どうも、へそまがりさん、レスさせていただきます。前回のへそまがりさんの投稿は短すぎて、何を言いたいのかよくわかりませんでしたが、今回のはよくわかりました。
党員なら誰でも知っているように、各級機関・大会での選挙(役員選挙ないし代議員選挙)では、執行部(LC)が次期役員ないし代議員予定者の名簿を定数いっぱいに作成し、それを投票にかけるというシステムをとっています。この選挙制度は、「大選挙区完全連記制」といって、歴史上存在した中で最も多数派に有利な反動的選挙制度です。
アメリカでこのような選挙制度をとっていたのは、かつての南部の諸州であり、投票権を得た黒人をただの一人も当選させないために、白人の人種差別主義者が採用したもので、あまりにも非民主的であるとして、その後廃止されて、小選挙区制に変えられました。つまり、党内の選挙制度は、小選挙区制よりも反動的な選挙制度をとっているのです。
「大選挙区完全連記制」を簡単に説明すると次のようになります。たとえば、定数が5の大選挙区があるとすると、それぞれの党が5人までの候補者の書かれた名簿を提出することができます。そして有権者はそれぞれ5票を持ち、それらをそれぞれ別の候補者に投票します。この選挙制度ですと、ある党(仮にA党としておきます)が51%の得票をとれる力があるとき、A党の支持者は自分が持っている5票をすべて、A党の候補者5人に1票づつ入れますから、このA党が全議席をとれることになります。仮にB党が49%の支持を得ていても、B党はただの1議席もとれません。
これは、2大政党が存在する場合の計算ですが、もし3大政党があるとすると、計算上、34%の得票率があれば、全議席を1つの党が独占することができます。
小選挙区制は、よく4割の得票で6割の議席、と言われていますが、大選挙区完全連記制はそれ以上に多数派が独占可能なのです。南部の白人人種主義者は、黒人を一人も当選させないために、このような選挙制度を導入しました。この制度のもとでは、白人が有権者の50%以上いるかぎり、黒人は絶対に1議席もとれないからです。小選挙区制だと、地域によっては黒人が住民の多数を占める選挙区ができるので、黒人もかろうじて議席をとれますが、大選挙区制だと、全体としての黒人の人口比が50%をどうしても割るので、結局、白人がすべての議席をとってしまうのです。
そして、民主集中制を標榜する日本共産党は、党内のあらゆる選挙において、多数派が全議席をとれる大選挙区完全連記制をとっています。たとえば、次期大会の代議員選挙があるとしましょう。ある県での定数が30とします(つまり、その県から大会に30人の代議員を送ることができる)。すると、代議員を選ぶ県の党大会で県委員会は、30の定数いっぱいの大会代議員候補者名簿を提出し、それを選挙にかけます。有権者たる県大会代議員は、それぞれ30の票を持ち、それを各候補者に1票づつ投じます。もちろん、30票すべてを投票しなくてもかまいません。気に入らない候補者がいれば、その分棄権してもかまいません(党内では、この棄権票を考慮して、党内の選挙制度を「不完全連記制」などと呼んでいますが、これは「完全連記制」とまったく同じシステムです)。
さて、その県大会で、推薦名簿とは別に少数派の対立候補が出たとしましょう。しかし、その人は、有権者の過半数の支持を得ていないと絶対に当選できません。たとえば、有権者の数が100人だとすると、51人の支持を得ていないと少数派は1人の当選も出せないのです。もし党内選挙が比例代表制なら、少数派は4人の支持を得ていれば議席を獲得できますが(100÷30=3・333…)、完全連記制だと、たとえ4人の少数派支持者がいたとしても、多数派の候補者はすべて96票を獲得し、少数派の候補者は4票しか獲得しないことになり、圧倒的な差で落選します。
しかも、党内の選挙は多段階の選挙であり、それぞれの段階において、この大選挙区完全連記制が行なわれますから、最後の党大会にくるころには、ただの1人も少数意見の持ち主は代議員の中にはいないことになります。
何という反動的な選挙制度でしょう。どうりで、最後の党大会では必ず満場一致になるはずです。少数意見を持った党員が、3割いようが4割いようが、とにかく過半数に達しないかぎり、1議席もとれないのです。
では、この選挙制度をどのように改良するべきでしょうか? いくつか方法があります。まず考えられるのは、指導部の名簿提出制を廃止し、完全な自由立候補制にすることです。指導部のお墨付きがなければ、大選挙区完全連記制のもとでも、多少は、少数意見の持ち主も当選する可能性が出てくるでしょう。
しかし、指導部や代議員への立候補がままならぬ現状があるもとで、名簿制を完全に廃止すれば、定数すら埋まらない可能性もあります。また、形式的には名簿を廃止しても、裏で事実上の名簿がつくられ、指導部推薦の候補者かどうかがわかるようになっていれば、やはり、多数派が全議席をとることになるでしょう。そこで次の方法が考えられます。
つまり、指導部が提出する代議員名簿に入る候補者数を定数よりも少ない数に限定するよう制度化することです。たとえば、指導部の提出する代議員名簿の候補者数は定数の6割を越えてはならない、という一文を規約に入れることです。こうすれば、残りの4割に少数意見の持ち主が食い込める可能性が出てきます。この6割―4割という数字には一定の根拠があります。つまり、多数派には多数を占める権利を与えつつ、少数派には一定の割合で議席を占める権利を与えるということです。指導部内の男性優位をなくすために一部の先進諸国の政党でとられているいわゆるクォーター制も、どちらか一方の性が指導部の6割を越えてはならないとされています。
