イラク戦争討論欄だが、女子学生の自爆テロに関わって、パレスチナの「教育」に触れた投稿があったので、ある記事を紹介したい。ピーター・ハンセン「国連パレスチナ難民救済事業機関」事務局長の書いたもので、昨年10月19日の毎日新聞に載った。実は、タイトルはその時のものを、そのまま借りた。
「ロンドンの学校で、教師が登校できないという理由で一ヶ月にわたり、子どもが教育を受けられないという事態を想像してほしい。パリの学校で、フランス語の試験の合格者がたった1年で、全体の71%から38%に急落するとしたら、親たちがどんなに悩み、憤慨するだろうか。さらに子供たちが毎朝、軍隊の検問所や戦車の前を通り、恐怖のため精神的な後遺症を抱く姿を、あなたの子供に置き換えて考えてみてほしい。
この悪夢は、パレスチナ自治区のヨルダン川西岸とガザ地区の子供、教師、親たちが直面する現実なのである」(念のために言う。「パレスチナ自治区」でパレスチナ人を検問をするのは、もちろんイスラエルの軍隊である。)
こんな状況に対して、「教育が間違っている」から、自爆テロが起こるなどと非難することができようか。前の投稿で紹介したあのジェニン難民キャンプの少女ニスリーンは、イスラエル軍の侵攻(と破壊)、外出禁止令で、学校に行くことができず、たまたま行った別の学校で、内容についていけなく、「単語が一つもわからないなんて」と教師に言われて泣いていた(昨年のNHK「アジア人間街道」。タイトルはたしか「ジェニンの子どもたち」)。精神的なトラウマを抱えた子供たちによる教師襲撃事件なども報告されている。自治区といっても西岸の場合、完全な自治区(Aゾーン)は2割程度ではなかったか。入植地やイスラエル人専用道路によって、ずたずたに分断され、いつでも徹底的に封鎖されたり、外出禁止令が出される。自治区が独立した統一体をなしえないこんな状況で、ただただ、まずテロ取り締まれが先だ、というのは、どう考えても順序が逆だと思う。イスラエル紙「ハアレツ」の女性記者アミラ・ハスが、土居敏邦さんの問いに答えて「オスロ合意が破綻したのは、占領をそのままに和平が達成されるかのような幻想をイスラエル国民が抱いていたからだ」という主旨(記憶で再現)の発言をしていたが、その方が真実に近いのではないか。オスロ合意以後も「入植地建設」のペースが落ちていたわけではなく、パレスチナ人の追い立てがなくなっていたのでもないのだから。(だからこそ、アメリカの女子学生レイチェル・コリンさんは殺されなければならなかった。)
ピーター・ハンセン氏は最後に、「パレスチナの次の世代の将来への権利を奪うことで、イスラエルの安全保障が確保されるとはどうしても思えない」と記事を結んでいる。
小さくても、声を上げることで、パレスチナ人が見捨てられた存在ではないことを知らしめたいものだと思う。「ロード・マップ」をめぐる問題もどこに行き着くのか、関心をいだきつづけたい。