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「イラク戦争」討論欄

―私たちの望むものは―

2004/04/20 愚等虫、40代

 高遠さん、郡山さん、今井さんら、三名の方々の解放に続き、行方不明とされてい た安田さん、渡辺さん両名も、解放されたという報道に、ひとまず、ホッとした、と いうのが正直な感想である。

 先の投稿で、私は、

> 米軍によるモスク爆撃という事態にまで至り、多数の女性や子供たちまで殺戮 するという、無差別攻撃を受けている彼らにしてみれば、残念ながら、自衛隊が撤退 しなければ、人質となった方々を殺すという声明は、本気であるとしか思えない。

と述べた。
 このことが、日本人に関しては、結果として、外れたことは「幸い」であった。ご 家族の必死の訴えを始め、それこそ、「世界中の多くの方々の支援」が、彼らの心に 届いたものと考えたい。

 しかし、イラクにはまだ、20名以上の方々が人質として拘束されている。アメリ カ人は、既に、4名が殺害され、また新たに拘束された方もいると聞く。イタリア人 は、ベルルスコーニ首相の「撤退拒否」発言の翌日、声明の通り、一人が殺害され た。

 この相違を、私達は、本当に、よく考えた方がいい。

 私は、人質事件を起こした彼らが、単なるテロリストであるとは、考えていない。
 これまでも、“テロ”“テロリスト”などと記すときは、文脈によって、かぎ括弧 などを付けるようにしてきた。
 “テロ”の定義というものも、80以上にのぼるとも言われる。
 私には、あいにく、“テロ”と“レジスタンス”を明確に区別する基準なり、定義 なりというものが、今もって、判らない。
 実際には、それほど難しい言葉を、この国の首相は、何度も何度も「テロには屈せ ず」という、ワンフレーズ・ポリティクスと呼ばれる手法として使い続け、今回も解 放声明が出た後も、「テロリスト」と呼び、そのことが、彼らの解放の遅れに影響を 与えたとも言われている。
 一方で、自らの逃走経路確保など、「技術的な問題」という報道もあるが、少なく とも、彼らが、自分達の行為を、正当な抵抗運動と考えているであろうことは、テロ と決め付ける前に、十分、考慮すべきであったであろう。

 にも拘わらず、公明党の神崎代表は、先の三名が解放された後、二名の方が、いま だ行方不明となっている事態の中で、「政府が、『テロ』には屈しないを貫けたこと はよかった」などと発言していた。

 自衛隊派兵差し止め訴訟を提訴している箕輪元郵政大臣(元防衛庁政務次官)は、 自ら、身代わりを直訴し、

> 当面の問題は三人を助けることで、八十歳になった私の命など惜しくはない。 小泉首相ら政府関係者は、「テロ」という言葉を使うのはやめた方がいい。レジスタ ンスだと思っている彼らの神経を逆なでする。

と話していた。

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 首相が、支持し続ける米軍は、いったい、ファルージャで、何をやっているのか。
 兎に角、事実を知るために、アルジャジーラの一連のページを開 いてみて欲しい。

 日本のマスコミは、米軍の攻撃を知らせは、する。しかし、実態は、悲惨な映像を そのまま流すことに対する「倫理的」あるいは「人権」問題に関わる等として、放送 しない。
 私達は、ファルージャのモスクを攻撃する米軍のヘリやジェット機、兵士達を見、 死者数を新聞で確認することはあっても、多くの人々が、さほどのインパクトを以っ て理解しているとは言えないであろう。
 上空を飛び交うジェット機やヘリの、その下で、それこそ、何の罪もない子供達 が、こんな目にあっていることを、はっきりと想像する事もなく、「『テロリスト』 の行為は、許せない」という言葉を、そのまま、受け入れてはいないだろうか?
 この国の「指導者」たちの言葉に、安易に、従ってはいないだろうか?

 人質解放の労を取られた、イスラム聖職者協会のクベイシ師も「ファルージャで何 が起こっているか、知って欲しい」と語っていた。
イラクの子どもたちにサーカスを見せようという活動をしているジョー・ウィル ディングさんの「ファルージャの目撃者より:どうか、読んで下さい」 という報告がある。

