日本でも見られますが、アメリカ、ドイツ、イギリスでは、セイフティネット論は、新自由主義者が福祉攻撃に使っています。つまり、政府は最低限度の給付やサーヴィスを「セイフティネット」としてやるだけで、あとは「自助」にまかせるべきだという論理です。これに対する批判者のなかには、「セイフティネット」論の枠にとどまりながら、「もっとやるべきだ」というかたちでの議論をしている人がいる。社会主義者にも、リベラル派にもいます。
しかし、アメリカの民主党内部の「ニュー・デモクラット」は、こうした「セイフティネット」論を攻撃しています。つまり、最低限度の「セキュリティ」が確保されればいいというのではなく、人びとをこれまでの状態からよりよい状態へと引き上げることが必要だというのです。こうした民主党内部の討論がアメリカ映画『プライマリー・カラー(日本版のタイトルは忘れましたが『ベスト・カップル』だったかも知れません)』に出ていました。つまり、「必要なのはセイフティネットでなくて、ラダー(梯子、つまり、よりよい所帯へと引き上げるハシゴ)だ」という発言が出てくるのです。主人公は、この見解に与するんですね。この映画は、「ニュー・デモクラット」の立場で作られています。
ドイツ社会民主党のシュレーダー首相も、「セイフティネット」論を攻撃して、「トランポリン」が必要だと言ってます。情報化、グローバリゼーションの時代に対応できるように、生活保護や医療保障だけでなく、それらに加えて、新しい時代で能力を発揮できるように、教育や職業訓練をなどを充実させるべきだという考えです。
「ニューデモクラット」「ニュー・センター」(ドイツ社会民主党のノイエ・ミッテ)「第三の道」(イギリス労働党)の新しさは、「機会の平等」概念の左翼版ないしは中道左派版があって、新自由主義者が批判するところの「結果の平等」的な要素を含み込んでいること、そしてその点とも関連するんですが、「自助」(新自由主義者)に対する政府による保障(旧社会主義者)だけでなく、「自助に対する支援」というかたちでの公的な介入を推進しようとしているところだと思います。
いずれにせよ、欧米の中道左派は新しい時代に積極的に対応しようとしていると言えるでしょう。