地区機関の常任が全国課題の遂行のため、全支部、全党員をつかみ、全支部、
全党員を立ち上がらせる指導や、点検追及に忙殺され、それとともに数をおう指
導にも流れているという傾向は、一つには「詰めきる指導」という方針のもとで
おこったものであるとともに、もっと根本的には現在の全国課題の遂行という任
務のあり方に起因していることを指摘せねばなりません。
党勢拡大の任務について、いつも「特別の困難性」があるということがいわれ
ています。なぜ特別の困難性があるかについては後ほどふれるとして、実際に、
中央の提唱する月間になっても日程の最後にならないと支部はなかなか立ち上が
らないというのが現状です。いつも支部の同志たちのいうことは方針の上では、
中央や機関のいうとおりだ。しかし、自分たちの職場や地域の力関係はそれほど
かわっていないし、一人一人の大衆をみてもふやせるところまでいっていると思
えないし、とらせにいくのは骨がおれるし、そこまでしてふやさねばならぬとは
思えない」というのが中心です。しかもここで考慮しておかなければならないこ
とは、中央の示す党員一人あたりのふやさなければならない数は下へいくほどふ
えて支部に提起される課題はいつもはるかに大きいものとなっていることです。
こうした支部の現状を打開するため、地区常任委員会の指導の基本は、「いかに
して党員にやる気をおこさせるか」「いかにして党員を立ち上がらせるか」であ
ります。そして、拡大のための一般的なよびかけや指導をどれほどやっても、ほ
とんどの支部や党員の立ち上がりをみることはできません。問題の鍵は、この一
般指導をくりかえしくりかえしやることとあわせて、個別指導をどれほどめんみ
つにやるかにかかっているというのが、長年の拡大運動のなかでつかみとってき
た地区機関指導の経験的鉄則となっています。
地区機関の常任は、方針が出されると、担当する支部について、一人ひとりの
党員が方針をよんだか、一つひとつの支部が方針を討議したかどうか、それに何
人の党員が参加したかをつかまねばなりません。そして方針をよんでいない党員
や討議のおくれている支部をなくすように一つひとつ個別指導をつよめていかね
ばなりません。それとともに方針を討議するなかで支部の実情に具体化したかど
うかをつかみ、その具体化を促進するようにしなければなりません。さ
らにこの具体化のなかで、とりわけ拡大の方針はどうか、目標がはっきりとした
かをつかみ、目標のきまっていない支部や、目標の低い支部へは再指導する必要
があります。しかし支部の目標がきまっただけでは拡大はすすみません。一人ひ
とりの党員の目標まではっきりすること、具体的な拡大対象者があげられるこ
と、工作の日どりが決まることなど、具体的な計画やだんどりまではっきりしな
い限り拡大はすすまないのです。したがって、一つひとつの支部、一人ひとりの
党員の討議の進行状況や目標やだんどりまでくわしくつかみ、課題の緊急性、重
要性をくりかえしながら点検し、とくそくし、一つひとつめきっていくことが必
要なのです。このような地区機関常任の指導の現状を理論化したのが「つめきる
指導」といわれる内容ではないかと思いますし、日報や三日報などは、こうした
活動や指導と結びついて全党に提起されているものだと考えられます。しかし、
日報、三日報とともに、一つひとつの支部、一人ひとりの党員の全部をつかん
で、一つひとつつめきっていくこの指導は大へんなエネルギーと努力を必要とす
るものです。
選挙の場合でも、この数年来、地区機関常任の具体的指導はますます拡大運動
と同様なことが要求されるようになっています。選挙の票よみ活動は、選挙ごと
にその活動が強化され、最近では、実際の得票の二倍、三倍をよむようになって
います。九回大会三中総および一九六三年十二月五日幹部会決定は、このこと
を、一方では「日常的な宣伝、組織活動や選挙戦での政治宣伝活動を前提とせ
ず、単なるいわゆる『今日は、一票たのむ』式で『票よみ』の数だけを性急にた
