PINKOさん、Forza Giappon さん、はじめまして。
日本共産党の原子力政策について、先にPINKOさんの投稿を 読んでForza Giappon さんのこの欄への投稿(2005年04月28日 付)を思い出し、こちらも再読させていただきました。私も、 この問題についてはかねてより関心を持ち続け、一般投稿欄へ 、2004年6月1日付「日本共産党の「原子力政策」について」と 題して投稿したことがあります。以来、まとまった論考を展開 する時間的余裕がありませんでした。
共産党の現在の原子力政策については、党HP中、 「原発・核燃料サイクルに関する日本共産党の見解」と題 する特集ページが設けてありますが、問題の「原子力発電所段 階的廃止法案」なるものは、このサイトに見つけることはでき ませんでした。個人的には、99年時点で、共産党がそのような 法案をまとめることは考えられないと思いますが、Forza Giappon さん、どうなんでしょう。
ところで、旧綱領と、2004年1月の第23回党大会で改定され た新綱領では、関係する文言が以下のように変わりました。
旧:「党は、原子力の軍事利用に反対し、自主・民主・公開の 三原則の厳守、安全優先の立場での原子力開発政策の根本的転 換と民主的規制を要求する。」
新:「国民生活の安全の確保および国内資源の有効な活用の見 地から、食料自給率の向上、安全優先のエネルギー体制と自給 率の引き上げを重視し、農林水産政策、エネルギー政策の根本 的な転換をはかる。」
まず、新綱領では「原子力」という言葉そのものが消えまし た。エネルギー安保の観点から、エネルギー政策の一般論の中 に解消されていますが、私は、これは後退ではなくやや前進で あると評価しています。ウェブサイトに掲載された公式見解や 、党綱領改定に際しての党員からの質問への不破氏の回答など を読むと、この間の変化が読みとれます。私の04年の投稿でも 触れましたが、「自主・民主・公開の三原則」は絵に描いた餅 なのです。燃料のウランが100%輸入に頼らざるを得ない現状 で、「自主」はあり得ないし、テロ対策の観点から「公開」な どありえないからですが、これまで政策提言に与ってきた党員 科学者の多くが、実践の中でその事に気づいたのではないかと 思います。
この点については、殆ど全ての党員科学者が加盟し、その運 営に重要な役割を担っている「日本科学者会議」の、これまで の活動を概観するとおぼろげながら理解されます。「日本科学 者会議」には、自然科学、工学系ばかりでなく、社会科学、人 文科学の専門家達も加わっていますが、原子力発電の問題につ いて、実に精力的な議論と啓蒙活動を行ってきました。たとえ ば、「原子力関連文献集」と題するウェブサイトには、日本科学者会議編による、ある いはその構成員が執筆した多数の書籍が紹介されています。こ の中で私が読んだことのある本は、「暴走する原子力開発(第14 回原発シンポジウム・伊予)」(日本科学者会議編 リベルタ 出版 1988年12月出版)のみですが、チェルノブイリ原発事故 の2年後のこの時点で、党員科学者達の多くが、原子力発電そ のものに否定的になっていることがうかがい知れます。
1970年代中頃から、ほぼ毎年のように日本科学者会議が主催 して、「原子力発電問題全国シンポジウム」が開催され、議論 と啓蒙活動が活発に行われてきました。それらの報告記事を読 むと、当初の、民主的規制の元での慎重な開発路線から、代替 えエネルギーの開発と原発の段階的廃止路線への機軸の推移は 明瞭です。これには、この組織のトップクラスにいる放射線防 護の専門家が、チェルノブイリ事故の調査団を組織し、精力的 な活動を行ってきたことも影響しているのではないかと思いま す。
余談ですが、チェルノブイリの事故後の長期疫学調査から、 小児甲状腺癌の発生率が事故直後から顕著に増加していること が報告され、放射線による癌の潜伏期間は少なくとも10年とい う従来の常識が覆され、継続した低線量被曝による健康被害の 実態が初めて明らかにされました。このことが、イラクやコソ ボでの小児癌が、劣化ウラン弾が使用されて僅か数年後に増加 したとされる謎を解く鍵となったのでした。
ともあれ、その構成員には、原子力産業に関連した研究者達 も相対的にかなり少数ながら存在しているようで、議論の完全 なる収束を遅らせているのではないかと思われます。その現状 が、新綱領の文言に繁栄されていると考えています。ですが、 少なくともPINKOさんの書かれる「共産党は原子力平和利用推 進の党」という印象は、現在では修正する必要があるかと思い ます。また、「共産党が参画する政権では自主・民主・公開の 原則が厳守され安全も確保されるので原発はどんどんつくるこ とになる」などと言った共産党員が居たとしたら、たとえそれ が30年前であったとしても、党員らしからぬ言動です。
現在差し迫っている問題は、高レベル核廃棄物の地層処分場 が地方自治体への公募になり、財政が逼迫したあちこちの自治 体が名乗りをあげようとしていることです。溜まったゴミはど うすれば良いか、皆さまのご意見をお聞かせ願えればと思いま す。