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「現状分析と対抗戦略」討論欄

「IT革命」時代の新自由主義との対決を

2001/7/22 澄空、30代、会社員

 渡辺治氏の最新著作や「伝言板」で紹介されている自治労連のサイトのインタビューなどを読みました。自治労連の今年のインタビューは、これまで「さざ波通信」が展開してきた議論と一致するばかりでなく、さらにこの間の改憲へ向けた動きなども、新自由主義の時代の新しい国民統合(アメリカ型統合)の追求と分析しています。現在の日本の政治状況を的確にとらえていると思います。
 自治労連のインタビューで渡辺氏は、対抗勢力の課題として、次のように述べています。

 新自由主義改革の大きなつけが本格的に出てきたときに、どの政党が、オルタナティブな構想を提示して、従属的諸階層をヘゲモニー的に統合できるかが重要になってくると思います。そうなった時に、そこから運動をはじめるのでは遅れるわけです。イギリス労働党がそうでした。
 いま新自由主義改革が本格的に始まったところで、旗=「第三の道」を立てられるかどうかが、重要だと思うのです。そこはアメリカやイギリスの教訓をもう少し学んでおかないといけない点だと思います。

 私はこれにも全面的に賛成です。
 そこで、この「第三の道」を立てる際に、考慮に入れなければならないことがあります。それは、国家戦略とまでされている「IT革命」についてです。報道によれば、現在行なわれているサミットでも、サミット諸国から途上国へのIT革命支援がうたわれており(「ジェノバ行動計画」)、これがグローバリズムと言われる現代資本主義にとって大きな意味を持つことは間違いないでしょう。
 また、小泉内閣の高い支持率は、構造改革が「IT革命」と結びついたことにあるのではないかと私は考えています。たとえば、一般投稿欄をみまわしたところ、「5/15小泉内閣は、革命内閣である(待子)」という投稿があります。

 私は、革命は支配者の側がするものという観点に立っています。今までも述べてきたように、産業革命しかり、情報革命しかり、今度の小泉内閣は、自民党革命内閣だと評価しています。

 これなどを読むとまさしく、「IT革命」も、それ自体は、小渕・森内閣で準備されたものであるとはいえ、小泉人気の大きな要因であると思われるのです。

 日本は構造改革が遅れていると言われていますが、先を行っていたアメリカが構造改革の中で「IT革命」を産み出したために、遅れた日本では、両者を結びつけること、あるいは先行したアメリカの教訓や成果を踏まえて進めることが可能になっています。
 アメリカの90年代の好況は、一過性のものとみなされたり「バブル」だと言われたりもしましたが、一方で、「IT革命」が90年代の好景気を支えたのだとする(今は閣僚になっている)経済学者もいます。実際には、90年代のアメリカの生産は他の先進国同様に伸びておらず、古い産業が崩壊し新しい産業が勃興するという構造転換が起きただけなのですが――それゆえ、「IT革命」が全体としての好況を保障するわけではありませんが、景気を悪化させるとも言えません。
 渡辺氏の著作では、橋本内閣が新自由主義、構造改革を手掛けたが、国民の反発を招いたために、一時改革を凍結し、小渕・森内閣という息継ぎ内閣ができたという見方が示されています。しかし、これは単に息継ぎだったわけではなくて、これらの内閣は「IT革命」を国家戦略として次々と政策化しています。この「IT革命」が、小泉内閣を準備したと言えるのではないでしょうか。
 小泉内閣が「痛み」を伴う構造改革をすすめると言い、同じ新自由主義派の民主党などは、「痛み」のあとにどんな展望が開けるのか明らかでないと批判していますが、実際には「IT革命」がある程度の「展望」を示しているわけです。
 また、小泉氏が主張している郵政事業の民営化は、さまざまな抵抗でもって表立っては言えない状況に追い込まれていますが、公共部門の民営化という点では、すでに着々と準備がすすめられています。
 「電子政府」政策がその主要なものです。2003年までに中央省庁レベルで、2005年までに地方自治体レベルで、公共部門の業務を電子化するというものですが、これなどは、支配層が渇望する行革の起爆剤となり梃子となるでしょう。さらに、公共団体の業務における電子化は、公共部門への民間資本の導入を容易にすることでしょう。それは、サッチャーのイギリスで推進された「PFI」の日本版として、またその新バージョン(IT版)として、すでに研究もすすめられています。

 このように、アメリカなどから遅れて着手する日本の新自由主義改革は、単なる二番煎じで、先行した諸国と同じ矛盾や問題を生むのではなく、遅れて出発したゆえに、先行者の教訓を学び、成果を取り入れたより新しい形ですすむと考えられます。
 ITに対するわが党の立場は、それを民主主義の手段として、「新しい技術を社会全体が有効に活用できるようにするための本格的な方策をとることが重要」(第22回大会決議)だというもので、それ自体には反対するものではありませんから、このIT革命と結びついた構造改革をどのように評価し、どのように対峙していくのかは、支配層が具体化する政策の具体的分析がどうしても必要です。しかし、今までのところ、対抗勢力側の分析が弱いのではないかという気がしています。