現在の中国共産党の経済理論は、どの様なものか? 「社会主義市場経済」論の代表的論客である呉敬・氏の主張を紹介する。その内容は、 「中国の市場経済ー社会主義理論の再建」サイマル出版社95年3月から山口 勇氏が「20世紀社会主義の意味を問う」御茶の水書房98年4月 P175~176にてまとめたものである。
1.「社会主義市場経済」論の理論的核心は、市場経済概念の本質を「資源配分方式」に求め、計画経済には「効率性の欠如」という根本的な欠陥があることが歴史的に実証され、現実に有効な資源配分方式は市場経済以外にはないと主張するところにある。マルクスは価値法則を「自然法則」(社会的欲求に応じた社会的総労働の比例的な配分の法則)という資源配分論との関連において解明したが、資源配分方式と経済の運行状態とを混同したために、市場経済を資源配分方式として概念的に明確にすることができなった。経済学説史上、資源配分方式としての市場経済概念をはじめて明確にしたのは新古典派である。
2.計画経済が効率的に運行するには、隠れた前提として「完全情報仮説」(中央計画当局が物的ー人的資源状況、需給システムなどを含む経済活動に関するすべてに情報を手中にすること)と「単一利益主体仮説」(全社会の利益が一体化していて、相互に分離した利益主体および異なった価値判断が存在しないこと)という二つがある。だが、生産力が高まり、経済社会が複雑さを増せば増すほど「二つの前提条件」を満たすことは困難になり、情報面での障害とインセンティブ面での困難に直面する。
3.資本主義と社会主義との違いは、所有制の違いにあり、公有性のもとでも市場経済は機能するから、公有制を土台とした市場経済が社会主義市場経済である。
以上である。私は基本的にこの考え方に賛成である。問題は3である。公有制といっても一党制で、民主主義が十分でない社会では、共産党官僚が、新しい階級となる可能性が高い。さらに所有の問題だけでなく、実際の経営権の問題がある。ユーゴの労働者自主管理やドイツの共同決定法の様な下からの経営システムを組み込む必要がある。1、2の市場中心の経済運営には、現在の日本共産党綱領、自由と民主主義の宣言とも計画経済(計画と市場の結合)と書いてあり、かつてのユーゴ、ハンガリー、1980年前後の中国に近く、かなり読む人によって、違った解釈を可能にする書き方である。
しかし、このような経済が、存立しえないことは、著名な経済学者であるW・ブルス、K・ラスキが「マルクスから市場へ」岩波書店95年に書いている。呉敬氏もこの主張に影響されているのかもしれない。仮定の話だが、もし日本共産党が、単独政権を握り、現綱領の計画経済を実行した場合、同党にとっていままで以上の危機が訪れ、反動として労働者の権利を求める運動が大幅に後退する危険性がある。あくまで市場を認めた上で、抜本的改革を行うべきである。
なお市場に対してマルクス以前の社会主義者、マルクス、エンゲルス、レーニンすべてがかなり否定的な表現をしているが、生産側(供給)と消費側(供給)がともに有限量の時、価格を通じてその互いの量を一致に限りなく近づける事は、政治権力とは関係がない経済独自の法則である。