トフラーは「第三の波」で、人類の歴史は、農業革命の時代、産業革命の時代、
情報革命の時代として分析する。第一次産業が中心の社会では、土地こそが富の源泉
だから、諸民族・諸国家の競争と覇権は領土を巡る戦争になった。人類の歴史は戦争
の歴史であった。宗教戦争は、宗教の名を語った支配領土・資源をめぐる紛争に過ぎ
ない。産業革命は人間の富を土地から解放し、戦争の物質的基礎を解体し始めた。元
来、労働者階級は資産を所有しない奴隷階級だった。産業革命はこの奴隷階級を大量
に産出することによって、社会の主役に押し上げた。他方では、産業革命は地球上で
の交通を一体化し、人類を物理的に一つにした。マルクスは、人間の交通・交流は戦
争をもって始まる、という。産業革命は国家内の戦争を抑止する力を持ってはいたが、
地球を一体化することによって、戦争を地球的な規模に拡大する力をも持っていた。
産業革命は、戦争の物質的基礎を解体するが、戦争そのものを解体はしなかった。む
しろ、この戦争を世界的な規模に高めてしまった。しかし、この世界戦争が戦争その
ものを解体する革命・世界革命を生み出したのである。
労働者階級は何も所有しない奴隷階級であるがために、己を拘束するあらゆる一切
の拘束からの解放を求める。社会主義の思想は本質的に国際的な思想である。レーニ
ン・トロツキーは、「社会主義体制の下では国家はただちに死滅に向わねばならない」
と言う。国家の死滅は戦争の死滅である。ブルジョワジーは人間を封建制から解放し
たが、労働者階級は人間を国家から解放しようとする。労働者階級こそが、この地球
上での長い間に渡る戦争に終止符を打つために、産み落とされた階級である。第一次
世界大戦の中から、己を奴隷(=スラブ)と称する民族が、世界の社会主義革命の突
破口を切り開いたのは、社会主義そのものの持っている性格を、見事に表現している
ようにさえ見える。戦争は革命を分娩する。従って、世界戦争は世界革命を分娩した。
ナチスの本質は、ロシア革命で惹起された世界革命に対するブルジョワジーの恐怖の
反動である。だからこそ、ナチスは忽ちのうちに世界を席巻できたのである。従って、
第二次世界大戦の本質は、全世界のブルジョワジーと労働者階級の武力対決であった。
いずれ、第二次世界大戦によって人類は後史の段階に突入した、と語られるだろう。この大戦以来、国境を巡る紛争を戦争という手段で解決する事は許されなくなり始めた。これはこの大戦が、世界の労働者階級のヘゲモニー化にある世界の世論を、全世界の主役に押し上げたことを意味する。
産業革命は、巨大工場と巨大官僚組織をも産み出した。巨大工業・工場は巨大官僚
組織に人間を飲み込み、その歯車にする。この官僚組織は、人間から自由な知性と自
立性を奪い、人間に盲目性と隷従を強いる。「民主集中制」という組織原則は、革命
のためには、何の役にも立たなかったが、巨大工場と官僚組織には大いに貢献した。
スターリン主義が、一時世界中でもてはやされたのは、必ずしも全く根拠がないわけ
ではない。しかし、情報革命の時代にある今日の世界では、むしろ、官僚組織そのも
のが、経済発展の障害となりつつある。あちこちの経営体が参加型の経営を目指し始
めている。ビジネスの世界では、人間の持つ自主性と創造性を活用できる事が勝利の
要件となる。ブロードバンド革命は、更に一段と、人間を巨大官僚組織から解放し、
自立させるだろう。巨大官僚組織に飼いならされて、そこから抜け出せない者は、情
報革命の時代では相手にされない。この世界では、多様性と多元性の世界が加速度的
に進展する。誰でもが、自分の頭で考え、判断する事を求められる。産業革命では、一部の人間だけが、自分の頭で考え、判断できるだけで勝ち残る事が出来た。情報革命の時代にあっては、全ての構成員が、自分の頭で考え、判断できなければ勝ち残れない。情報革命の時代においては、官僚主義を克服しない限り、急速にヘゲモニーを失うだろう。
