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「イラク戦争」討論欄

天邪鬼様へ(パレスチナ問題の12冊)

2004/3/31 勘太郎、50代、教師

 天邪鬼様からパレスチナ問題を考えるための基本図書を12冊ほど挙げるようにとのご要望がありました。
 私はパレスチナ問題について専門的知識を持つものではなく、また実践的にかかわってきたものでもありません(そのことに忸怩たる思いは持ち続けてきましたが)。しかしこの問題に若いときから関心を持ち続けてきたので、多少の知識と自分なりの考えもあります。
 それで私がパレスチナ問題について読んだ本で、印象に残った本を天邪鬼さんが言われたように12冊ほど挙げてみました。ここに挙げた本以外にも良書は多いと思います。あくまでも私個人の印象に残った本だということをお含み置きください。

(1)エリアス・サンバー『パレスチナー動乱の百年』創元社。
 これは別の投稿(パレスチナ問題に関する初歩的誤解)で書いたように、すばらしい入門書です。単なる入門書ではなく他の本にはない洞察も書かれており(例えばベングリオンがイスラエル建国にあたってアメリカ人にアメリカ建国を想起させる戦略を持っていたという指摘)、私は感嘆しながら読みました。

(2)広河隆一『パレスチナ・瓦礫の中のこどもたち』徳間文庫。
 日本人民がほこるべき写真家・ジャーナリスト広河隆一氏の写真集です。パレスチナ問題のオスロ合意までの通史もわかります。とりわけ1982のサブラ・シャティーラ難民キャンプの虐殺時に、広河氏がキャンプに決死の思いで潜入して撮った写真は衝撃的です。

(3)広河隆一『パレスチナ』岩波新書。
 もっとも手に入りやすい入門書でしょう。新版(赤)と旧版(黄)があり旧版は古書店でしか入手できません。広河氏がイスラエルにあこがれてキブツに入り、幻滅するところから話がはじまっています。

(4)土井敏邦『アメリカのユダヤ人』岩波新書。
 やはりパレスチナ問題を主題にされている土井敏邦氏のレポートです。イスラエルロビーがいかにアメリカ政界を牛耳っているかがわかります。一方では自分たちがパレスチナを占領することに対して反対している、すばらしい(と私は思う)ユダヤ人の存在も紹介されています。

(5)長野智子『ニュースの現場から』NTT出版。
 テレビ朝日のニュースキャスター長野智子さんの本で、前半がパレスチナのレポートです。パレスチナ人民の中で無差別テロ支持派と批判派がデモで衝突している様子や、パレスチナ少女の自爆テロで殺されたユダヤ人少女の母親のインタビューなど、他の本では見られない内容を含んでいます。すばらしいレポートだと私は思いました。

(6)ハナン・アシュライ『パレスチナ報道官・わが大地への愛』朝日新聞社。
 著者はビールゼート大学教授の女性文学者でオスロ合意後のパレスチナ政府の報道官でした。その後アラファトから離れて独自の運動をしています(MIFTAHで検索すればこの人のサイトを探すことができます)。オスロ合意の問題点が当事者の目でわかる本です。

(7)エドワード・サイード『パレスチナへ帰る』作品社。
 世界的に高名なパレスチナ出身の比較文学者エドワード・サイード氏(コロンビア大学教授)がオスロ合意後、イスラエルを訪れる旅行記です。オスロ合意後のパレスチナの悲惨とアラファト政権の腐敗が具体的にわかります。

(8)エドワード・サイード『ペンと剣』クレイン。
 インタビューによるサイード氏の学問への入門書なのですが、パレスチナ問題にも多くの紙幅が費やされています。サイード氏は国際的名声を持ったパレスチナ人として、パレスチナ問題にコミットしてきました。同書にはその間の事情が記され、特に1979年にサイード氏を介してアメリカから出された妥協案(オスロ合意などとは比較できない合理的なもの)をアラファトが一蹴したというエピソードなどは嘆息をさそうものがあります。私はこの本をパレスチナ問題に関する必読書の一つと思っています。

