こんばんは。「保守」の地域経済分科会です。
0.はじめに
本稿では、私の地元広島県を主に例として、産業政策の見直しを考え、現県政の問題点も含めて検証して行きたいと愚考致します。
1.危機的経済・財政状況、原因は何か?
本県の経済情勢は、全国同様、企業収益には改善がみられつつあるが、雇用などは極めて厳しい。
また、財政は、県は税収の増加を予測しているが、これも疑わしいと思われます。こうした中で、2000年度の県債残高は当初予算のほぼ1,2倍の1,35兆円あまり、2000年度以降毎年5-600億円の構造的財源不足が発生する見込みと言う惨憺たる状況になっています。
こうした中、県は、「行政改革」をすすめ、職員の昇給延伸や、職員数の削減などを進めています。
2.財政危機は「経済失政」の結果に過ぎない
しかし、いくら、職員数を減らそうが、危機が解消するはずがありません。なぜならば、財政危機は、いままでの本県ならびに国レベルでの経済失政の累積であるからです。
経済失政とは何か。
一つは、大規模事業です。
政府の経済対策に従う形で、本県も92年以降、公共事業の積み増しを続けてきました。それは、県債の財政投融資引き受けによる単独事業が1980年頃までのそれに比べ比べて増えているのが特徴です。
大規模事業としては、ガンセンター構想や空港へのリニアアクセス構想などがありましたが、これは、さすがに中止となりました。
しかし、広島空港3000m化を始め、国の補助事業も含めて大規模事業が目白押しとなっています。
広島空港は、もともと、広島市が、騒音問題で県の滑走路沖出しなどの提案を拒んで「追い出し」今の本郷町に移転した経緯があります。
そのことは、県と市の確執の一因となっていますがこれはあとで触れます。
「国際化時代に乗り遅れまい」として、今現在、神戸空港や、関空2期工事さらに岡山での国際空港などが、瀬戸内海沿岸の極めて狭い範囲に集中して進んでいます。
しかし、このままではどこも市場を確保できずに共倒れに終わるのが目に見えています。
もう一つの大規模事業が「工業団地」造成です。工業団地は、現在県内に20ほど造成しているのですが、総面積の半分以上が売れ残り、しかもなかなか売却のめどはたっていません。
最高十億円の助成金制度など支援策を充実させてもです。
そもそもこういう工業団地を誘致すると言うのは、いわば大企業を東京から持ってきて、そこで東京から投下される投資資金や賃金などのマネーフローに頼って地域経済を運営して行こうと言う手法です。
しかし、もはや、広島は、これ以上大企業にとって投資を増やす対象ではありません。いわゆるグローバル化により途上国への生産拠点のシフトなどもあり、今までの図式は成り立たず、地域外から入ってくるマネーフローは細り、地域内での消費により外へ出て行くマネーフローはそう急には変化しませんから、その分「経常赤字」となります。
その「赤字」がたまたま県なり市町村なりの「政府部門」に現れている。これが地方財政危機の実相です。まさに旧来型の経済政策に固執した経済失政によるものです。
むろん、97年以降の金融不安、消費不況を招いた、橋本政権の無謀な「財政構造改革」、金融部門での「アメリカ化」(実際はアメリカでもペイオフなどやっていない)、さらにBIS規制の厳格過ぎる運用など、国政レベルの経済失政の責任も重大です。
そうして、結局国政レベルでも、むしろ銀行に60兆円も公的資金を用意せざるを得なくなるという皮肉が生まれたのですがここでは主として地域経済についてのことですので手短に触れるだけとします。
3.福祉・環境重視と中小企業、マイクロ企業育成こそ
福祉重視というと、「福祉は財政を圧迫する」と言う反論が頭の硬い「保守」からあるでしょう。環境についても、環境は大事なのは分かっているが経済が先だ、という観念から離れられない方も少なからずいらっしゃると愚考致します。
また、中小企業というと、「非効率だ、この大競争時代そんなものを養っている余裕は日本にはない」という主張もまま見られます。
しかし、どれも誤りです。
今までの大規模事業で大企業を誘致してくるという政策のほうが余ほど資源を無駄にしています。大企業は、大量生産、規格生産を得意としています。
ですから、それを考えたとき、最適なコストで生産できるところへどんどんシフトしてしまいます。今の状態では大企業を誘致しようと言うのは無理でせいぜい今ある企業を逃がさないのが精一杯でしょう。
しかもそのコストは為替レートでもかわってくる。為替レートは国際金融市場で決まります。国際金融市場の不安定さに地域経済をさらす愚を犯す事にもなる今までの県政のあり方よりは、福祉重視、すみよさ重視、環境重視にして、例えば、インターネットで仕事をするような人に定住してもらうなどの方向のほうがましでしょう。