以上は、大選挙区完全連記制が存続するもとでの改良です。次に考えられるのは、選挙制度そのものを変えることです。いちばん民主的なのは、分派を容認した上で、比例代表制にすることです。すなわち、各派(多数派を含む)が拘束名簿を提出し、それぞれの名簿が獲得した票数に応じて代議員ないし役員の議席を割り当てるのです。これがいちばん民主的であり、共産党が国政で要求しているのもこれです。共産党は、国政では比例代表制を主張しながら、党内では、最も反動的な選挙制度をとっているのです(国家の体制と党内の体制とは違う、という例の言い訳については、別の機会に反論しましょう。ここで一言だけ言っておけば、共産主義を標榜する党の内部体制のほうがブルジョア国家の体制よりも民主主義的であるべきでしょう)。
それはさておき、この根本的改革案は、分派の容認という前提条件をともないますので、おそらく党内の抵抗が強いでしょう。そこで、分派を容認することなく、一定の少数意見が代議員や役員選挙に反映する制度を考える必要があります。その1つは、制限連記制にすることです。完全連記制の場合は、定数と同じ数の票を有権者が持ちますので、全議席を多数派がとってしまいますが、制限連記制ですと、たとえば定数5に対して2票を有権者が持つというようになり、議席の配分はかなり比例代表に近くなります。戦後、日本は一時的にこの制度をとっていたこともあり、そのときの議席配分はだいたい比例代表的でした。実際の運用にあたっては、党内選挙では定数が多いので、定数の半分の票を有権者が持つと規定するようにすれば、いいでしょう。
あるいは、もっと大胆に、日本の地方選挙のように、大選挙区1票制という制度も考えられます。つまり、定数が30だろうが40だろうが、有権者は特定の1人にだけ投票するというシステムです。しかし、この制度は、党内選挙のように、選出定数と有権者数との間にあまり差がないような場合には(定数30に対して有権者100人とか)、得票数ゼロという候補者が続出することになり、うまく機能しないでしょう。そこで考えられるもう一つの選挙制度は、累積投票制にすることです。累積投票制とは、すべての有権者が定数と同数の票を持ち(ここまでは、大選挙区完全連記制と同じ)、この自分の票を特定の候補者に複数入れることができるというものです。たとえば、定数5であれば5票をもち、その5票をある候補者に全部投票することができるのです。あるいは、3票をAという候補者に、2票をBという候補者に投票することも可能です。この制度だと、ほぼ比例代表的な結果を得ることができます。
たとえば、定数5に有権者が10人いるとしましょう。有権者10人のうち、A党支持者が6人、B党支持者が4人いるとし、A党は、全議席をとるために5人立候補し、B党は、2人だけ立候補するとします。大選挙区完全連記制のもとでは、A党が全議席をとってしまいます。なぜなら、A党の候補者はそれぞれ6票づつとり、B党の候補者は4票づつしかとらないからです(B党の支持者は、自分の持っている5票のうち、2票はB党の候補者にそれぞれ入れますが、残り3票はA党に入れるわけにはいかないので、棄権票になります)。
しかし、累積投票制だと、A党の支持者は引き続き、そのすべての票を1票づつ5人のA党候補者に入れますが、B党の支持者は、自分の持っている5票をすべてB党の候補者に集中させることができます。すると、B党の候補者は、うまく票の配分が実現されると仮定すると、B党支持者の全票数(4×5=20)を2で割った数、すなわち10票づつ獲得し、見事2議席をとることができます。もしB党が3人たてたとしたら、それぞれ7票、7票、6票の得票となり、2人当選、1人同点となります。B党が3人たてると、下手すると過半数とられるので、A党は、候補者を絞って、たとえば4人だけの立候補にします。すると、4人でA党支持者の全票数(6×5=30)を分けるわけですから、8票2人、7票2人となります。つまり、2人当選、2人同点となります。A党が4人に立候補を絞ると、B党は、2議席もとれなくなる可能性が出てくるので、やはりB党は、その支持者数に応じた立候補者数に絞るでしょう。つまり、この場合は2人です。すると、さっき計算したように、この2人のB党候補者はそれぞれ10票づつとることになり、見事2人当選となります。こうして全体として、A党3人当選、B党2人当選となり、この議席配分率は、得票率と完全に一致しています。
以上見たように、分派を容認しないでも、さまざまな形で、少数意見を大会の構成や指導部の構成に反映させる方法はいくらでもあります。要は、現在の指導部が少数意見の反映を望んでいるかどうかです(当然、社会主義政党としては望むべきですが)。
私としては、とりあえず、最も手っ取り早い改善策として、指導部推薦の名簿に記載される候補者の数を、定数より何割か少なくするという改革案を主張したいと思います。これがいちばんすぐに実行可能であり、そしてわかりやすいものだからです。しかしながら、現在の官僚主義的指導部のもとでは、どんな穏便な改善策も、一顧だにされないでしょう。