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「現状分析と対抗戦略」討論欄

新聞社テレビ局を恫喝する安倍総理の飴と鞭

2014/12/7 櫻井智志

 2014年12月6日の東京新聞『こちら特報部』は、自民党が「公正中立な報道」を求める文書を在京各局につきつけた事実を丁寧に報道している。

 「安倍首相のメディアコントロール」は凄まじい。首相の動静を見ると、テレビ局や全国紙のトップとの会食、ゴルフが頻繁に登場する。その一方で、自民党は2013年参院選の最中、TBSの報道番組「NEWS23」の内容が公正さを欠いたとして同局への党幹部の出演を一時拒否した。私はこの番組を見ている。司会者は各党に公平に発言時間を正確に分配し、総理だからといって恣意的独断的な発言には、その旨を伝えたが内容では公正であり、自民党の対応は尋常を逸している。自民党のいう「公正さ」とは、自民党優先であることを意味している。

 こうしたアメとムチの使い分けが続き、ボディブローのようにじわじわと効いて、テレビ局の衆院選報道は安倍首相の思うがままに操作されてきた。

 自民党は衆院解散前日の11月20日付で「選挙時期における報道の公正中立ならびに公正の確保についてのお願い」と題する文書を在京のキー局の編成局長と報道局長あてに出した。出演者の発言回数や時間、ゲスト出演者などの選定が一方に偏ることがないよう要求している。公共放送のNHKは、従来から政権寄りと批判されてきた。民報も総務省の放送免許を5年ごとに更新しなければならず、政権与党=安倍自公政権の圧力にさらされている。国民は、報道機関の姿勢を批判するとともに、安倍自公政権がこのように日常的に放送に介入していることを忘れてはならない。

 テレビ朝日が11月29日、衆院選をテーマに放送した討論番組「朝まで生テレビ」は、テレビ局が安倍政権の恫喝で萎縮した事例と言えよう。評論家の荻上チキ氏らの出演が放送直前に中止され、番組のパネリストは政治家だけとなった。あるテレビ局関係者はこう明かす。「出演中止は、報道局幹部の判断と聞いている。政治家以外の人間が入ると議論がコントロールでくなくなり、不規則発言が出てしまう恐れがある。そのリスクを避けたいために出演を中止した」。

 萎縮とも受け取れる現象はこれだけではない。安倍首相が名付けた「アベノミクス解散」に追随するかのように、争点を経済政策に絞ろうとする意図が見え隠れする。集団的自衛権の行使容認や特定秘密保護法など、世論の反対が根強いテーマは後回しにされている。元日本テレビディレクターの水島宏明法政大教授(メディア論)は「前回の2012衆院選では、朝の情報番組も特集を組み、放送界で最も栄誉があるとされるギャラクシー賞の月間賞に選ばれていた。今回は目立つ番組はあまりない。テレビの選挙報道は不調だ」と嘆く。

 放送ジャーナリストの小田桐誠氏は「自民党の文書は、制作現場に陰に陽に影響している。スタッフの萎縮につながっている」と危ぶむ。いま、自公与党に圧倒的な国民の投票が噂され、期日前投票でも必ず出口調査員がついていて、その情報自体が国民コントロールと与党政党への終盤戦戦略に使われていることが容易に予想される。しかし、自公圧勝はテレビ局への恫喝と放送免許更新の可否をちらつかせられたテレビ局も「見えない」被害者なのだ。

 しんぶん赤旗や動画を使った共産党テレビなど、独自の報道機関をもつことが、日本共産党の好調につながっている。生活の党や社民党などの護憲リベラルが精細を欠いているのは、テレビ局など報道機関がほとんどその主張をとりあっかっていないことと無縁できない。マスコミに短時間のワンフレーズスポットを垂れ流し続けている自民党や公明党は、うわべだけの印象であまり自らが思考するよりは「みんなとおなじ」ことに重きをおく有権者の多数に影響を与え続けている。

 私たちは有権者を、日本国民を卑下したり見下すこと以上に、今まで見てきたように、いかに報道機関が安倍自公政権から統制されているかに目を向けるべきだ。安倍首相は消費税を国民の判断にゆだねたと詭弁を弄しているが、本音は違うだろう。閣僚の相次ぐ辞任やスキャンダルで政権維持が危なくなった自民党は、すべてチャラにして集団的自衛権、原発再稼働、秘密保護法などを「すべて」通す強権政治の復活を目論んでいる。そのためのテレビ局統制だが、自公与党政権の統制は、朝日などの新聞各社、インターネットの政治的規制などにも及んでいる。

 国民の無関心や自公与党への投票を、国民の無知と嘆く前に、これだけ安倍自公政権は報道機関を無残なほどに統制している事実を知るべきだ。野党で共産党支持者と野党統一支持派で泥試合の非難の応酬をすることは、安倍大仏の手のひらで踊る孫悟空野党のようなものだ。
 わかりやすく言おう。
戦時中の報道統制や大政翼賛会を懸念するかたがたは、「いま」が大政翼賛会報道としてミスリードする安倍自公政権によって、戦時報道体制そのものに入っていることと再認識した上で、政治認識すべきだ。12月10日から実施されている秘密保護法は、別名平成版治安維持法である。安倍政権に批判する者はことごとく公安警察のブラック・リストに掲載されていると自覚して間違いない。総選挙で自公与党に投票するとは、そのような隠された意味があると言えよう。