投稿する トップページ ヘルプ

「イラク戦争」討論欄

なすべきことは何か(N.Kさんへ)

2003/9/3 さつき、40代

以下に、私がこれまで言及してこなかった点について補足し、最後に簡単なまとめをします。

>いったいその「思想」の内実とは何ですか。<イラクにおける国連本部職員を殺傷するテロを非難できない(すべきでない)けれどテロをなくす思想>?!

 私はテロ一般を非難すべきでないとは一言も書いていません。また私は、「テロをなくす思想」とも書いていません。凄惨なテロが起こった事自体は悲しむべきと思っているが、しかし自分自身にはテロリストを単純に非難する資格はないとも思っている。そのことをもって「テロ容認」と呼ばれるのなら、その言葉は甘んじて受けましょう。しかし、「テロを非難する、容認できない」と傍観者的に感想をのべるだけだったら、それは実質的には「容認」の立場となんら変わりません。したがって、最も重要なのは、容認する、しないにかかわらず、では具体的にどうするのか、あるいはどのような政策を支持するのかという点です。一般論として、テロに対して執られる政策は以下の3つの立場のものに分類できるでしょう。

(1)テロリストの要求線上での対決を強める立場(強攻策)。圧倒的武力を背景にテロによって目的が達成されることは決してないという強い意志を示すことで、後続のテロを断念させる効果を狙う。そのために、もともとテロリストの憎悪の対象となった行為(政策)を合理化し、さらに押し進め、「テロ支援国家」に対する先制攻撃をも行う。テロリストの要求が「アメリカはイラクから出て行け」だったら、それと対決してアメリカがイラクに居座ることを支持し、増派もする。アメリカが伝統的にとり続けてきた政策で、「テロリストの脅迫に屈してはならない」がスローガン。

(2)テロリストの要求とは無関係に、主として警察力によるテロ取り締りを強化する立場(防衛的対処療法)。テロ発生の根本的な原因が取り除かれない限り永遠に続けなければならない。また、この政策の変更自体がテロリストの要求である場合には(1)と同じ事になる。実際に現在のイラクではテロ取り締まりは米英軍に頼らざるを得ないが、米英軍の行為自体がテロを誘発したとすれば、テロ取り締まりの強化という政策は、少なくともテロリストにとっては(1)と区別できないことになる。

(3)テロが起こる根本原因を取り除こうとする立場(根本治療)。テロを誘発する行為をなしてきた「圧倒的強者」の責任を問い、ペナルティを課し、彼らに戦略変更を迫る。これはテロリストの要求と重なる場合が多く、もしこの政策が個々のテロが起こった事に逐一対応して執られるなら「テロへの屈服」と非難され、また、テロを誘発することにもなりかねない。本来、個々のテロとは無関係に不断に追求されていなければその意味は薄れる性質のものである。

理論的には「テロリストを積極的に支援する立場」もあり得ますが、それは私達の間での議論には無関係なので含めていません。上記の中で(1)と(2)は並立し、(2)と(3)は条件次第で並立可能で、(1)と(3)は正反対なので並立不可です。さて、「テロを容認しない」と主張して、ではどうするかと問われた時に、言葉の性格上(論理上)あげることが期待される政策は上記の(1)か(2)です。(3)は「テロへの屈服政策」ですから、テロが起こったことに対してそれを非難するという立場から執られるべき政策とは言えず、先の問いとは独立にあげねばなりません。条件次第では(2)と(3)は並立可能であるけれども、「テロを非難する、テロは容認できない、だから・・・」の後に続けて言うべき政策としては(3)は含まれないという意味です。 この点に関連してN.Kさんは、

>その事態を招いた米英連合軍の責任を問うことと、無辜の人間を殺傷することをテロを非難することは矛盾しませんし、両方必要なのです。

と書かれています。この前半は(3)に含まれる事として由としても、後半の「テロを非難すること」とは、具体的にどうすることなのでしょうか? この事を問うたのが、私の8/29の投稿の4つの質問でした。私の質問の趣旨が理解されていなかったようなので再度の回答を期待するとして、いくつか補足します。