かめようとして、まだ党を実際上は支持していない有権者を安直に主観主義的に
党の支持者になったと思いこむ主観主義、ひとりよがりからくる見込みちがい」
であるといましめるととともに、他方では「機関が日常的にも選挙戦のなかでも
政治宣伝を一貫して重視して指導することが不十分なままで、票の割当数だけを
機械的にたかめようとする場合には、こういう傾向がより多く生まれてくる」と
指摘しました。ところが、その後十年ちかくを経過するなかで、こうした傾向は
解消されるどころかむしろ増大し、十一回大会五中総では得票の二倍、三倍もよ
むという活動がむしろ普遍的な傾向となっています。そこで五中総は「かつてな
く大きい数字の『票よみ』活動をおこなった」ことを「一面ではわが党の活動量
のひろがりを示す積極的意義をもっている」と評価するとともに、さらにある欠
陥を克服するための「広くあたってかたくよむ」方針を提起しました。支部の党
員の活動量からみたばあい、このことは、得票目標の二倍、三倍を「よむ」ある
いは得票目標の二倍、三倍を「広くあたる」という活動が基本的に確認されたこ
とを意味します。
九回大会三中総では「『票よみ』や『後援会づくり』の組織活動に一面的に偏
重し、活動全体の力の配分とその比重において、政治宣伝活動との均衡をうしな
う」危険や、「機関や細胞の活動がおもに『票よみ』の報告、整理、督促などが
中心となり、多面的な政治宣伝や大衆闘争との結合をいくら強調しても、事実
上、それができがたいような活動にな」る偏向についてふれられています。しか
し「広くあたる」ことを提起した十一回大会五中総ではもはやこれらの
危険や偏向についてふれられていないのです。たしかに九回大会三中総当時とく
らべると、選挙中の政治宣伝活動についてははるかに大量に行われるようになり
ました。しかし、日常的な政治宣伝については、機関紙活動をのぞくとはなはだ
しく立ちおくれている現状であります。また、選挙中おこなわれる大量政治宣伝
も、支部や党員の「票よみ」活動、その報告、督促などと競合しない方法でのビ
ラまきが中心で、個々の支部や党員の政治宣伝の活動水準の問題はその後も根本
的には解決したとはいえないことは十一回大会五中総でも指摘するところであ
り、「票よみ活動」と「多面的な政治宣伝や大衆闘争と結合させる活動」とが競
合関係におちいる危険のあることは、依然解消されていません。
さらに十一回大会四中総は、公示までに得票目標をよみ切る方針を決定しまし
た。どの地方党組織でも「票よみ数」の大半は党員におうものでありますから、
一人ひとりの党員にしてみれば公示までに得票目標をよみ切るためには選挙のか
なり前の時期から票よみを始めねばなりません。また、得票の二倍も三倍もよん
だり、あるいは「広くあたる」ためには、現実には党に投票していない広汎な層
へ、「一票くれ」の活動をしなければならないのです。けれども大衆のなかにま
だ全然選挙が話題となっていない時期から「票よみ」をはじめることはかなり勇
気のいることですし、得票の二倍、三倍の広はんな層へ「広くあたる」活動をす
すめることはなみなみならぬ決意のいることであります。したがって、告示まで
の票よみをすすめ、得票の二倍、三倍をよんだり、「広くあた」ったりするため
に、地区機関のよほど強力な指導が必要となってくるわけで、拡大と同様一般指
導とともに票よみ数の追求やとくそくと結びついた個別指導を徹底してやらなけ
ればならないのです。
この全支部、全党員を一つひとつつかんで動かすという個別指導中心の指導、
「つめきる指導」――それは結局は数を追求することを基本にした指導ですが――
は、拡大や選挙のなかでつくり出されるとともに、いまや地区機関における一つ
の活動方法として定着しつつあります。地区機関常任は、拡大や選挙ばかりでな
く、読了でも、十二条党員の解消でも、財政カンパでも、その他さまざまの課題
