日本では、国連は役にたたないから、アメリカについていくしかない、我々は国連なしでやっていく、という勇ましい米国追随がはやっているが、もちろん、アメリカがどんなに大きな強い国であっても、世界と国連を無視してやっていくことなどできはしない。
イラク侵略をめぐっての国連決議問題は、具体的には、対イラク経済制裁解除問題となってあらわれている。もし、石油の輸出を禁ずる経済制裁が解除されないなら、アメリカないしはその力に支えられて成り立つ政権は、石油を売って、そのあがりを運営費にあてることができない。(もっとも、仏独露等への債務返還にもあてなければならない。日本は英米の仲間なのに血を流していないのだから、当然、苦しくとも債権は放棄して英米に協力しなければならないが、実際にはそうもできないようだ。)
ブッシュ米政権は対イラク経済制裁の解除について、安保理各国の同意を取り付けるため、原油の輸出を当初は国連の管理下に残し、幾つかの決議で段階的に解除する案を検討しているということだが、その一生懸命さは、米英日の占領は石油のお金がないとやっていけない、ということを示している。(もし、朝鮮を同様に占領してしまったら、その占領(=「復興」)の費用はどうやって調達したらいいのだろうか。利害の深い、日本が第一に出せばいいということに当然なるだろうが、これはまた別の話である。)
さて、この悪名高い経済制裁は、反対意見がある中を、強引にアメリカが主張してやり続けてきたものである。さすがに、戦国時代の一村なで切りの兵糧攻めそのままの非人道性に気がひけたか、「石油・食料交換計画」の特別措置なるものが実行されて、いささかの石油を食料と交換することがイラクに許されていた。
この経済制裁解除の条件だが、安保理決議では、イラクの大量破壊兵器の廃棄が確認された時、制裁を停止できることになっている。国連査察委員会がイラクに入って、廃棄を確認する必要がある。だが、もし、今入って、ないということになったら、そもそも大量破壊兵器は廃棄済みだったという、イラク共和国側の主張が正しかったことになる。アメリカの侵略であることが確定してしまうのだ。
だから、アメリカとしては探し続けるしかないのだが、見つかったとしても、最低でも国連査察委員会がそれを確認する必要がある。査察委員会委員長は、開戦前米英が対イラク攻撃を正当化するために持ちだした機密情報がでっちあげであったものだから、米英の言葉は信じられない、としている。
だが、大量破壊兵器がみつからないといっても、いつまでもそうしていて、経済制裁が解除されなければアメリカは困る。24日の報道によれば、北部油田から、数日内にイラク最大の製油所であるバイジ製油所向けの日量6万バレルの石油が生産されるようになるからだ。それを売るには、一刻も早く経済制裁を解除させなければならない。それで、はじめに述べたような、査察や大量破壊兵器問題をそっちのけにして、とにかく制裁を解除させようとしているのだ。
もし、アメリカのこの案が通ると、アメリカ支配の現状が国連によって追認されたということになる。アメリカとの関係修復をねらうフランスはこの案にすり寄った。
で、現状であるが、とりあえず、24日安保理は、イラクの人道援助活動継続のため、「石油・食料交換計画」の契約執行権限をアナン事務総長に与えた決議1472を6月3日まで延長することを決定。米国もこれには賛成した。つまりは、まだ、今までの状態が延長されているということだ。
アメリカ大使は「制裁をできる限り早く終結させるべきだ」と強調、制裁解除に関する決議案を近く安保理に提示する方針を示している。
フランス、ドイツ、ロシアも早期の制裁解除が国民生活の復興のために必要であるということで、アメリカに近づこうとしている。だから、今はまだ何一つ追認されてはいないが、その妥協の仕方によっては、そうなる可能性はある。
大量破壊兵器問題はアメリカのネックになっている。産経新聞の盟友夕刊フジは、「開戦数日前に大量破壊兵器が処分された模様」、と言う主旨を大見出しで書いているが、仮にこれがほんとうだったら、戦争開始以前に廃棄されていたことになり、アメリカの戦争の正当性はない。もし、「48時間以内にイラク共和国の大統領はイラクから出ていけ。でないと攻撃する」と言ったアメリカが、期限がきてすぐにフセイン暗殺ミサイルをとばすのではなく、ゆっくり準備をしていて、その間にイラクが「ないといってましたが、実はありました。でも大量破壊兵器はすべて処分しましたから、どうぞ、査察してください。」と言ったらどうしたのだろう。
米政府はイラクがマスタードガス、サリンなどを含めた生物・化学兵器やスカッド・ミサイルをまだ大量に廃棄せずに保有していると主張しているのだけれど、それは4日とかの短時日でそもそも廃棄できるような量ではない。