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「科学的社会主義」討論欄

岩波版・共産党宣言」はレーニンの『個人的』独裁を慫慂していた!

2001/3/10 雁古、60代以上、会社員

「岩波版・共産党宣言」はレーニンの『個人的』独裁を慫慂していた!
―岩波文庫「共産党宣言」の誤訳を正すべし―
「コミュニストとして」の討論の座標軸を確立しよう(第3項)

 標書は向坂逸郎が山崎八郎とともに草稿を作り、大内兵衛が校閲、最後に向坂が念校、1951年12月第1刷におよんだものであり、今私が相手にしているのはその第71刷'96年5月版である。これに対する訂正版の発行は知らされていない。同好者は同じものを容易に手に入れられよう。
 本書は、訳者がこの業界の碩学であること、出版社が志高き岩波茂雄創始の岩波書店であることから、日本におけるこの書の「定本」のごとき「権威」を持ってきた。しかし第1項で引用したようにマルクス主義の核心部分での誤訳が余りにも多いのには驚かされる。この誤訳の性格をつぶさに見ると、マルクスのコミュニズムをレーニン主義に歪曲するために奉仕したものだと言うことが鮮明になってきた。意図的な誤訳なのである。
 本項(第3項)では、レーニンの独裁に追従した部分の最たる所から始める。
 「第2章 プロレタリアと共産主義」69p,9行目よりの次の文章である……「発展の進行につれて、階級差別が消滅し、すべての生産が結合された個人の手に集中されると、公的権力は政治的性格を失う」……。今となれば一読して誰も気付くだろう、曲者は「個人の手」だ。そこの原文は「全国民の広大な連合の掌中/in the hands of a vast association of the whole nation」となっている。これだけ明瞭な原文から、どうすれば「個人の手」が出てくるのか。大衆革命(原文)を堂々と(訳文は)個人の独裁に置き換えてあるではないか。
 続く文章もいかがわしい。岩波本を紹介しよう。
 「本来の意味の政治的権力とは、他の階級を抑圧するための一階級の組織された権力である。プロレタリア階級が、ブルジョア階級との闘争のうちに必然的に階級にまで結集し、革命によって支配階級となり、支配階級として強力的に古い生産諸関係を廃止するならば、この生産諸関係の廃止とともに、プロレタリア階級は、階級対立の、階級一般の存在条件を、したがって階級としての自分自身の支配を廃止する。」(69p,10~14行)。
 下線箇所が曲者。順次正解に置き換えていこう。①「本来の意味」は「本来的に言われる/properly so called」であって厳めしい意味合いはない。嘘を押し付けるには威厳を以って脅かしておく必要があるときの常套語でこれ自体が誤訳である。②「必然的に階級にまで結集し」は「情況によって階級として自己を組織化することを強要されるならば」という長い説明でなければならない。革命に直面してもプロレタリアは決して「必然的に」は「結集」しない、「情況によって、…を強要されるならば」という仮定の話なのだ。革命に当たって、マルクスが注意を喚起する一番肝心なことを、「必然的に」とすることは、失敗しそうになれば「赤色テロル」をも動員すべし、というレーニン主義に転化したところである。③最後に「階級としての自分自身の支配を廃止する」の「支配」は、「覇権」又は「主権」/supremacyでなければならない。支配と権力は、英語でも日本語でも単語が違うように意味が違うのだ。  この部分の英文とその直訳を添付しておこう。前掲の岩波本訳と対比して欲しい。多くの点で意味合いの違うところを発見できるであろう。
Political power, properly so called, is merely the organized power of one class for oppressing another. If the proletariat during its contest with the bourgeoisie is compelled, by the force of circumstances, to organize itself as a class; if, by means of a revolution, it makes itself the ruling class, and, as such, sweeps away by force the old conditions of production, then it will, along with these conditions, have swept away the conditions for the existence of class antagonisms and of classes generally, and will thereby have abolished its own supremacy as a class.
【直訳】「本来的に言われる政治的権力とは、他の階級を抑圧するためのある階級の組織されたパワーという程度のものにすぎない。プロレタリアートが、ブルジョアジーとの抗争を通じて、情況によって、階級として自己の組織化を強要されるならば、又もし革命によって自分自身が支配階級となり、支配階級として力ずくで生産の古い諸条件を速やかに廃止するならば、そのとき、プロレタリアートは、これらの諸条件と共に、階級対立及び一般に階級そのものの存在に関わる諸条件を廃止してしまうだろう、そしてそれによって階級としての自分自身の覇権を廃していよう。」
(注:「廃止する」と「廃する」は、ワードが違うように意味も異なることに注意)。