でも、同じような活動と指導をすすめるようになっています。愛知県では機関の
召集する会議についてさえも、支部の出席を確保するための点検や確認を二度も
三度もやるという活動が定着化しています。そのため同じ召集状を出しても、地
区機関常任が点検をおこたった会議には党員の集まりがきわめてわるいという現
状になっています。こうして、地区機関常任は地区委員会総会や専門部の必要な
任務――しばしば最小限の任務となりがちですが――などをのぞいて、担当支部への
連絡、点検、個別指導といった活動に埋没し、日常の地区常任委員会は地区委員
長と支部担当者もしくはブロック担当者との会議となる傾向が強いのです。現
在、地区委員、地区常任委員といっても、担当以外の支部の事情はほとんど知ら
ないのが現状でしょう。非常勤の地区委員の団結をかちとり、その協力をもとめ
る方針も前々から出されていますが、全国的にも今日まであまり成功していない
のではないでしょうか。愛知のばあい、いく人かの非常勤の地区委員の団結、協
力をえている例はありますが、「つめきる指導」をつよめる方向での結
集であるため、結局地区機関常任が担当支部の個別指導、点検などで忙殺される
事態の解決にはなっていません。
このようなことは、大都市と農山村では大きなちがいがあります。私がいま申
し上げていることは、主として大都市を中心とした事情で、交通通信機関が十分
整備されず、面積が広大な農山村の党組織では「つめきる指導」といっても、短
時間に全支部、全党員をつかみきることが客観的に不可能であって、大いに事情
を異にすることを申しそえておきます。
以上のような事情から、地区機関常任は、支部の直面する労働組合運動や大衆
闘争などの援助や指導をする時間がないわけです。それほど時間がないのか、信
じられない、と考えられるかも知れません。しかし、本当に、地区機関の常任
が、支部の直面する労働組合運動や大衆闘争の指導や援助を十分やろうとすれ
ば、どれほどねばり強い系統的な努力がいることでしょうか。どれほど落ち着い
て、地域や職場、経営の実情を知らなければならないことでしょう。つまり、ど
れほど時間がいるかご存じのことと思います。労働組合運動の指導の経験を十年
も二十年ももっている老練な同志ならば、支部を点検するときに、職場や組合の
動きをかいつまんできくだけで問題をつかみ、指導や援助をすることができま
しょう。しかしそのような老練な同志は地区機関にはほとんどいません。そのよ
うな同志はわが愛知県委員会でもきわめてわずかしかいません。年齢も若く、経
験もあさい地区機関常任の同志たちにどうしてこのようなことができましょう
か。したがって、次々と電話をかけて連絡をとったり、一晩に四つも五つもの支
部の支部長とあい、拡大や選挙についての報告を受け、点検し、指導するという
活動を続けている地区機関常任には、労働組合運動などについて詳しい報告をき
き、具体的な援助や指導をやっている余裕は全くないのです。
この余裕がないというのは、時間的にもないわけですが、同時に気もちの上で
も、つまり、精神的にも余裕がないのです。拡大月間や○月目標の遂行、減紙回
復などのとりくみにあたって、全党を立ち上がらせる指導の中心内容は、いま拡
大をやることの緊急性、重要性を全党員にしっかりと理解・納得させ、その自覚
をひき出すことだと、党中央はくりかえし強調しています。支部の同志たちにそ
の緊急性、重要性をつかんでもらうためにはなによりも機関の常任が文字通り緊
急で重要だと思っていなければなりません。さらに拡大運動についての中央の方
針をみると、「力を尽くしてやり抜く」とか「決意あらたに奮起」とか「機関の
不退転の決意」などとよびかけられています。こうした緊張した気もちととりく
みが要求されているなかで、どうして支部の大衆運動について、細かな具体的指
導や援助をしている精神的余裕がありましょう。「中央のいう緊急の任務という
のはそのような一面的活動を要求するものではなく、逆にすべての任務を完遂す