> 女性たちが叫び声をあげながら入ってきた。胸や顔を手のひらでたたき、祈り ながら。ウンミ、お母さん、と一人が叫んでいた。私は彼女を抱きかかえていた。そ れから、コンサルタント兼診療所の所長代理マキが私をベッドのところに連れていっ た。そこには、頭に銃による怪我を負った10歳くらいの子どもが横になっていた。隣 のベッドでは、もっと小さな子どもが、同じような怪我で治療を受けていた。米軍の 狙撃兵が、この子どもたちとその祖母とを撃ったのである。一緒にファルージャから 逃れようとしたところを。
> ここにいる男性が全員、破壊されつつある街に閉じ込められる事態は、ぞっと するものだった。彼らの全員が戦士であるわけではなく、武装しているわけでもな い。こんな事態が、世界の目から隠されて、メディアの目から隠されて進められてい る。ファルージャのメディアのほとんどは海兵隊に「軍属」しているか、ファルー ジャの郊外で追い返されているからである[そして、単に意図的に伝えないことを選 んでいるから]。私たちがメッセージを伝える前に、爆発が二度あり、道にいた人々 は再び家に駆け込んだ。……

 国連でも、「ファルージャの虐殺」という言葉が使われていると聞く。
 全文を読んで頂きたいと思う。

 昨日のサンデー・プロジェクトでは、ようやく、かなりの時間を割いて、ファルー ジャの出来事と市民の意識を伝える放送を行っていた。
 その中で、スタッフが、まだ幼い少年に「この町では、日本人と判れば、これだ よ。(ポン、と舌を鳴らし、首を切るしぐさ)」をされたシーンを紹介していた。

 「レジスタンスが広がる土壌、占領下で育つ若者たち」と題するニューヨーク・タイ ムズ(ジェフリー・ゲットゥルマン氏)の記事も、全文、お読み頂きたいものであ る。

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 人質事件に関する一連の「報道」に関しては、私は、「さざ波」通信トピックスに おける編集部の意見と基本的に同じ想いである。

 ある人々は、人質にされた方々の家族に対して、嫌がらせの手紙、電話、メール 等々、「自業自得だ!」「死ね!」。挙句は「チーン!」と仏具の鐘の音まで、鳴ら すという始末だったそうである。
 帰国した空港やホテルにまで押しかけ、「自業自得!」と書いたプラカードを掲げ た者達までいた。
 まったく卑劣極まりない、としか言いようがない。
 こうした行為が、人権を尊重すべきという憲法をもち、戦後60年にもなろうとす る「民主主義国家」の国民のすることであろうか。

 ドイツ人記者ヘンリック・ボルク氏は「家族が怯えているのに驚いた。まるで自由 の国に生きていないかのようだ」と語っていた。

 三名の人質が解放されたと聞くや、政府を挙げて、「自己責任」の大合唱であり、 いち早く唱えた麻生太郎総務大臣は、つい先頃も、「創氏改名は、朝鮮人が求めた」 などと発言し、韓国、北朝鮮から激しい非難を浴びた人物でもある。

 また、公明党の冬柴幹事長の「人質本人や家族の経費負担」を求める発言を始め、政 府・外務省は、渡航費用、健康診断費用等を請求する方針と言う。

 昨年、退避勧告が出ている中、同党の神崎代表が、支持母体である創価学会内の自 衛隊派兵反対の声を沈静化させようと、「安全」証明のために、3時間半のイラク渡 航した際、石破茂防衛庁長官は、「決断は非常に立派なものだった。責任与党の党首 が見てきたのは、非常に大きな意味がある」と語っていたのではないか?

 自衛隊を出すときには、「安全神話」をでっち上げ、褒め称えさえし、迫撃砲で攻 撃され、人質事件が起きると、「自己責任」論を声高に叫び、自衛隊派兵を決め、イ ラクだけではなく、世界中で活動している国民の安全を危険に曝す事態となったこと に対する政府の責任は、おくびにも出さず、すり替えようとする。
 「もしこの戦争を支持せず、自衛隊を送らなかったなら、日本人がこんどのような 人質事件に巻き込まれる危険はけた違いに小さかったろう。」(朝日社説)と、私も 思う。

 さらに、もしも、イタリアのように、人質にされていた方々が、殺害されていたな らば、今度は、「『テロ』には屈せず!」「卑劣な『テロリスト』を許すな!」のさ らなる大合唱であったであろうことは、容易に想像がつく。

 いずれにしても、「自衛隊は撤退させない」ということの方が、人質に取られた 方々の命より大事だったのである。三日という期限が限られた中で、三名の人の命よ りも、アメリカ支援の方が大事という選択を採り、「一時撤退でも」と訴えた家族に も会おうとしなかったこの国の政府「指導者」達の言う「人道支援」とは、いったい 何なのか?

