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「イラク戦争」討論欄

リンチの件

2003/8/11 ecologos、30代、自由業

 「ジェシカ・リンチがなぜヒーロー?」でわたしは、単に「疑惑の」救出劇と表現しましたが、以下の転載のように、「プロパガンダの」とはっきりいうべきでした:

【リンチ上等兵を救え! 戦争とプロパガンダ】週刊金曜日

投稿者 TUP速報 日時 2003 年 6 月 22 日 09:52:23:DlnF7rlwhj5Xo

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                   世界の環境ホットニュース(GEN)号 外
                     転載歓迎 03年6月22日・別処珠樹
リンチ上等兵を救え! 戦争とプロパガンダ
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以下は週刊金曜日の6月6日号からの転載です。転載の許可をもらっています。

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                   安濃一樹
              ヤパーナ社会フォーラム
   http://www.kcn.ne.jp/~gauss/jsf/index.html

4月2日午前3時、カタールに派遣されていた各国の記者たちは、中央司令本部からの電話で目を覚まされた。もしやサダム・フセインが捕まったのでは、と考えた記者がいたのも無理はない。

つめかけた記者たちを前に、ビンセント・ブルックス准将が、米兵の救出に成功したと告げた。イラク軍の捕虜となっていたのは第507整備補給部中隊のジェシカ・リンチ上等兵だという。9日前に中隊が襲撃を受け、行方不明になっていた兵士の一人だ。下級兵はみな若い。ジェシカは19才だった。

午後、ビデオが公開された。特殊部隊による深夜作戦、イラク軍との激しい銃撃戦、決死の突入を試みる兵士たち、救出された彼女を運ぶヘリコプター。ビデオが終わると、画面に彼女の写真が映し出された。傷ついたジェシカの胸に星条旗がかけられていた。

戦争が始まってから、メディアがずっと待ち望んでいた「明るい」ニュースは全米に伝えられた。しかし、ジェシカ・リンチの名声を決定的にしたのは、米ワシントンポスト紙の第二報である。三日、同紙は「彼女は死を覚悟して戦いつづけた」という見出しで、次のように報じた。

 ──彼女は、銃弾がつきるまで勇敢に戦い、数人の敵を撃ち倒した。・・・仲間たちが死んでいく。敵の銃弾に撃たれ、傷を負いながらも、彼女は銃を撃ちつづけた。

 ──死ぬまで戦うつもりだった。生きて捕虜となることを望まなかったからだ。

抵抗をする彼女をイラク兵がナイフで刺した、とも伝えている。記事は世界中を駆けめぐり、ジェシカは「戦場のヒロイン」となった。

だが同日、この戦争ドラマに疑いが投げかけられる。ポスト紙の報道から数時間後、ジェシカが収容された米軍病院の軍医が、上等兵は骨折しているけれど、銃で撃たれた傷もナイフで刺された跡もないとコメントした(4日、APほか)。

やがて,彼女が「監禁」されていたナシリアの病院が取材されるこことになる。
加トロントスター紙(5月5日)などの報道によると、イラク人の医師たちは、戦時下の病院にできる限りの治療を施していた。リンチ上等兵は、攻撃を受けて車両が転倒した際に、片腕と大腿骨を骨折し、足首を脱臼していたという。担当となった看護婦は、早くアメリカに帰りたいと訴える彼女を励ましつづけた。米ニューズウイーク誌(4月14日号「ジェシカの解放」)が伝えたような虐待などなかった。フォックス・ニュースが示唆した拷問もなかった。

病院は、ラムズフェルド長官(4月3日、国防省会見)がいうような軍事施設ではないし、イラク兵たちは、特殊部隊が「救出」にくる前に、街から姿を消していた。ビデオの戦闘場面は米軍の一人芝居だったことになる。

深夜の奇襲で、病院の関係者も患者もみんな驚き、恐怖を感じることになった。
英BBCニュース(5月15日)によると、医師のひとりが次の証言している。

 ──まるでハリウッド映画のようでした。兵士たちは、GO! GO! GO!と叫びながら空砲を撃っていた。実弾ではありません。銃声と爆発の音。米軍が病院を襲撃するというシーンが演じられた。シルベスター・スタローンやジャッキー・チェンのアクション映画と同じです。

BBCニュースが確認できた複数の証言によると、医師たちはリンチ上等兵のことを米軍に通報していたし、検問地点の部隊までジェシカを送り届けようとさえした。だが、彼女を乗せた救急車は米軍の銃撃によって追い返されている。救出作戦が敢行される二日前のことだった。

5月18日、BBCテレビが、現地での調査に基づき、救出劇はペンタゴンによるプロパガンダだったと結論した。特別番組のタイトルは「戦争のスピン」である。スピンとは「情報操作」と訳されることが多いけれど、本来は「適当な作り話をして人を煙に巻いてしまうこと」を意味する。報道対策の専門官はスピン・ドクターと呼ばれている。

3月の末、ブッシュ政権は追い詰められていた。経済制裁のために弱り果てた貧困国の軍隊が執拗な抵抗を見せた。米軍は何度もパニックに陥ったし、兵士は疲れていた。作戦が批判された。「誤爆」や「誤射」が追求されもした。ジェシカ救出劇は絶好のスピンとなった。

BBCによる綿密な調査報道の後でも、米NBCテレビが救出劇をテレビ映画にする予定に変わりはない。ハリウッドでは、映画化の権利をめぐり激しい争奪戦が続いている。

虐待されていたリンチ上等兵を救うために、命がけで米軍に情報を伝えたイラク人がいたが(四月四日、ポスト紙「イラク人男性、すべてを賭けて米兵を救う」)、妻子と共にアメリカへ亡命を果たしている。軍産関係の仕事も決まり、体験談の出版権に50万ドルの値がついた(5月20日、LAタイムズ紙)。いま彼は一切の取材やインタビューを拒絶している。

ジェシカが証言すれば、真実は明らかになだろう。しかし、軍医によると、上等兵は襲撃されてからの記憶を失っている(5月15日、英ガーディアン紙など)。記憶はもう戻らないかもしれないという。

5月19日、BBCテレビの調査報告を受けて、ペンタゴンの報道官ブライアン・ホイットマンが、リンチ上等兵の救出は演出されたものだという批判は すべて「事実無根であり、まったく馬鹿げている」とコメントした。メディアを席巻した憶測記事については、ペンタゴンが情報源ではないという(5月20日、BBCニュースほか)。

スピンの技術はすでの確立したもので、真実が明るみに出たとしても、致命傷とはならない。全面否定するというスピンがある。責任をよそへ回すというという手もある。市民の注意や関心を他へ向けるというスピンもある。どうにも無理が利かなくなれば、何もなかったことにすればいい。

イラク侵略のために、数限りない スピンが 繰り広げられた。「大量破壊兵器」「解放」「民主化」。みんな嘘(うそ)だと明らかになっても、ブッシュとタカ 派たちは切り抜けて見せるつもりだ。そのために最強のスピンが用意されている。
新たな戦争である。