3・20国際反戦共同行動が近づく中で、前から気になっていたことがあります。
それは先日投稿した「無差別テロを考える」でも少しふれたことなのですが、日本の
反戦運動の中でパレスチナ問題の認識が不十分ではないかということです。
そこでこの機会に私の懸念をもう少し説明させてもらおうと思います。
実は私がそのことを痛感したのはイラク攻撃前の国会で、総理大臣小泉純一郎氏
(私はこの人の知性と人間性をまったく評価しませんが、日本国民をだます才能だけ
はたいしたものだと思っています)が、米英軍のイラク攻撃を支持する理由として、
しきりにフセインの国連決議無視を挙げていたときです。
私が異常だと思ったのは、小泉氏が「イラクの国連決議無視」を繰り返していたと
き、私の知る限り日本の国会議員の誰も、それが「イスラエルの国連決議無視」とダ
ブルスタンダードを犯していることを指摘しなかったことです。国連ではシリアなど
がそれを強く糾弾していたのに。
よく知られていることとは思いますが、イスラエルは1948年のイスラエル建国
で生じたパレスチナ難民の帰還権を宣言した国連総会決議194号、1967年の第
三次中東戦争でイスラエルが占領した西岸・ガザ地区からの撤退を求めた安保理決議
242号などなど、故エドワード・サイード氏によれば少なくとも64もの国連決議
をことごとく無視してきました。
イラクの国連決議無視などイスラエルのそれに比べれば、ままごと遊びのようなも
のです。だからその事実の指摘は小泉氏の無恥の饒舌を黙らせるだけの力を持ってい
たはずです。しかし日本の国会議員たちは、ぼおっーとしたまま小泉氏の得意げな演
説を拝聴し続けていたのです。
私は当時、この日本の国会のおそるべき低レベルを規定しているのは、日本の国民
意識の低レベルであり、しいては反戦勢力の低レベルであると(もちろん自戒の意味
をこめて)思ったものでした。
それではなぜパレスチナ問題が現在の反戦運動の中で特に問題になるかといえば、
今度のイラク侵略というものが一過性のものではなく、世界の帝国主義的構造の一つ
の表れであり、その世界の帝国主義的構造の矛盾がもっとも露出しているのがパレス
チナ問題だからです。
世界の帝国主義的状況とは何か。
かってベトナムにおけるアメリカの戦争犯罪を裁く国際法廷を開いたバートランド・
ラッセルは、世界の富の60%を人口6%のアメリカ合衆国の、さらにごく一部(1%
程度)の特権階級が握っている現実に問題があると言いました。
私は30年以上前の高校生の時、私の在学していた高校でベトナム反戦の演説(た
わいのないものでしたが)を行ったとき、この数字を引用した記憶があります。そし
て今巷で評判になっている『世界がもし100人の村だったら』などを見ると、この
地球における富の寡占の数字的割合はほとんど30年前と変わっていないようです。
こういう富の寡占を維持するために、世界に展開するアメリカ軍や、IMF、WT
O、世界銀行などの組織があると思われます。そしてその帝国主義的構造の根幹をな
すのが、アメリカの中東地域(世界の石油資源の3分の2がそこにある)における絶
対的影響力だということは、今ではほとんどの人の目に明らかなことと思われます。
今回のイラク攻撃もその歴史的文脈の中で見られなければなりません。繰り返しま
すが一過性のものではないのです。
そしてアメリカの中東における絶対的影響力を保証するために、現地の代理勢力と
して存在してきたのがイスラエルでした(例えばナセルのアラブ民族主義をたたきつ
ぶしました)。アメリカがイスラエルのめちゃくちゃな所業をすべて容認してきた物
質的理由がそこにあります。
それゆえに「イスラエルのめちゃくちゃな所業」が問題となるパレスチナ問題こそ
が、「世界の帝国主義的構造」の矛盾の露頭している場所です。それゆえにそれを認
識する世界の反戦運動が、パレスチナにおけるイスラエルの占領を、今回のイラク占
領と並ぶ「もう一つの占領」として、(まったく正当に)位置づけているわけです。
近づいてきた3・20国際共同反戦行動の各国のサイトを見ると、イラク占領と同
時にパレスチナ占領にも反対するとしている組織が少なくありません。それに比べる
と日本でのパレスチナ占領に対する意識はまだまだ不十分です。
しかしこのことを深く認識することによって、日本の反戦運動も世界史的認識を獲
得し、よりポテンシャルエネルギーを高めることができるのではないでしょうか。