アメリカおよびその同盟諸国のイラク侵略戦争は、今回のシーア派との抗争により
新しい段階に入ったと思われます。
CPAがサドル氏への刺激を極力避けてきた背景には、今回の占領の敵をフセイン
支持勢力のみということにしておきたい、あるいはそう見せかけておきたいという強
い願望がありました。そうでなければイラク占領はイラク人民全体との抗争と言うこ
とになり、イラク人民のためといった大義名分(だいぶ色あせてはいますが)まった
く通用しなくなるからです。
しかし(おそかれはやかれそうなることを私は疑いませんでしたが)、今回の抗争
によりアメリカの願望は完全にふっとびました。イラク占領は人民戦争の様相を帯び
始めたのです。これでアメリカの立場は絶望的なものになったと私は見ています。
かってアメリカがベトナム戦争で撤兵せざるを得なかった要因は、アメリカ兵の精
神の荒廃が臨界状態まで達し、軍の崩壊が具体的に懸念される状態になったことにあ
りました。そしてそれをもたらしたものは戦線の泥沼化、反戦運動の高揚によるアメ
リカ軍の倫理的確信の破壊にありました。
今、イラク戦争の状況は、わずか1年でベトナム戦争開始後数年の段階まで達した
ように思います(インターネットなど世界人民の情報交換の速度が桁違いになってい
ることが決定的なのでしょう)。
だからアメリカは撤兵を考えざるをえなくなると私は思いますが、アメリカ帝国主
義にとってのイラクの経済戦略的意義はベトナムの比ではありません。アメリカのイ
ラク戦争における敗北は、地球の石油の60%を占める地域でのアメリカの権威の失
墜を意味するからです。
この地域での地政学的優位は元来地続きの中国、ロシア、インドなどにあります。
そしてこれら諸国の経済成長を考えるとき、アメリカが将来の自分の覇権を危ぶんだ
のは当然です。私は9・11後のアメリカのアフガニスタンやイラクへの軍事行動の
背景には、アメリカ産軍複合体のそういったあせりがあると思っていました。
しかし、繰り返しますが今アメリカは絶望的な状況に突入しつつあると私は思いま
す。これも繰り返しますが、アメリカのイラク戦争における敗北は、ベトナム戦争に
おける敗北とその重みが違うはずです。
だからこれからわれわれは、世界史的画期の時代に入っていくことになりますが、
おそらく予測もしないような事件が次から次へと起こることになるでしょう。
だから反戦・民主勢力も、知力と感性を保って未知の時代にそなえなければならな
いと私は思うのです。