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「イラク戦争」討論欄

翻訳不可能

2004/05/06 アンゲラ 50代 パート英語講師

 すでに指摘されていることですが、再度確認のため、投稿します。
 私は、floraさんのような素朴な疑問に答えるさざ波でなければ、建設的な意見にならないと思います。まだ、誰も彼女の(というのは、floraは女性名詞だからです)疑問に答えていません。
 英語を教えながら、NGOで主に通訳翻訳の仕事に携わっている。その関係上、言葉の使い方には、敏感にならざるをえない。特に、通訳、翻訳の仕事となれば、単に「英語を英語で理解する」にとどまらず、「この英語は、どの日本語に当てはめたらよいのか」を常に考えなければいけない。
 今回のイラク人質事件に関して、政府・与党・マスコミの使う「自己責任」が本当のところどういう意味なのか、ずっと考えざるをえない状況になった。ロングマン英英辞典には、self-responsibilityは載っていない。リーダース英和辞典では「自己責任」という日本語訳だけが出ていた。普通、「あなたの責任」「彼の責任」「国の責任」と言わなければ、「責任」とは、「自分の責任」だと思っていた。例えば、sense of responsibility(責任感)。しかし、あえて「自己責任」と言う意味は何なのだろうか?
 イラクで拘束され、解放された安田純平さんが「日本で言う『自己責任』は、家族にまで広がって、僕は今日本の文化に非常に興味を持っています」と発言していた。私も同感である。これが分からなければ、通訳翻訳の仕事はできない。
 数週間、政府与党の「論客」の発言を聞き続けた結果、「あの人たちの言う『自己責任』とは、『イラクへ行くなら、死ぬ気で行け』+『政府に盾突いて、救出しろとは、盗人猛々しい』という意味なのだな」と分かってきた。そこでまた、私は考えた。「人質になった人たちは、多分空爆やら、戦闘に巻き込まれて死ぬかもしれないという覚悟は当然していただろう。だが、人質になるという予測はできただろうか? その時、どういう覚悟をするべきなのか?」
 こういう場合は、英語で考えたほうがよいと思った。self-responsibilityがあるとしたら、public-responsibilityがカウンターパートとしてあるだろう。では、public-responsibilityとは、何なのか? それは、「政府として、自国民の生命財産を守る」という責任である。それを放棄した場合、国家としての存在基盤がなくなってしまう。私たちは、そのために税金を払っているのであり、年金未納議員のために税金を払っているわけではない。
 苦言を申せば、小泉内閣になって以来、通訳翻訳家泣かせの日本語と翻訳語の氾濫が著しい。「自民党をぶっこわす」とは、英語に訳す場合には、そのまま訳せばいい。でも、本当の意味は「私は、自民党の権力者になる」という意味であると知ったのは、後のことだ。そのまま訳して、後は受け手の理解にまかせるという範囲もあるだろう。しかし、海外のメディアが「self-responsibility」ではなく、「jikosekinin」という言葉を使わざるをえなかった事情も痛いほどに理解できる。
 もし、正確な日本語が見つからない場合には、旧来からある日本語を使ってくれたほうが、通訳翻訳家にはありがたい場合が多いのも事実である。