イラクでの治安が悪化し、11月29日には日本人外交官2人とイラク人運転手が殺害されました。そし
て、12月9日に、イラクへの自衛隊派遣が閣議決定されました。
「大量破壊兵器の査察」を口実とした米英のイラク侵略に関し、早い時期から石油利権の問題が
多々ご指摘されております。
それでは、フセイン政権崩壊後のイラクの治安悪化の要因は何でしょうか? フセイン政権崩壊後、秋
にはイラクは平和になっているから、イラク特措法を発動しても大丈夫だ、という議論がまかりとお
りました。しかし、それは、完全に裏切られました。何故でしょうか? それは、外国軍隊は点と線の
支配は何とかできても、民生面も含めた面の支配はできないということがまたまた実証されました。
(中国での旧日本軍、旧南ベトナムにおける米軍、アフガニスタンにおける旧ソ連軍など多数あげら
れます)
実は、フセイン政権がバグダッド近郊からの米英軍の攻撃にほとんど組織的抵抗がなく崩壊した理
由は、米軍のハイテク兵器のためではなく、イラク軍将校の買収だった、とされています。また貧困
に苦しむ、イラク人にとって、お金をくれるなら誰でもなびく可能性があった(ある?)らしいので
す。そのため、二重買収により、サダム・フセインを逃がした後、米軍の支配を受け入れた、という
説はかなり有力です。西アジアや北アフリカを旅行した日本人友人の話では、そもそも政府の権威は
日本のように高くなく、法律や秩序は賄賂しだい、という地域が少なくなかったそうです。
しかし、買収は継続的な生活維持を保障するわけではありません。また、アフガニスタンとは異な
り、米英軍寄りの政権受け皿地元勢力がありません。暫定統治機構は、米軍ブレマー氏しだいです。
そこで、米軍に買収され、なおかつ兵器を保持するイラク人元将校らは、かつての人間関係により、
簡単に小規模ながら組織的な反米テロリストになりうるわけです。
前述のように、どの国でも、軍隊は破壊は上手でも、建設は苦手です。したがって、フセイン政権
後、失職しかえって一層貧乏になったイラクの軍人たちは、米軍に背くのも簡単です。さらに、米軍
がイラク人中心に政府をつくろうとすればするほど、米軍の情報をイラク人に伝えざるをえない、と
いう矛盾が生じます。国連の事務所が爆破されデメロ代表が殺害されたのも、イラク人警備員からの
情報という有力な説があります。
それではどうすれば良いか? ここまでインフラ(人びとの生活基盤)と自尊心を傷つけてしまう
と、困難が一層高まります。もしかしたら、ソマリアやリベリアのようになってしまうかもしれませ
ん。しかも、石油資源が確実に埋蔵されている地域であり、諸勢力が食指を伸ばすでしょう。ですか
ら、大量破壊兵器阻止という名分が果たされなかった(そもそも、この10年間に無くなっていたかも
しれない兵器)として、まず米英軍が速やかで明確な期限を設けて撤退をすること、その期限に対応
し、派兵に批判的な露仏中の国連常任理事国およびEUでの大国ドイツ、インド、隣国でNATOを構成し
かつイスラム教徒が多いトルコ共和国(ただし、この国では政教分離が、歴史的に厳しく守られてい
ます)などが仲介にあたり、アラブ連盟などの支援で、可能な限り国連での対応の枠組みを造ることであろ
う、と思います。米英軍は失敗を素直に認めること、そうでないと、露、仏、中、シリア(非常任理
事国)は納得しないでしょう。
その点で、米軍と同盟し自衛隊という武装勢力を送ることを閣議決定した自民、公明両党だけでな
く、国連枠組みができればPKO法を緩和して自衛隊派遣を容認する民主党、駐留米軍の責任での治安
回復を訴える共産党赤嶺議員の見解は大変危険です。平和な形でイラク人を失業と貧困の状態から抜
け出させること、イラクの子どもたちに人間の信頼と平和や豊かな未来を実感できるようにするこ
と、すなわち、イラク人とその将来の世代が安心して生活でき自尊心を回復できる支援が必要なので
はないでしょうか。