>1)<「テロ(米本国での可能性)による脅迫」とは、具体的にどんな脅迫なのでしょうか?>という点ですが、アルカイダ等のテロリストが9.11のようなテロを行うと繰り返し脅迫していることはご存知でしょう。そのようなテロもあなたは容認するのかもしれませんが。

 「具体的にどんな脅迫か」と問うたのは、テロリストの要求は何なのか、報復だとしたら何に対する報復なのかという意味です。私は、その要求内容を殆どのアメリカ人も日本人も理解していないと思っています。私にも正確にはわかりません。それは、世界が彼らの要求を理解しようとする努力を怠ってきたからだと思っています。しかし、N.Kさんは「米英国民の中にも日本などよりよっぽど強く、米英政府の「その戦略は間違っている」とする声がありますが、・・・」と書かれたので、多分私のような日本人よりよほどマシなそのアメリカ人の考えを代弁して頂けるものと期待して書いたのです。

>3)また私たちがどうしたらよいのかは、まず非戦闘員や一般市民へのテロを断固として許さないという地点に立たなければ話になりません。

 これは「イラク国内での「テロを容認しない」として、では、具体的に私達はどうしたら良いのでしょうか?」という私の質問への返答ですが、私が問いたかったのは「テロを断固として許さないという地点に立たつ」として、では、具体的にどうしたら良いのか、どのような政策を支持したら良いのかということです。

 私の質問の趣旨を理解された上で、もし付け加える事がありましたらお願いします。最後に、私の主張のまとめをしておきます。

 「テロを非難すべきだ、容認しない、断固として許さない」と威勢のいい事を言った後で、では具体的にどうするのかと問われたら、(言葉の論理の上で当然ながら)その後に続けて言うべき政策の選択肢の中からは、前掲(3)の視点が後方へ追いやられてしまいます。結局(1)か(2)を主張するしかなくなる訳です。

>非戦闘員を殺傷するテロが、イラクにおける<法の支配>をますます不可能にしていき、無秩序と人権侵害を横行させていくことは明らかでしょう。
>尚、昨日には今度はモスクに対するテロによって、シーア派指導者や市民が少なくとも数十人が殺されました。このようなテロが、イラクの民衆をさらに苦しめていくわけです。

 だからこそ、本気でこの世界からテロを無くす努力をしなければなりません。ではどうしたら良いのでしょう。前掲(1)や(2)を実行する事でテロは無くなるでしょうか? 私は違うと思います。世界はこれまでそうしてきた筈なのにテロはかえって増えています。何故でしょうか? 最大のテロ国家アメリカの横暴を「容認」したまま、弱者のテロだけは「容認できない」と、それを「取り締まる」ことばかりに夢中になってきたからではありませんか? 例えば劣化ウラン弾と称する高レベル核廃棄物をイラク市民の頭上にばらまくという、国際法に反する犯罪を犯したアメリカを「核査察」せずにおいて、イラクに対する無意味な「核査察」を強行するような「国際機関(IAEA)」の欺瞞さえも見抜けぬ程に腐りきった、「安泰な世界の小市民」の倫理崩壊の連鎖反応が、世界そのものを腐らせつつあるのではありませんか?
 そのダブルスタンダードに気付くということは、私たち自身が強者の犯罪に手を染めているという自覚を得ることと等価です。その自覚の元に根本的な解決への方策が優先して執られない限り、この世から絶対に、永遠にテロは無くならないし、かえって増え続けるでしょう。「テロを断固として許さないという地点に立たつ」と声高に叫ぶことからは、前掲(3)の政策をまず優先しなければならないという視点は生まれません。一方でN.Kさんは、この(3)の政策を大切に考えておいでの様子なので、その矛盾を指して「テロを容認しない思想という表現は空虚」だと書いたのです。