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「現状分析と対抗戦略」討論欄

比例区80削減案のアドバルーン化、愚等虫さんへ

2003/12/17 原 仙作

 私は次のように考えています。
 第1に現在の政治情勢ならびに庶民派(社民・共など)の議席数を考慮すれば、共産党がどんなに頑張っても、個々の事例の救済に力を発揮するという以上のことはできません。愚等虫さんが言われる苦境にある庶民全体の状況改善には政治情勢全体の大きな転換が必要です。共産党が現状の選挙戦術をとっているかぎり、あるいは、社民、新社会党との連携を模索する程度では大差がありません。つまり、状況改善は狭い範囲のもの以外望めないのです。もちろん、民主党政権でも庶民の状況はかわりません。即効薬はありません。だからこそ、迂回路が必要なのです。
 第2に民主党による比例定数80の削減問題ですが、政党の公約はかならず実現するというわけでないことはご存じのとおりです。そこで、民主党が政権をとった場合、この公約を実現する可能性がどの程度あるかを検討するということになりますが、結論からいうと、民主党が相当のやる気を出しても、ほとんど不可能に近いと思います。
 理由は①、現状では民主党が比例第1党であり、民主党全議席の72/177で40.6%を占めています。他方、自民党は69/237で29.1%にすぎず、80削減の影響は自民より民主に大きく現れます。現状の得票率で推計すると民主は比例区で32議席減少します。②、比例区削減には公・共・社民が反対しますが、特に公の反対論の影響が大きく、民主党政権が成立した場合、公の協力が必要になることを考慮しなければなりません。③、自民は80削減で動くことはないでしょう。公が反対するからです。つまり、自・公・共・社民が反対では80削減はできません。
④、政権をとった民主党が80削減後の選挙で政権を維持しようとすれば、小選挙区で過半数をとることが必要になりますが、その議席数160は必要で、現在より55議席増やさなければなりません。約1.5倍の議席です。よほどのフォローの風が吹かない限り、自・公を相手に単独あるいは社民の協力だけで、この議席を確保することは難しいのです。⑤、公は容易なことでは民主党政権に肩入れすることはないでしょうし、本格的民・公連携の可能性はありません。細川政権以来の非自民政権の紛糾を経験しているからです。その意味では公はすでに自民内の最強派閥とすらいえます。⑥、政権をとって4年目の選挙で80削減の選挙を戦うわけですが、政権党の姿を国民が4年経験するわけですから、よほどのフォローの風を期待するのは無理があります。民主党の新自由主義は庶民には評判が良くないはずです。
⑦、政権をとった民主党は破綻寸前の国家財政を背負うのであり、福祉切り捨ての自民路線は踏襲しなければなりません。同じ政策であることが庶民にわかれば、小選挙区での蓄積の薄い民主は自民に勝てず、小選挙区票は自民に回帰するか、第3党にいくか、寝てしまうでしょう。⑧、民主党政権誕生が仮に3年後だとして、国政が抱える難問は山積しており、80削減案で議会を揉む余裕はないでしょうし、政権基盤がまだ不安定(数のうえで、また党分裂の芽もある)ですから、単独で80削減をごり押しできないでしょう。⑨、80削減は現在の当選議員を削減する可能性を開くものですから、当選議員の多くは削減に消極的です。⑩、比例区80削減のねらいは、2大政党制を作りやすくすることですから、今回の選挙戦前とはすでに民主党にとって情勢が変わったというべきで、80削減のねらいは、すでにほぼ実現したというべきです。
 おおざっぱにみても、ほぼ、こうした事情があるわけですから、民主党が政権をとった場合、本気で80削減に動くとは思えないのです。80削減を死活とする民主党の政治的事情が見あたらないのです。政権奪取前の「マニフェスト」であった80削減が総選挙後アドバルーン化したというべきでしょう。したがって、80削減の動きが本格化するということがあるとすれば、上記の政情とは別のところで、民主党によってということではなく、支配勢力全体の利害からくる事情で動き出すということなのですが、この点でもすでに⑩で述べた事情がそのまま支配体制にもあてはまるわけですから、そうした動きは考えにくいのです。