投稿する トップページ ヘルプ

「現状分析と対抗戦略」討論欄

2ちゃんねるとさざ波通信

2005/09/23 千坂史郎 50代

 インターネットは、ますます隆盛を極めている。関連会社が掲示板やホームページに加えて、ブログと称される新たな大衆的で簡単で利用しやすい仕組みを商品化するや大量に利用されつつある。今回の総選挙で、自民党はホームページやブログの業者を呼び、選挙に積極的に利用し、大衆的効果を高めようとした。

 このように、最初軍事的技術から産業化されたインターネットの世界は、韓国やアメリカなどを筆頭にして世界的に利用され、日本でも利用率はさまざまな分野に及び、いわば「時代の寵児」のようにもてはやされている。

 インターネット・ブームにより、IT関連会社は実に儲かり、プロ野球に参入した楽天。またライブドアの堀江社長「ホリエモン」は、総選挙に出馬して、世間の耳目を集めた。自民党亀井派の領袖だった亀井静香氏が離党して国民新党によって立候補するや、小泉総裁の肝いりで広島県に刺客として送り込まれた。堀江氏が「無所属」だったのは、以前のフジテレビ・ニッポン放送株の取得問題で、自民党内部に強引な経営手法に対する反発が渦巻き、そのことで堀江氏と自民党との調和がとれなかったことによるとマスコミは伝えた。
 このように、日本でもインターネット現象は社会的影響力を強めている。しかし、肝心の「情報の思想性」「情報の真実性」「情報の民主性」はどうであろうか。残念ながら、玉石混交からというよりも「悪貨、良貨を駆逐する」の感が強い。

 今回私が問題としたいのは、紙の発明や輪転印刷機の発明に続く第三の情報の革命的進展と目されているインターネットの「無思想性」あるいは、「思想を脱色化・無力化」させている現状への危惧である。
 私たちはパソコンが社会に大量に出回っている現在、送信されている情報の中身の質を考えるべき段階にきているまではないだろうか。かつて評論家の大宅映一はテレビの出現を「一億総白痴化」と称した。いまインターネット情報の内在的意味を問う段階にきていると考える。

 最近、大流行の「電車男」はもともとインターネット「2ちゃんねる掲示板」の書き込みスレッドの一つとしてうまれ、その人気に目をつけた新潮社が単行本化した。それが映画やコミック、演劇と拡大し、その相乗効果のもとにテレビドラマにもなり、視聴率は20パーセントを超えた。純愛物の一つとして私もテレビドラマを家族と見ていたが、この社会現象に懸念も出ている。それはあまりにも2ちゃんねる掲示板を美化して、ひとつの複合マスコミ産業商品として売り出されたタイミングの巧妙な操作に対してである。

 「電車男」のストーリーの大衆性が受けるのは、現代的要素をもっているので、すべて否定的に扱うべきではないと思う。けれど、実際の2ちゃんねる掲示板の実態の書き込みのかなりのスレッドは、「電車男」の内容のように牧歌的で市民的な善意に満ちているわけではない。法政大学の南雲和夫氏は、一貫して2ちゃんねる掲示板の人権蹂躙と闘う会を結成して、匿名による言論の無責任な書き込みを批判されている。2ちゃんねるでの人権侵害の投稿の風潮は、一向に改まる様子はなく、裁判でも2ちゃんねる側の敗訴が続いている。さらに、「2ちゃんねる右翼」と称される一部の書き込みの現政権体制の現状維持とより反動的な論調は、国民の社会心理に一定の否定的影響を与えている。

 そのような観点から、頑固に政治的主張を論議している掲示板「さざ波通信」の文字言語的主張は、それが日本共産党の内部の改革派が、党の中央の民主化やリベラル化を要求して開設されて以来、さまざまな話題を投げかけているが、『政治情報』を吟味し、論議しあう視点からみて、深い「政治言語読解能力」の入門的役割を果たしていると思う。

 もちろん、日本共産党としては、組織的原則を踏まえず開始されたこと、持続していることに、強く牽制し、組織原則を持ち出し、注意を発するなどの規制や、日本共産党のホームページとは無縁であることを数年間明示してきた。

 しかし、最近ではそのような規制の方向性は、「民主集中制」から変わらないけれども、以前ほどの強い違和感は両者の間で薄れてきたのではないか。実際の党員にとってはどうなのだろうか。

 私は、新宿区戸山に移転強行された「国立感染症研究所(旧国立予防衛生研究所」実験差し止め裁判闘争に注目し続けてきた。裁判は、最高裁まで争われ、原告団敗訴という厳しい結果に終った。その直後に裁判支援の「平和コンサート」が開催された。そのコンサートに感銘を受けた私は、私の主宰する掲示板だけでなく、さざ波通信掲示板にも投稿した。裁判闘争を闘い続けた原告団の方から、「さざ波通信掲示板の投稿を転載して、原告団の機関紙に二回に分けて掲載したい」、という連絡をいただいた。恐縮しつつ了解の返事をした。最も厳しい国家権力に連なる感染研の横暴さに、政治的党派を超えて、感染研裁判の会は、インターネット情報を受け止めていた。

 私は、掲示板やホームページで、加藤哲郎氏や伊豆利彦氏、広原盛明氏などの知識人が有意義なメッセージを送信し続けていることを知っている。私自身も、政治的立場の違いがあっても、思想的政治的な土俵の共通性をもって有意義な対話を形成するに足るだけのメッセージや主張を「書く力」を身につけていきたい。同時に、文章の難解さではなく、文章の真実を見抜き読み取る「読む力」を獲得していきたい。