投稿する トップページ ヘルプ

「組織論・運動論」討論欄

党内選挙制度は、小選挙区制よりも非民主的

2001/7/26 サザンクロス、労働者

 浩二さんよりの質問にお答えします。
 浩二さんのおっしゃるように、「一人100票」制(より正確には、有権者が議席数と同じ数の投票数を持ち、それを候補者一人ずつに分散して投票する制度)が、制度的には諸悪の根源の一つです。それが、官僚の圧迫、分派の禁止、多段階、非公開、選挙運動なし、等々の制度および慣行と結びついて、異論者がけっして党大会に出れないような仕組みをつくっています。前回の党大会で、たった一人だけ異論者が大会に出れたのは、彼女が弁護士支部所属で(弁護士支部は都委員会直属なので、地区党会議を経なくてよい。また知識人支部は比較的、異論派に寛容)、大会代議員を選出する直前の都党会議では発言を行なわず、こっそり指導部の推薦名簿にもぐりこむことができたからです。今後は二度と推薦名簿には入らないでしょう。
 党内選挙制度が小選挙区制よりも多数派に有利なのは、それが広域の制度だからです。たとえば、範囲が非常に狭いところを想定している小選挙区制だと、場所によっては少数派が多数になることもありえます。たとえば、共産党も、京都の一部の地域では得票数が自民党を上回る場合もあります。党内でも、たまたま発言力のある異論派が支部内にいると、その支部の代議員選挙では異論派が選ばれることもあります。しかしながら、数十人から数百人が有権者になる地区や都道府県レベルの選挙になると、少数派は一人も当選者を出すことができません(たとえば東京都では、800人以上の代議員がいて、彼らが党大会代議員を選出します)。なぜなら、そのような広域では多数派になれないからです(だから少数派なのです)。
 これは単なる数字合わせの議論ではなく(ottodotto氏はそのようなものとみなしているようですが)、党内の現実に根ざした議論です。規約には選挙の仕方についての規定は何もありませんが、どの地区委員会、どの都道府県委員会、どの支部でも、同じ選挙制度(一人100票)をとっています。これは偶然ではなく、そのやり方こそがいちばん確実に多数派が全議席をとれるからです。これはいわば歴史によって試されずみの選挙制度なのです。
 ところで、この選挙制度は、分派の禁止規定と結合するとなおさら効果を発揮します。というのは、この選挙制度は、できるだけ定数いっぱいに候補者を立てるほうが有利だからです。私は以前の投稿で、100の定数に対して、たった一人の異論派が立候補するという仮定をしました。これはそもそも、都道府県レベルの党会議に選出される代議員自体が、地区委員会レベルの党会議での選挙を経ているので、たとえ偶然、異論派が都道府県党会議に選出されたとしても、せいぜい1人か2人が関の山だろうという仮定にもとづいています。ottodotto氏は、251人の確固たる支持者(異論派に対する投票以外のすべての投票を棄権する支持者)を想定した「数字合わせ」をしていますが、そもそもそれだけの数の確固たる支持者がいるなら、1人だけ立候補するのは愚かであり、明らかに定数と同じ100人の候補者を立てるほうが利口なのです。
 しかし、そもそもその251人もの異論派党員が地区党会議で選出されるというのはどういう事態でしょうか? それは、多くの地区委員会で、執行部側の推薦名簿の候補者が大量に落選して、異論派が多数を占めるという事態を想定しています。この時点で、中央委員会は、分派の存在を認定するでしょう。偶然、1人ないし2人の異論派が立候補する程度なら、党中央は分派だと考えないにしても、そうした党員がいくつかの地区委員会で多数になるほどの数がいて、彼らが申し合わせたように定数と同数の候補者を立てたとしたら、それは明らかに分派の存在を確信させるものです。党規約では分派は禁止されていますので、これら異論派党員は、全員、党員権を停止させられて査問されるでしょう。「除名」のためには、分派の証拠ないし自白がある程度必要ですが(本当は、そんなものなくても除名されるが)、査問のための党員権停止には、規約上、何らの要件も必要ないのです。つまり、党指導部が、こいつには調査が必要だと主観的に確信しさえすれば、規約上、どの党員であっても一方的に党員権を停止することができるのです。党員権を停止されるとどうなるでしょうか? これは、当然ながら、代議員権も失います。なぜなら、代議員に立候補し選出される権利は、規約上の党員権に含まれるからです。かくして、除名せずとも、調査の段階ですでに、代議員権を剥奪できますので、けっして、異論派が大挙して上級の党会議に代議員として選出されてくるというような事態は生じないのです。
 この話は荒唐無稽な仮定ではなく、実際に、東大大学院支部の伊里一智事件のときに起こったことです。伊里一智氏側の異論派党員が、都党会議の一つ下の院生支部合同会議(地区党会議に相当する)の代議員に選出されたのに、分派の疑いありとして党員権を停止され、かくして代議員権も失いました。分派禁止規定という伝家の宝刀があるかぎり、現在の党内選挙で採用されている選挙制度は無敵なのです。けっして、少数派が多数派に転じることはありません。二重、三重、四重に、指導部の権力は守られているのです。永遠に政権交代が起こらないことを制度的に保障した選挙制度が、はたして「選挙制度」の名前に値するでしょうか?

 なお、上の私の説明は、党員でない人にはわかりにくいと思うので、党内の構造について以下に図解しておきます。

 1、普通の支部の場合……普通の支部は、地区委員会に所属しているので、そこから、党大会までは以下のような多段階選挙を経る

    支部総会(ここで1名から数名の地区党会議代議員を選出)
      |
    地区党会議(ここで十数名から数十名規模の都道府県党会議代議員を選出)
      |
   都道府県党会議(ここで数十名から百数十名規模の党大会代議員を選出)
      |
     党大会

 2、都道府県委員会直属の支部の場合……知識人関係の支部やその他、重要な支部(重要大学支部など)は都道府県委員会に直属している。これらの支部は、地区党会議を経ずに、同類の支部の合同会議を経て、都道府県党会議への代議員が選出される。地区党会議を経ないので、比較的、異論派が都道府県党会議に選出されやすい

    支部総会
      |
   ○○支部合同会議(弁護士支部合同会議とか院生支部合同会議など)
      |
   都道府県党会議
      |
     党大会