人間の思考過程は外的なコミュニケーションが、己自身との対話に転化した過程で
ある。逆に見れば、我々のコミュニケーション過程は人類自身の思考過程でもある。
情報革命は労働過程を肉体過程から解放し、知的な過程に高める。そして、諸個人間
のコミュニケーションを加速度的な勢いで発展させる。つまり、情報革命は人類の知
性を加速度的な勢いで発展させる革命である。ソフトバンクの孫正義は「インターネッ
トは民主主義を間接民主主義から直接民主主義に転化する」と言う。インターネット
の世界では、常時住民投票・選挙・不信任投票が可能となる。いずれ、インターネッ
トは全世界をソビエト化するだろう。インターネットはあらゆる独裁・官僚主義と激
突する。独裁と官僚主義は知性の自由な発展の障害にしかならないからである。スター
リン官僚体制と戦ったトロツキーの思想は、情報革命の時代においては、更に一段と
した輝きを照らし出すだろう。また、このトロツキーの思想の復活なしに、左翼は、
情報革命の時代に勝利できない。
ブッシュはアメリカの目標を「テロとの戦い」にする。今日のアメリカン・ドリー
ムは「戦争」になった。ソ連の解体で突出したアメリカの軍事力は、己自身の墓場を
求めて、戦争しているように見える。テロリズムは貧困と暴力から産まれるのであっ
て、「テロとの戦い」はテロを拡散するだけである。今日の世界は、地球環境問題・
貧困問題・内戦問題を抱えている。このような問題を解決するには、世界的な規制・
公共政策が不可欠である。今日の世界には、世界市場はあっても、世界計画経済とい
うものがない。人類は、一刻も早く、このような計画を持たねば、この地球上で生き
残れなくなりつつある。トロツキーは「わが生涯」の最終章を「査証のない地球」と
書いた。これこそが、社会主義者の目標であり、十月革命の目標であった。人間の知
性に国境がないのと同じように、インターネットにも国境がない。産業革命は人類を
物理的に一つにしたが、情報革命は国境を解体し、世界を精神的に一つにするだろう。
スターリンの「一国社会主義」によって裏切られた社会主義の国際主義こそ、今日の
世界で再生しなければならない。「一国社会主義」と「官僚主義」を徹頭徹尾批判したトロツキーの思想は、21世紀の世界でこそ、燦然と輝きだす思想である。そのためには、彼を神聖化するのではなく、トロツキー自身をも批判的に見る視点が不可欠でもある。
右翼は左翼をエゴイストと呼び、左翼は右翼をエゴイストと呼ぶ。日本では、どち
らの側も、個人主義を否定的に捉える傾向が強い。しかし、どちらの側にも、エゴイ
ズムの否定によって、滅私奉公主義の横行が見られる。今日の青年には、こんな左翼
主義は全く通用しない。本人にとって不利益・不愉快になるイデオロギーを押し付け
たところで、そんな議論は今日の青年には通用しない。社会主義は青年の自由な知性
を奪うのではなく、青年の自主性と創造性を発揮させる思想である。今日の左翼が古
臭い過去の「輝き」を誇大妄想狂的に押し付ければ、青年が左翼から離れるのは当た
り前である。日本の未来は今日の青年のものである。日本の未来に対して展望のない
思想を押し付けても、青年は離れるだけである。今日の左翼は、再び原点に立ち返っ
て、世界で最初の社会主義革命を成し遂げたロシア革命から、多くを学ぶべきである。
直接民主主義の坩堝の中で、己の頭で考え判断・行動した、ソビエトの教訓から多く
を学ばない限り、展望は産まれない。ロシア革命は早すぎた不幸であるなどと言う考えは、何一つとして展望を生み出さないだろう。未来への展望は、在りもしない過去の「輝き」にしがみつく無知な党官僚の中からではなく、己自身の自立的な知性の中からしか生み出せない。十月革命は、何よりも、この事を教えている。「民主集中制」ではなく、それとは全く反対の、ソビエトの直接民主主義がロシア革命を導いた。「民主集中制」はこの革命を裏切り、簒奪したのである。