 首相は、と言えば、8日、午後6時45分ごろ、車中で第一報を知った後、報道関 係の論説委員らと二時間ほど、会食していたという。「ふだんと変わりなく、冗舌で 上機嫌だった」「顔色一つ変えずビールとワインを飲み、ステーキを平らげた」「熱 弁を振るう首相のかたわらで安倍幹事長の携帯電話がしきりに鳴り、安倍氏は何度も 席をはずした。『そろそろ』と安倍氏に促されてお開きになったのが8時半ごろ」で あり、その後、官邸に戻ることもなく仮公邸に直行したそうである。

 解放直後、クベイシ師に「これからどうしたいか」と問われ、「イラクでの活動を 続けたい」と語った被害者の話を聞き、「これだけ多くの政府の人たちが寝食忘れて 努力して、なおかつそういうことを言うのか」と確か、憤りを見せていたように思の だが、はたして、会食の際に、マスコミ関係者とは、一体、何を話していたのだろ う。
 自衛隊がマスコミ関係者を広報活動の一環として、すでに輸送したことも、明らか になっている。法的根拠に、曖昧な点が残るとの指摘もでている。

 読売・産経を始め、「自己責任」論を声高に叫ぶ者たちは、自分達に配信してくれ ている多くのフリージャーナリスト達がいなくなれば、ファルージャや他の地域で起 きていることを、どうやって知り、伝えるつもりなのであろうか?
 まさか、アルジャジーラ放送を見ながら、記事を書くつもりという訳でもないだろ う。

 四月上旬までイラクを取材していた森住卓氏は、

> イラク人の目には、劣化ウラン弾やクラスター爆弾で女性や子供、老人を無差 別に殺戮した米英軍こそテロリスト集団に映っています。街を米軍に包囲され、ファ ルージャでは一般市民が兵糧攻めで苦しんでいます。米英軍に拘禁されたイラク人 も、とんでもない人権侵害を受けています。拷問・虐待は当たり前。バグダッドの警 察署では、米兵がイラク人男性に女性をレイプさせ、その様子をビデオ撮影するとい う信じ難い事件も起きているといいます。さらに、拘禁を解かれたイラク人女性の多 くが妊娠させられているといい、イラクでは深刻な問題になっています。(日刊ゲン ダイ)

と述べている。

 こうした報道さえ、して欲しくない、させたくない、というのが、権力者の本音な のであろう。
 プライバシーを尊重するモラルもなく、「出版差し止め請求」を辛うじて免れた週 刊文春の事態を教訓とするならば、多くのマスコミは、ペンとカメラの向ける方向が 違うのではないか、と感じてしまう。
 権力を追及するという、最低限のジャーナリズムの精神だけは、失って欲しくはな いものである。

 昨年、「何者か」によって殺害された奥大使は、

> 復興支援を行っていく上で、NGO(非政府組織)の役割はとても大きいものが あります。…
 日本のNGOも負けていないようです。ピース・ウィンズ・ジャパンは湾岸戦争の時 から北イラクを中心に広く活動を展開していると聞いていますし、私がバグダッドに 移ってからもJENやJVC(日本ボランティアセンター)、ジャパン・プラット・フォー ムといった、NGOの方々ともお会いする機会がありました。みな、電気や水が供給さ れにくい状況の下で頑張っています。…
 日本政府は、イラクへの緊急人道支援の一環として、草の根無償協力資金などで NGOの活動を直接支援することだけでなく、UNICEF(国連児童基金)やUNDP(国連開 発計画)などの国連機関を通じた日本政府の支援に日本のNGOが参加を得ることも考 えています。
 そのような姿を見て、日本の若者が新たにNGOの活動に参加しようとするでしょ う。今回の戦争を機に、日本のNGO活動という木が一段と大きくなっていくのが目に 見えるようです。(イラク便り)

と語っていた。

 筑紫哲也氏は、

>「危険な所に行った自己責任ではないか、自業自得である」という趣旨の心無い 非難が人質家族の家にまで寄せられていると聞きますが、少なくとも彼らは、私利私 欲のためイラクで活動してきた人たちではありません。彼らのような志ある若者たち を、この国は、非難している人達は、増やしたいと思っているのかどうか、改めて、 考える必要があるのではないでしょうか。
 

という旨、番組で述べ、また、パウエル国務長官の、

> 危険を知りながら良い目的のためにイラクに入る市民がいることを日本人は誇 りに思うべきだ。もし人質になったとしても、「危険をおかしてしまったあなたがた の過ちだ」などと言うべきではない。…危険を誰も引き受けなければ、世界は前に進 まない。
 

との発言を紹介していた。

 彼の発言は、自衛隊の隊員(soldiers)についても触れているが、そのことは、ひ とまず置くとしても、少なくとも、「嫌がらせ」「バッシング」「自己責任」を声高 に叫ぶ者たちは、自分達のやっていることが、家族や本人達を、いかに苦しめている のか、人として「誇りに思える」ことなのかどうなのか、真面目に考えて欲しいと思 う。

