大歩危さんの投稿内容は劣化ウラン弾についての誤った認識を流布する恐れが あると思い、書かせていただきます。関連する議論を十分にフォローできていないの で、失礼があればご指摘下さい。
4/17:「・・・基本的に普通弾と大差のない劣化ウラン含有弾の残留放射能・・・」 という記述について。
ご承知のように劣化ウランの主成分は238Uです。代表的な組成は238Uが99.8%、 235Uが0.2%程度です。この僅かに含まれる235Uが危険なのではありません。235U は濃縮されて一定量以上集合しないかぎり、その危険性は238Uと大差ないものです。 逆に言うと、238Uそのものの放射能も大変危険なものです。重さ215グラムの25ミリ 機関砲の劣化ウラン弾は147グラムの劣化ウランを含むとのことなので、これを基に 放射能強度を計算すると、約550万ベクレルとなります。その98.7%は238Uによるも のです。必要なら、計算過程を示します。これはまぎれもなく「原子力基本法」等で 規定するところの「放射性物質」です。「普通弾」は基本的に放射性物質を含みませ んから、放射能はありません。なお、「残留放射能」という表現は、核分裂反応など によって生成された短寿命核種の放射能が人間の生活・歴史時間の中で次第に弱まる ことを前提に使われます。238Uは長寿命で、半減期は44億6800万年ですから半永久 的にこの放射能強度が持続します。
4/28:「まあ、通常弾頭と間違える程度の甘い管理で、何千発も日本の射爆場で誤使 用されたのが核兵器であれば、国会において大問題にならないわけはありません。」 という記述について。
劣化ウラン弾の製造・配備は米国内ではNRC(Nuclear Regulatory Commission)の 規則により、放射性物質を取り扱うものとして厳しい規制・管理が行われ、作業者や 周辺住民の被曝管理も行われています。それが、イラクや旧ユーゴにばらまかれたの は、かってベトナムに莫大な量のダイオキシンがばらまかれた経緯を振り返れば、米 国ならやりかねないと、容易に納得されるものです。
国内では、劣化ウランを含む放射性物質は原子力基本法関連の法令により、その取
り扱いが厳しく規制されています。その中で「ウラン235のウラン238に対する比率が
天然の混合率に達しないウラン及びその化合物」は「核燃料物質」の1つと規定され、
劣化ウランは原発用燃料精製のカスであるにもかかわらず、「核燃料物質」に該当す
ることになります。また、核燃料物質や核原料物質以外の放射性物質は、「放射性同
位元素等による放射線障害の防止に関する法律」による規定があり、厳重に密封管理
されているものでさへ1個が370万ベクレルを越えるものは厳しい規制の対象となり
ます。
もっとも、昭和30年代に整備された「原子力基本法」は、主として原発など原子力
の「平和利用」を目的としたもので、前提とされる事象が狭く、様々な欠陥を含んで
います。国会において大問題にならないのは、国会議員の無知と怠慢、あるいは米国
追随外交のなせるワザです。劣化ウラン関連のウェブサイトをサーチした中に、「天
然ウランの99%は放射能のないただの金属なのです。」との記述をみつけ、唖然とし
ました。これを信じる人もいるのでしょう。笑えないジョーク?
劣化ウラン弾が「核兵器」に該当するかどうかについてですが、これは、どういう 立場から議論するかによって見方が変わると思います。大歩危さんの引用される規定 は、兵器を開発・製造したり、使用したり、管理したりする者の立場からのものです。 一方、劣化ウラン弾の惨禍を直接受ける民衆の立場からは明確な定義がなされていな いのが現状と思います。ですが、少なくともこれは通常兵器とは明確に区別すべきし ろものです。砲弾の貫通力よりもむしろ核物質の放射能の惨禍をより強く被る民衆の 立場からすると「核兵器」と呼んでも差し支えないものだと思います。「核兵器」の 定義に先取権があることに抵抗感があるのなら自分で定義し直せば良いことです。法 令用語を借りて、さしずめ「核燃料兵器」とでも呼んだらどうでしょう。核燃料を他 国民の頭上にばらまくことが許されて良い訳がありません。言葉の定義が未熟である ことが足かせとなって、議論が実体から離れることを危惧します。