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「イラク戦争」討論欄

当たり前のこと?(democratさんへ)

2003/9/29 さつき、40代

>無辜の人を殺してはならない。一般市民を殺すべきではない。-こんな当たり前のことをなぜ議論しなければならないのか。

もう一度、私の主張の根幹を示しますので、それへの批判をお願いします。

>犯人が特定されているのに、その犯罪者が野放しになっているどころか、なお次の犯罪に手を染めようとさえしている。しかも、それを誰もとがめようとせず、実際に犯人が罰せられる見込みは皆無である。そんな状況で(私的報復を実行しようとしている)被害者をどう説得せよと言うのですか? しかも被害者から見れば、私たちは犯罪に手をかしている一味でさへあるのです。汚れた手をして、口だけは達者に被害者に向けて「ヒューマニズム」を説くその語り手に、真のヒューマニズムが備わっていると言えるでしょうか? ( )内は追加補足

democratさんは、巻き添えになった「一般市民」を「無辜の人」と表現されるが、それは身勝手な判断ではないかという疑問が私の出発点です。民主主義国家であるなら主権者は一般国民です。ならば、国家が冒す犯罪の「決定者、指揮命令者」は一般国民ではないのか? という疑問です。

一部の国・地域を略奪・搾取によって19世紀的状況に押し込めておきならが、自らは21世紀を謳歌している身で、彼らの冒す「犯罪」に「20世紀の教訓」でバッサリと斬りつける、そうした発想がヒューマニズムであると説かれても、私にはとんとわかりません。democratさんから見れば「当たり前のこと」さへわからぬ私のような者の疑問に応えることは無意味だとお考えかもしれませんが、どうかよろしくお願いします。

以下は訂正・お詫び、補足などです。

>本多勝一の非難する「けんか両成敗論」は、市民に対するテロではなく、米兵に対する攻撃について書かれたものです。彼があなたのように「看守長を選んだ選挙民」(一般市民)へのテロを正当化している文章があったら、どうか示してください。

確かに引用した本多さんの文章は、「米兵への狙撃」についての言及でした。これは私の早とちりで訂正します。また、本多勝一さんには、不正確な引用をした事をお詫びします。
なお、

>広島・長崎の原爆投下は、日本陸軍がアジアで残虐行為を行ったから非難できないのか?

についてですが、
例えば、広島平和記念資料館の展示・解説は、当然ですが、戦争と原爆の悲惨さを訴え、核廃絶と真の平和構築の希望へとつなぐ構成となっています。しかし、注意深く観ればわかるように、「一般市民」を無差別に殺戮した一点をもって原爆を落とした米国を非難する論調は、全くありません。展示コースは、軍都広島の成立過程とアジア諸国民に対する加害の歴史からスタートします。何度も訪れた経験から言うと、このような構成は最初からのものではありませんでした。その過程には、本多勝一さんが、大江健三郎さんを批判された視点などが反映されてきたとも言え、被爆者自身の長年の苦闘の末に築かれた現在の到達点なのです。本多さんは、「原爆の問題」に打ち込んできた大江さんをどう批判したのか? 40代以上の方なら良くご存知の筈です。中心的な話題は大江さんの「文芸春秋社」との関わりにあった訳ですが、その矛先は、大江さんの原爆を論じる視点へと及びました。

本多さんの編による『文筆生活の方法』に収録された「日本の反核・平和運動は加害者の視点を欠く」と題する本多さん自身の論考では、まず、アジアの民衆の立場からの「・・・あの原爆は日本の暴虐から抜け出る“光明”だった。日本軍は原爆の犠牲者の何十倍もの民衆をアジアで殺している。その自覚も反省もなく、反核・平和運動の連帯を唱えてもアジアの民衆は動かない」との声などを紹介し、では「どうしたらよいのか」、と続けて、「むしろ結論はわかっている。『反核』や『広島・長崎』や『反戦』を、被害者づらでは訴えないことだ。問題はその方法である。」として、「しかし、加害を被害と同レベルにするためには、言葉だけでは信用されない。単に双方並べて展示したり論じたりにとどまっていては、やはり説得力に限界がある。はっきりと態度としての証拠が見られなければならない。その最も説得力のある『証拠』こそが、ドイツやイタリアのような、自らの手による戦犯の追及なのだ。」(以下、略)と続けられています。

冒頭に再録した私の主張も同じ視点に立つものです。しかし、その本多勝一さんが、『週刊金曜日』のコラムで「米帝国による大規模なテロ」と、戦後の「米兵への狙撃」とを対置しながらテロの問題にコメントしているつもりになっているとしたら(焦点がそこにないとしても)無意味な論考と言わざるを得ません。

参考文献:
「核の大火と人間の声」大江健三郎著、岩波書店、ISBN:4000002961、(1982/01)
「文筆生活の方法」本多勝一編、晩聲社、ISBN:4891881593、(1986/12)