍首相は、行く先々で原発セールスを重ねた。ま さに驚くべきことだ。厚顔無恥、安全感覚ゼロの蛮行としか言いようがない。背景に は、原発を残す事で、核兵器開発のためという見解も飛び交っている。しかし、日本 は非核三原則を国是としたのではなかったか。「にんげんをかえせ」と書いた被曝詩 人峠三吉の言葉は、核兵器に被曝した 唯一の国家日本の戦後への平和意志として長く 侵略戦争で悲惨な事態をひきおこしたことへの痛切な悼みを伴った永遠のメッセージ だった。
 安倍自民党は、自らフェィスブックやツイッターを使い、TPP反対集会に集う民 衆を「左翼の豚どめ」と誹謗した。それが発覚すると、こっそり削除して言っていな いと虚言を発する。自民党ネットサポーターズクラブは、ほぼ全国に県単位で支部が あり、自民党員と重複しているようだ。ホームページを見ると、ただのボランティア 団体とはどう見ても言えない。この団体は、一方では動画の党首討論会では、自民党 安倍総理をもちあげ、他党は罵倒のかぎりの書き込みを画面に流す。他方では、韓国 や中国への憎悪をネットで書き散らしている。それとリンクした在特会は、ネットか ら飛び出し、東京新大久保駅周辺で韓国などアジア各国を暴力的な言辞をわめきちら し、外 国の顰蹙をかっている。
 さらに自民党は、徹底した報道機関への牽制を行っている。NHK、テレビ朝日、 TBSなどに報道内容のひとつひとつを点検して、「報道内容が公平さを欠く」と 理由づけては、取材拒否を言い渡して弾圧している。野党でなく、政権与党が本来 権力批判を胸とするマスコミの報道を抑圧していることの重大な民主主義侵犯を自覚 していない。
 さらに衆参のねじれを解消するのが、参院選の最大の課題と述べてやまない自民党。 衆院選で自公が勝利したからねじれは起きた。そんなことは子どものほうがよくわか る。原発、憲法、TPP、消費税、国民生活。そのどれも参院選の重要な課題である のに、「ねじれ」が課題とする安倍自民党は、参院議長不信任を理由に延々と予算委 員会を総理や閣僚が欠席して、生活の党、みどりの風、社民党の女性三人の議員によ って「憲法63条違反」として問責決議案を突きつけられ、ついに問責議決されるお 粗末な実態である。国会で憲法条文について質問されても、答えられない。おまけに 自民党改憲草案について内容にふみこんで質問されても、答えられない。公示第一声 は福 島にとんで復興を豪語するが、福島県自民党県連が原発対策をまとめても、それ は公約とは言えないと否定して、公約の原発再稼働を強行しようとしている。沖縄で もそうだ。沖縄自民党県連の基地移転の見解を、それは自民党の公約とはできないと 自民党本部は切り捨てた。
 そんな政治的無能な安倍政権が支持率を高い水準で維持しているのは不思議なこと だ。しかし、国民生活安定とアベノミクスとして打ち出しているものは、「雰囲気」 であり「気分」をコントロールしているに過ぎない。経済学専門家は、実態の経済を 改善しようとする取り組みは一切ないのに、テレビでアップでうつる安倍首相の自己 陶酔した自信にあふれた表情と安易なレトリックに過ぎない。
 マスコミが少しでも疑問をさしはさむと徹底的にチェツクして弾圧している。中に はマスコミの幹部に体制に擦り寄り安倍自民のお先棒を担ぐ連中が相次いでいる。

 私は新潟県知事と東電社長のやりとりを見ていて、はっと驚いた。戦後日本は、憲法 9条に守られて、ここまでおってきた。しかし、日本資本主義は、アメリカとの従属的 同盟を続けていて、ついに資本家階級は自らの利権を獲得するために、戦争準備体制の 経済政策と軍事態勢政策とに踏み切った。古典的な労働者階級は大衆社会論と大衆社会現象の1960年代に変化して中間層が拡大した。
 社会学者で哲学者の芝田進午氏は、資本と労働の対立が解消したのではなく、生産の社会化によって、より労働者階級がいままでの中間層にまで拡大して、「精神的労働」をになう中間層の労働者階級化を実証的に調べ理論化し、双書「現代の精神的労働」を世に問い続けた。