 解放後に、神経失調症などと診断される状態にまで人質被害者たちを追いこんだこ とに対する「政府責任」を、この国の「指導者」達は、どう考えるのだろうか。

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 山本七平氏は、「この国は、『空気』で動く」とかつて述べていた。
 先の一連の戦争において、この国は、「満蒙は皇国の生命線」と叫び、大日本帝国 軍隊による「満州事変」等々の謀略から、最後は、原爆という大量破壊兵器を二発も 落とされ、それだけで30万人もの犠牲者を出し、日本人300万人以上、アジアで は少なくとも2000万人以上と言われる人々の犠牲という結果をもたらした侵略戦 争へと繋がる歴史を持っているのである。

 イラク先制攻撃の第一撃は、横須賀配備の巡洋艦からのトマホーク・ミサイルによ るものであった。横須賀から出撃した艦船は計70発のトマホークを発射し、空母キ ティホークから出撃した戦闘機は、「非人道的兵器」と言われるクラスター爆弾によ る爆撃を繰り返した。同艦長は、襲撃回数5375回、86万4千ポンド(約390 トン)以上の爆弾を投下した、と述べた。
 第五空母戦闘軍司令は、ペルシャ湾で海上自衛隊から燃料補給を受けたことを明ら かにしている。

 航空自衛隊は、武器を携行する米兵を輸送していることも、明らかとなった。

 「小泉首相はイラクの人道支援のためと説明するが、ホンネを言えば、米国の期待 にこたえるためであり、航空自衛隊が実際に米軍支援をしている事実も否定しようが ない。日本人や自衛隊が反米勢力の標的になるおそれはこれからも消えない。」(朝 日)という。

 安保条約第六条「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全 の維持に寄与する」という、いわゆる「極東条項」による制限は、湾岸・アフガン・ イラク戦争と完全に踏みにじられ、日米軍事同盟は、ここに至り、根本的に変質した のである。

 自衛隊派兵の「基本計画」では、「石油資源の九割近くを中東地域に依存する我が 国を含む国際社会の平和と安全の確保にとって極めて重要である」と、自国の経済的 利益のための派兵であることを明言している。

 一方、三菱重工、石川島播磨重工、東芝、日立製作所などの軍需調達上位十社は、 98年から02年の5年間で、約6億4千万円の政治献金を自民党に行い、これら十 社が受注した軍需総額は、約4兆円にも上る。

 今年、3月。国連開発計画(UNDP)は、三菱重工業との間でイラク南部バスラ州の ハルサ火力発電所の緊急復旧計画について、約800万ドル(約8億5千万円)規模 の契約を交わしたそうである。

 まさに、「中東は日本の生命線」と言わんばかりの論理をもって、米国とともに利 権の確保を目指していると言わざるをえないのである。

 余談ではあるかもしれないが、先に辞任した岡本行夫首相補佐官は、三菱マテリア ルの社外取締役を務めていた。
 同氏に対し、首藤議員(民主)は、公務でイラクを訪れた際、一般の邦人には退避 勧告が出ていたにもかかわらず現地からマテリアル社の社長に電話をして同社の技術 者を派遣させたのは、国家公務員法第100条(守秘義務)に反するのではないか、 と質した。
 政府は「三菱マテリアルは発電所復興に必要な設備を製造しておらず、調査協力は 直接、同社の事業に結びつくものではない」等と、答弁している。

 2年ほど前のNHK終戦記念日番組において、岡本氏は、作家澤地久枝さんと対談 し、「日本人だけ、汗を流さなくてもいいのか」と、熱弁を奮っていたようである が、澤地さんは「汗だけではなく、血も流せという事にならなければよいのですが」 と懸念を表明されていたことを、ふと思い出す。

 米国主導のイラク統治評議会には、今回、立役者であったクベイシ師率いるイスラ ム聖職者協会は加わっていなかったという。
 安田純平氏は、「『この戦争はおかしい』と、井ノ上書記官が、語っていたこと を、はっきり覚えている。」と述べていた。

 先程、スペインのサパテロ新首相が、就任早々、「直ちに、軍を撤退する準備に入 るよう命じた」というニュースが入ってきた。

 この国の「指導者」達が、必死で、守ろうとしているものとは、一体、何なのか?

 それは、決して、ワンフレーズで語られるようなものではなく、また、それを見極 めるものは、漂う「空気」のようなもので左右されることがあってはならない筈の、 平和を希求する人々の熱き想いであると、私は確信する。

 人を殺さないで下さい。
 子供たちを殺さないで下さい。

 私たちの望むものは、生きる希望なのだから。