(9)エドワード・サイード『戦争とプロパガンダ』『戦争とプロパガンダ2』『イスラエル、イラク、アメリカ』『裏切られた民主主義』みすず書房。
 1冊ではなく4冊ですがサイード氏の時事評論を集めたものなので1冊と数えることにしました。これらの論考は本を購入しなくとも(本に収録されていないものまで)翻訳者・中野真紀子さんのホームページで見ることができます。読んでいると、パレスチナや他のアラブやイスラエルやアメリカの具体的な人脈までわかるようになります。

(10)イクバール・アフマド『帝国との対決』太田出版。
 サイード氏の親友だったパキスタン人政治学者イクバール・アフマド氏のインタビュー集です(お二人とも故人となられました)。パレスチナ問題だけでなく現在の世界の帝国主義の問題が幅広く論じられています。別の投稿(無差別テロを考える)でも書いたのですが、私にとってアフマド氏が60年代末からパレスチナ指導部に軍事偏重を批判し、イスラエル・アメリカ・国際世論への体系的なモラルキャンペーンを抵抗の主軸にすることを提起していたことは、ほんとうに衝撃的なことでした。そのことは本書で知ったのです。だから私は本書もパレスチナ問題に関する必読書だと思っています。

(11)ジョゼ・ボヴェ他『パレスチナ国際市民派遣団議長府防衛戦日記』太田出版。
 2002年春のシャロンによるアラファト政権に対する脅迫を阻止しようとする国際市民団による「人間の楯」運動の記録です。ジョゼ・ボヴェ氏は市場原理主義に反対するフランス農民運動の旗手として世界的に有名な人です。パレスチナ問題が国際民主主義にとっていかなるものかを考えさせる資料となるでしょう。

(12)テオドール・ヘルツル『ユダヤ人国家』叢書ウニベルシタス。
 19世紀末フランスで起こった大冤罪事件「ドレフュス事件」に触発されてシオニズム(ユダヤ人国家をパレスチナに建設しようという思想)が起こりました。本書はシオニズムを最初に提起した本で、シオニズムがヨーロッパ帝国主義の矛盾の産物だったことがわかります。シオニズムの創始者ヘルツルがユダヤ人国家建設地を必ずしもパレスチナに限定していなかったことも(解説書の多くにはそうは書いてなかった)私は本書を読んではじめて知りました。

 以上思いつくままに12冊(本当は15冊)を挙げました。他にも思い浮かんだ本はあるのですがこれぐらいにしておきます。天邪鬼様はじめみなさまも、上の12冊をすべて読まれる必要もないと思います(ヘルツルの本まで挙げたのはわれながらペダンチックの感もあります)。私の紹介を手がかりにして、こんな本でも読んでみようかなという気持ちになっていただけるだけで嬉しいと私は思います。

 なお天邪鬼様がパレスチナ問題の最終解決案で悩んでおられましたが、私は故エドワード・サイード氏が生前力説しておられたように、現在のイスラエルおよびパレスチナ占領地区に、2民族が平等の権利を持って共存する2民族世俗国家を造るという解決案しか、(その実現はたしかに困難なことではあろうが)人間的な解決案はないと思っています。
 かって釈迦は「怨みは怨みによって消すことはできない。怨みとはそれを捨てることによってしか解決できないのである。これは誰にもどうしようもない永遠の真実なのだ」(法句経)と言いましたが、まったくそのとおりだと思わざるをえません。
   しかし現段階のパレスチナ問題はまだそんなことが日程に登るような状況ではなく、イスラエルの蛮行とそれを支えるアメリカの蒙昧を、国際世論の力で何とかおさえこまなくてはならない段階なのですが。

 追伸。天邪鬼様のホームページにようやくアクセスできるようになりました。私は絵心のない人間ですが、それでも天邪鬼様の絵に、投稿のような、優しさと広さと反骨精神の混在を感じました。