さらにいえば、大規模事業は、大量生産、大量消費の「資源・エネルギー大量消費型社会」を前提としています。そんな社会が長続きするわけがありません。
ゴミ処理場の寿命には限界があります。さらにエネルギーをとってもこれ以上山口県や島根県に原発をつくってもらうのは、国の財政状況(見かえりの地域振興策の原資を出す)を考えても、環境重視の流れを考えても無理です。
また「大規模公共事業をやめると、雇用が減る」というのも主張としてあります。一見まともそうですが、違います。例えば、公共事業でも、いらなくなった小学校の教室を改装して老人ホームにするなどが考えられますし、住宅分野でバリアフリーへの改装を支援するという方向も考えられます。これらの事業は案外雇用を生み出します。
さらに中小企業が生産性が低いと言うのも誤りです。統計に出てくる生産性の低さは、むしろ大企業に比べてインフラ整備などで恵まれていないとか、大企業の下請けになっているとき、面倒なところは中小企業に任せている、などのことによります。
だが、これからは、むしろ多品種少量生産のようなもの、また福祉のようなサービス業への需要が増えて行きます。
インターネットなどをうまく利用すれば中小企業でもその道の専門として世界中から注文を取る事も可能でしょう。
ですから、まだまだ、中小企業を県政として支援して行かねばなりません。
それは先端技術だけではありません。例えば筆や家具と言った本県内の伝統産業でも、時代の変化に合わせて若者や海外の人にも広がるような「新たな伝統文化」を生み出すなど。伝統文化は「地域限定」のものですから、ある意味それをウリにする事も考えられます。(熊野でなければ「熊野筆」とは言わない)。
また、これからは、消費者意識の成熟にも支えられて「エシカル・エコノミー」の部分も拡大すると思われます。広島は被爆都市として世界恒久平和を願う立場にありますから、貧困問題、南北問題の解決と言う点からもインターネットを活用したフェアトレードや第三世界ショップのようなものを奨励し、南の健全な経済的発展と文化の紹介による相互理解のようなものを、半分ビジネス、半分ボランティアのような形でやってもみるのも面白いと愚考致します。
4.地域経済を守る施策と財政の抜本的転換を
これから、しばらく県政が進めて行かねばならない施策は、地域経済を守る施策と、大型事業の全面的中止も含めた抜本的な財政改革と愚考致します。
地域経済を守る施策としては、まず、国際金融市場のきまぐれから地域の企業を守る必要があります。
そのような金融政策が必要です。信用組合や農協の安易な解体は致命的打撃を地域の企業に与えかねません。
市場原理に任せれば金融機関の利用者によって悪い金融機関は選別されすべてはうまく行くというのが、理論としてはありますが、現実には、1個しか金融機関がないなどの地域もあり、また、定期預金を預ける一方で融資も受けているという企業もあり、その場合はすぐ取引先を変えるわけには行きません。
現行の制度をフル回転させつつさらに、例えばエコマネーを導入するなどで対応すべきと愚考致します。
また、人材流出への対応も重要です。広島では若者が地元の大学を出ても他へ就職してしまいます。これでは、どんどん、地域経済の集積も薄くなってしまいます。
例えば学生が、卒業後、あらたに地元で起業するのを支援するのも重要です。企業のコンサルタント役や企画を提案するような人材を行政で抱えるか、あるいはNPOなどに委託するなどして、全面的に若者を支援します。
投下する資金のうちかなり無駄になるという批判も予想されますが、大型事業ばかり進めても成果が0であることが明らかなら、むしろ少しでも成果はでる方へ投資するのが得策でしょう。
小さな企業が増えれば、雇用も増え、税収も増えてきます。地域内での経済循環も盛んになってきます。最後に付け加えるなら、県と市の不仲には呆れるばかりです。空港問題など意地の張り合いばかり。意地のために仕事をするのではなく市民のために仕事をせるよう願わずにはいられません。
5.来年参議院選挙、県知事選挙が山
もはや本県にとって残された時間は短いといわざるを得ません。なぜならば、改革が遅れれば、どんどん、広島経済にとっての「経常赤字」が累積し、民間も行政も新たに必要な投資(福祉、環境、中小企業)への資源を失い、また気力も失うでしょう。
来年参議院選挙、県知事選挙、そして遅くとも2003年広島市長選挙、統一地方選挙までがギリギリの限界ではないか愚考しております。2005年の知事選挙後も大きな変化がなければ、もはや状況は絶望的といわざるを得ません。
来世紀始めの5年間ほどが、来世紀の広島の浮沈を決めてしまいます。上記選挙戦を通じた活発な政策論議が求められます。