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「科学的社会主義」討論欄

労働者の団結とゲームの理論

2004/3/26 勘太郎、50代、教師

 一般投稿欄でも書いたことですが、私は昔読んだマルクス主義の文献をいろいろ読み直しています(もっともアイザック・ドイッチャーのトロッキー伝3部作など、手放してしまって読み直せない本も多いのですが)。
 その他に気になって買っておいたものの、積ん読したままになっている本もこの機会に読んでみました。4年ほど前に出版された高増明・松井暁編『アナリティカル・マルキシズム』ナカニシヤ出版もその一つです。
 「アナリティカル・マルキシズム」とはマルクス主義の諸主張を、数理経済学やゲームの理論といった手段で批判・再構築を目指そうという思想です。  このような方法は数学的手法が権威論的に作用するといった危険性はあるでしょう。しかしマルキシズムから「科学的真実」を抽出しようとするならば、積極的に首肯されるべき研究思想だと確信します。
 もっとも上の『アナリティカル・マルキシズム』の内容も、私には納得できないことと、なるほどと思われることが混在したものでした。
 納得できないことの一つは、史的唯物論の批判が具体的世界史の事実がふまえられず(アナリティカル・マルキストはあまり歴史の教養がない?)、形式論理的なそれにとどまっていることです。
 なるほどと思ったことの一つは、労働者が団結する合理性がゲームの理論をもとに議論されていたことです(エルスター氏の研究)。
 「ゲームの理論」という数学は、複数のプレーヤーが各自戦略を選んだときそれぞれの利得が得られるという状況(これを「ゲーム」という)で、各プレーヤーの合理的選択が何であるかを考えます。
 例えば労働者が「連帯して資本と闘う」と「孤立して資本に屈服する」という二つの戦略を選択肢として持つとき、どうすべきかという問題は、ゲームの理論の中で考えることができるわけです。
 これは一回だけのゲームだと何とも言えないことになるのですが、無限回繰り返すことになると、「裏切りを許さない連帯」の戦略がナッシュ均衡解として現れてきます。
 「ナッシュ均衡解」とは、その定式化によって数学者ジョン・F・ナッシュ(ラッセル・クロウがアカデミー賞をとった映画「ビューティフル・マインド」のモデル)がノーベル経済学賞をもらった概念です。他のプレーヤーが動きを見せないとき、各自のプレーヤーの利得が最大化されているといった戦略の組み合わせのことで、プレーヤーの協力を前提としないゲームでの数学的解答と見なされています。
 つまり「裏切りを許さない連帯」は労働者にとって数学的合理性を持った戦略(の一つ)となるのです。
 エルスター氏の研究では他に「機会を見て孤立」することもナッシュ均衡解となります。しかし「孤立」をある期間続ければ労働者の生存条件がおびやかされる事態になる(現在の日本がそのような状況ではないでしょうか)ので、そのようなナッシュ均衡解を理論的に排除することは可能なように私には思われます。
 ともあれ私は『共産党宣言』の結語「万国の労働者団結せよ」の数学的合理性が、ゲームの理論によって支持されるように思われました。
 実はこのような考えは、かってゲームの理論を進化論に応用したメイナード・スミスという人の本を読んだときに脳裏に浮かんだことがあります。『アナリティカル・マルキシズム』を読んで、世の中には同じようなことを考える人がいるものだなあと嬉しくなりました。
 興味をもたれた方(あまりおられないかな)は『アナリティカル・マルキシズム』をごらんください。