るなかで、緊急任務をやり抜くことである」といわれるでしょう。しかしこれは
まったく言葉の上の話で、実践的には、一つの課題を緊急の課題としてやるとい
うことは、他に優先してやるということであり、その結果、他の課題は
相対的にも、絶対的にもあとまわしになるということは、不動の客観的事実です。
しかも、こうした緊張したとりくみが、一年に一度、しかも短期間で終わるな
らば決して問題になりません。しかし、中央指示の月間の直前には、多くの地方
党組織が月間、旬間をすすめていて、その活動から「直ちに全国いっせいの『大
運動月間』に移行し、その間に中絶や混乱を引きおこさせないようにすること」
(七三年七月二十日幹部会決定)が指示されます。「また現在『旬間』『月間』
を設定しないところは『大運動月間待ち』になることなく、ただちに準備をとと
のえ、出足早く活動を開始しなければならない」(同上)ともいわれ、結局大部
分の党組織は、中央の指定する月間よりも半月も一月も前からのとりくみとなり
ます。月間後においても、昨年のばあいは、幹部会の手紙があり、なお、「わが
党を拡大強化することは緊急の課題」で「気をゆるめ」たり、「運動を中断して
しま」つてはならないといわれ、本年のばあいは、大会までに三か年計画を総達
成すべくひきつづいて奮闘することを指示されています。こうして二か月の大運
動月間が実質上、三か月にも四か月にも延長させられています。また昨年には、
減紙解決の月間や総選挙直前の月間があり、本年六月には計画総達成のため「全
力をあげて奮闘」することが決められました。さらにその他にも、○月目標の達
成や減紙克服の課題がたえず緊急、重要の任務として提起され、県や地区独自の
月間や旬間もあります。しかも、特別のとりくみを終えてほっと一息ついて平常
の活動に入ろうとすると、限りなく減紙が出てきますし、持続的拡大をやりぬこ
うとすればさらに決意をかためて、強力な指導をつらぬきとおさねばならないの
で、地区機関ではしばしば、どこからどこまでが緊急の体制で、どこからどこま
でが平常の体制なのかはっきりしなくなっています。
選挙でも、ここ十年間に党の得票は三、四倍となり、「票よみ」はその二、三
倍をよみきる活動となっているため、党員数ではほぼ倍になっていますが、党員
一人あたりの「よみ数」は従前の数倍になっています。そこでかなりはやい時期
から、「一刻をあらそって奮起」せねばならず、公示前後からはあらん限りの力
をふりしぼって決起することがもとめられ、地区機関が緊急体制をくむのは、十
年前とくらべ、かなり長期間になっています。その上に、党の決定の読了も緊急
の体制をとってとりくむことが指示されています。赤旗の党建設欄は十月、連日
のように「緊急に体制をとり」「読み討議をしよう」と大きく訴えていました。
こうして、地区機関常任の前には、ほとんど一年中「緊急の課題」があり、
「緊急の体制」をとってとりくまねばならなくなっています。実さい上成果があ
がっているのかどうかということや、実際上獅子奮迅の勢いで奔走しているかど
うかは別として、気もちの上ではいつも緊張していて落ち着かないという状態に
あります。「落ちついて」支部の直面する労働組合運動や大衆闘争の指導や援助
をしている気持ちになれないわけです。「落ちついて」と云いましたが、いつも
緊急の課題、緊急の任務で奔走し、気もちの上でいつも緊張しているため、支部
の大衆闘争についての細かな相談にのるというのは、本当に「落ちついて」やる
という風に思えるのです。そのように思えるのは、大衆闘争の具体的指
導ばかりではなく、マルクスやレーニンの古典文献を独習するときなども、なに
か遊んでいるようなかんじがするのです。党の常任に自律神経失調症の患者がき
わめて多く、一種の職業病のようになっているのも、肉体的酷使の上に、このよ
うな精神的緊張が持続するということが一つの原因であると考えられましょう。