ヒューマンな心を失った者に革命を語ってほしくはない。また、民族解放闘争は怨 恨や復讐とは次元を異にするものだ。いかなる革命や民族解放の大義も、ヒューマニ ズムの倫理を欠いたときは敵権力と同じグロテスクなものに転化する。「目的は手段 を聖化する」という思想は権力者の思想ではあっても、解放運動の思想からは永久に 放逐すべきである。
9.11テロで、世界貿易センタービル内の勤労者や突入したジャンボジェット機の乗 客の犠牲に衝撃を受け、テロを引き起こした者に強い憤りを感じるのは人間として当 然のことだ。そう素直に感じない人、あるいはアクション映画の観客のように喝采さ え送る人は、どんな理屈を述べ立てても根本的に人間性に欠けている。イスラエルの 一般市民を狙った自爆テロを擁護する人も同じことだ。
ブッシュやシャロンが同じことをやっていると反論するのは、自らが彼らと同じ倫 理的次元にあることを自白するものでしかない。また、無差別殺人でなく被害者は 「支配的エリート」だという人は、「反革命」というレッテルを恣意的に貼って市民 を大量に粛正したスターリンやポルポトと同じ精神構造である。こうしたことを堂々 と書ける感性の持ち主には、ほんの少しの権力すら持ってもらいたくはないと私は思 う。
テロの「背景」やテロリストの「心情」がたとえどんなものであっても、情状弁護 によって「無罪」を主張できるわけではない。
一般市民を狙うテロは、ブッシュのアフガンやイラクへの空爆と、あるいは広島・ 長崎の原爆投下や東京・大阪の大空襲と全く同じ非人間的行為だ。一方が非難される なら、他方も当然に非難されるべきである。