JR新宿駅南口から東口側に降りる階段の下は広場になっていて、宣伝販売や、路上音楽演奏などがよく行われる場所である。その日夕方通りかかると、四五人の黒い布をかぶった一団が小さな円陣を組んで立っていた。手には白いボードになにやら字がかかれているものを持っている。見ると、それぞれのボードには
軍の力で誰の安全が守られるの?
私たちの沈黙は沈黙を破る
私たちの沈黙は戦士たちの言説をはねのける
自由にものが言えず、権力者による秩序が支配する国。
それはどこかだけの話?
とある。何一つ演説するでなく、ただそれを持ったまま黙ってじっと立っているのである。
僕は、そのうちの一人だけ、顔を出している男性に写真撮影の許可を頼んでみた。男性は他のメンバーに聞いて、よいと言ってくれた。けっこう街の明かりはあるのだが、頭から黒い布で自分をおおった姿は僕のデジカメではただ暗いだけでよく映らなかった。四角いボードと文字は浮き出てはっきりと映っていた。
その時もらったチラシにはこんなことが書いてあった。
Women in Black
軍事化と暴力に対する、黒衣と沈黙による抗議
「安全保障」の名の下に、監視し、管理し、
市民生活の自由と、民主主義を侵す有事法制を
認めてはならない。
恐怖に根ざした力による秩序ではなく、対話を求める。
私たちは、暴力を生み出す国家や社会のあり方そのものに異議を唱えます。私たちの生きるこの社会と歴史のなかに深く埋め込まれている、恐怖による沈黙、力による支配に対して、声をあげます。
Women in Black(黒衣の女たち)は、「1988年にイスラエルで始まった戦争と暴力への抗議行動」で、世界各国に広がっている。