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「科学的社会主義」討論欄

Re:社会主義について>赤石十全さんへ

1999/6/9 吉野傍、30代、アルバイター

 赤石さん、どうもはじめまして。私は、18歳の時に入党して以来、10年以上党員をやっている者です。赤石さんの意見に接して、やはり時代の流れというものを感じないわけにはいきませんでした。私は、社会主義・共産主義の未来をめざすという初心を持って共産党に入党しましたが、現在、共産党指導部は、あなたのおっしゃるように、社会主義についてはほとんど語らなくなり、「資本主義の枠内での改革」ばかりを言うようになりました。あなたに言わせれば、それで十分よく、もっと踏み込んで、いっそうのこと民主党の鳩山などが言うように、綱領や党名も変えてしまえば、もっと有益であると考えておられるようです。
 しかし、それは幻想であると私は思います。そのいい例が社会党です。
 社会党は、綱領で社会主義を唱える政党でしたが、現在の共産党と同じように、しだいに社会主義から遠ざかり、ついには安保・自衛隊・天皇制まで容認するようになりました。いわば、あなたが「理想」として語っているまさにそのような立場に移ったのです。実際、社会党が、原則的野党であったころは、マスコミや体制派知識人などからさんざん、もっと現実的になれ、社会主義や憲法9条にこだわるな、と言われてきました。そのような「過去の遺物」を乗り越えれば、政権を担当できる政党に脱皮できるだろうと、繰り返し言われてきました。社会党の幹部と議員たちは、そのようなマスコミの甘言を信じて、ついに村山委員長時代に、マスコミが言うとおりの現実政党になりました。で、その社会党は今はどうなったでしょうか? たしかに一時的には政権にいましたが、支持者から完全に見離され、今や見るも無残な弱小政党に成り下がり、マスコミからさえ相手にされなくなりました。マスコミとは何とも残酷ですよね。以前はあれほど現実化せよと言ってきたのに、いざ実際に現実化して没落すると、さっさと見捨ててしまうのですから。
 さて、社会党をまんまと崩壊させたマスコミや体制派知識人は、次のターゲットを共産党に絞っています。共産党さえ「現実化」すれば、これで本当に保守政治に逆らう勢力は国会からいなくなるからです。そこで、社会党に対して用いて見事に成功した戦術を共産党にも用いようとしています。すなわち、共産党に対しても、もっと現実的になったら政権を担える政党になれるぞ、社会主義を捨てて国民政党に脱皮したら、もっと国民から支持されるぞ、云々、云々と繰り返し語っています。すでに社会党の実例から、このような甘言がまったくの嘘であることは明らかであるにもかかわらず、マスコミから誉められた経験があまりない共産党指導部は、マスコミの「誉め殺し」にしだいに有頂天になりつつあります。歴史から何も学ぼうとしないわが指導部は、社会党と同じ轍を踏もうとしています。あなたの意見は、そのような危険性を後押しするものです。
 もちろん、あなたの意見は善意によるものであり、マスコミや体制派知識人のような悪意ある戦術ではありません。しかし、その論理はまったく同じであり、それの果たす役割もまったく同じです。
 現在の新ガイドラインも、盗聴法案も、すべて、帝国主義段階に達した日本資本主義(およびアメリカ帝国主義)の総体的利益から生じています。資本主義ないし帝国主義と新ガイドラインとを切り離すことなど不可能です。
 奇妙な話ですが、資本主義にまだまだ余力があり、資本主義の枠内の改革が幻想でもなんでもなかった高度経済成長の時代、今のあなたの年代にあった若者の多くは、資本主義の打倒を叫び、社会主義を展望していました。それから30年が過ぎ、資本主義が高成長から低成長へと移行し、あのころに実現した数々の福祉事業の多くが今では資本主義にとっての足手まといとして切り捨てられつつあります。あのころには可能であった「資本主義の枠内での改革」は、今では不可能(ないし長期にわたっては不可能)になりました。戦後最悪の不況、圧縮された市場、資源や環境の限界、巨大な財政赤字、急速な少子化、これらはすべて、「改良」や「改革」の余地を著しくせばめています。
 にもかかわらず、今や、あなたのような若い世代は、「資本主義の枠内での改革」が現実的であると考えています。しかし、現在、資本主義を支持する勢力はすべて新自由主義者となり、福祉国家の破壊、規制緩和、市場化、民営化に向けてアクセルを全開にしています。彼らはみな口々に、資本主義を維持したければ、国民皆福祉はあきらめなさい、低い間接税はあきらめなさい、平等社会はあきらめなさい、終身雇用はあきらめなさい、低失業率はあきらめなさい、と語っています。そしてそれは真実です。高度経済成長の時代には、資本主義の発展と両立しえた「福祉」「平等」「公正」は、今や両立不可能なものとなりました。現在は、資本主義の発展はただ、福祉の切り捨て、不平等のすさまじい拡大、差別と不公正の著しい肥大化とのみ結びつきます。
 こうした時代にあって、社会主義とは、何か遠い先にある夢のような世界の話ではなければ、旧ソ連や中国のような国家統制社会のことでもなく、今現実に生活を営んでいる人々が人間らしく生きるための最小限の選択肢です。
 しかし、そうは言っても、ソ連東欧の崩壊以来、ほとんどの人々は社会主義という言葉を聞くだけでアレルギーを起こすまでになりました。したがって、客観的条件からすれば、社会主義以外に活路がないにもかかわらず、主体的意識としては、歴史上かつてなく社会主義の可能性は遠ざかっています。他方、客観的条件としては、歴史上かつてなく「資本主義の枠内での改革」が不可能になっているにもかかわらず、主体的意識としては、「資本主義の枠内での改革」しか展望がないように見えています。この、皮肉で矛盾に満ちた状況が現在の日本と世界の状況です。
 ではどうすればいいのか? 私が思うに、現在、新自由主義政策と帝国主義化政策によって脅かされている、人々の生活、福祉、雇用、環境、民主主義、平和を守る闘いを草の根から繰り広げる中で、再び一般民衆の意識の中に、資本主義が続くかぎり生活も福祉も雇用も環境も民主主義も平和も守れないのだという共通認識をつくりだすことです。それは長期にわたる、地道で、そして厳しい闘いになるでしょう。
 いずれにせよ、新自由主義と帝国主義化の路線を基本的に容認している民主党などと連合政権を模索することによっては、けっして世の中をよくすることはできません。そのような道は、共産党が社会党と同じ過ちを繰り返すことで、日本の変革の事業に取り返しのつかない打撃を与えることになるだけでしょう。それはあなたの欲する「改革」をも水泡に帰させることになるでしょう。