 現在の自民党を支持する国民の実際の人数は、国会議員の比率ほどはいないことが 言われている。憲法違反の選挙制度やマスコミ操作の大衆心理対策によって、いまの 自民党政権の見せかけの姿がある。
 まさに、原発事故後の首相官邸前で毎週金曜日にいまも続く首都脱原発連合主催の 抗議行動は新たな段階の階級闘争の核時代における様相と言って過言ではあるまい。
 自民党・維新の会・みんなの党は、憲法96条を改定しようとする改憲勢力である。 これらの政党は、新自由主義という共通の政策イデオロギーをもっている。また、み んなの党はまだしも、自民党と維新の会は排外主義と国粋主義という点で、基盤は共 通である。いま政権は自公政権だが、安倍総理は公明党よりも維新やみんなの党と組 みたがっている。公明党は支持基盤創価学会の教義の問題で、政権政党を離れて野党 になると、権力による介入を怖れて自民党と連立を続けている。公明党は新自由主義 でなく、支持基盤も資本家ではなく勤労者・労働者が主である 。
 今後、新たな階級闘争としての、経済搾取、偏狭な排外主義、人権無視の国民生活 破壊政策が続くと、ど うなるか。日本共産党は都議選で倍増の八議席から十七議席へ と躍進した。この背後に、日本における資本主義の変貌と労働者階級の窮乏生活から 生まれた共産党への支持が増えたと見られる。はじめに述べた共同通信の調査では、 共産党は議席をほぼ堅持しても他のリベラルな政党は不調と述べられている。けれど 安倍自民党を仮面とする独占資本と背後のアメリカ反動層が無理難題をおしつけ、 いっそう国民生活にしわ寄せを強めていくと、中間政党の間で自民党寄りとリベラル 派と分化していく。みんなの党は、独自性を強調しながらも結局は、自民・維新と共 闘していくだろう。社民・生活の党・みどりの風・日本未来の党・緑の党は、リベラ ル派として結集していくのではないか。 民主党は内部があまりに両極端に分かれてい る。参院選の結果では、分裂再編の段階を迎えるだろう。民主党は、しかし政権交代 前後から宮本太郎氏や湯浅誠氏、下村健一氏らが協力している。前原氏や野田氏、岡 田氏ら、「松下政経塾」のOBはリベラル派結集とは相容れない。むしろみんなの党 に近いだろう。
 現代における階級闘争は、過去の階級闘争と全く様相を異にしている。国際的な視野 を広げると、アフリカや南米など民族問題や宗教問題を絡めて自立しようとする国家に アメリカなどが複雑に絡んでいる。ロシアや中国が社会主義とは言えない現在、アメリ カ財界のタカ派が世界中を席巻している。日本においては、アメリカ支配層タカ派の強 力な介入のもと、共同して日本国民から搾取と収奪を強め、日本財界とアメリカ支配層 の利益を潤そうとし続けている。日本の自立には、アメリカの核兵器の恫喝と日米地位 協定以来の従属化政策が強固である。それにしても、日本の困難打開が、国境を越えた 階級闘争の困難さと捉えると、事態はよりクリアに見えてくる。そのための対 抗戦略は 我慢強く持続的で共闘に向けて開かれたものでなければ成立しがたい。
 また、マスコミの中でも良心的言論人やマスコミ労働者もいることを信じたい。さら に、国民がそれらの言論陣を応援しつづけたい。さらに、真実を伝えようとする新聞社 や出版社を支持しつづけたい。
 すでに統制されたマスコミにより、断続的に自民圧勝、他党敗北などの情報が流され 続けているがそれはいわばマインドコントロールである。目の前の候補者の誠実な訴え に耳を傾け目を広げ、自分の足元から一票一揆を実現しよう。日本共産党は、都議選で 倍増した。一点だけでも希望は拓けた。今後は護憲脱原発のリベラル勢力の結集と、共 産党がその意義に視野を広げて、現代階級闘争は統一戦線運動でなければ、最終的勝利は臨めないことを政策と党風に獲得していただきたい。