私への反論に3月号の主要な論文をあてて頂いて光栄に思っています。また僅かの時間で、400字詰め現行用紙にして80枚以上、新書にして50ページ以上の膨大な論文を書き上げる能力に感服しています。議論の態度も紳士的であることに感謝したいと思います。さて、私からも反論させて頂かなければなりませんが、まずなかなか思いきって時間を割くことが出来ず遅くなったことをお詫びします。まだ十分に咀嚼しきれていませんがともかく議論を再会しましょう。
■暫定政権論の問題を綱領に照らして考える
まず私が「党員専用投稿欄」でこの問題を取り上げている理由について述べます。
ネット上での掲示板では、それぞれの方々はハンドル名でしか接触出来ませんから、実際に党員かどうか、どんな立場で活動しているのかなどは知りえませんよね。私が党員かどうか、「さざ波」編集部の方々が党員かどうかは確かめるすべも、必要もありません。にもかかわらず発言者の皆さんが「党員」であることを鮮明にしているのはなぜでしょう。
編集部の場合は、党員であることを明記した上での問題提起という性格があると思いますし、私が規約改正の問題で発言したのもそのためです。また、実態の分からない人々とでも党活動の交流を図りたいという思いもある方もいっらっしゃるでしょう。しかし私が「暫定政権論」の問題をここでとりあげたのは、党員専用投稿欄で発言すれば綱領と規約を支持することを前提として議論できると思ったからです。綱領路線を支持することを前提にしなければ、この問題を議論する角度が全く違うものになると思うからです。
したがって私は最初からこの問題では「綱領路線に照らしてどうなのか」という基準が大事だと思っています。JCP Watchという掲示板である方とこの問題で議論していましたら、結論的に「不破政権論の誤りはまさに綱領路線の誤りに根源がある」という発言をされており、逆の意味からですけれどもなるほどと感心しました。
編集部も脈絡は全く違うところでの発言ですが、私を批判して<綱領問題がこれほどまでに軽視されているのには本当に驚かされます。>と指摘されています。あなた方も綱領の重要性は理解しているようです。そこでまず、綱領に照らしてさざなみ3月号の論文を検証したいと思います。
■綱領の核心は2つの敵の支配に反対する民主主義革命
【現在日本を基本的に支配しているのは、アメリカ帝国主義と、それに従属的に同盟している日本の独占資本である。わが国は、高度に発達した資本主義国でありながら、国土や軍事などの重要な部分をアメリカ帝国主義ににぎられた事実上の従属国となっている】
日本共産党綱領第三章の冒頭で日本の現状と日本の支配者をこのように規定しています。そしてその支配の実態を詳しく述べ、第四章で世界情勢を分析した上で、第五章冒頭で
【以上の全体から出てくる展望として、現在、日本の当面する革命は、アメリカ帝国主義と日本独占資本の支配に反対する新しい民主主義革命、人民の民主主義革命です。】
と革命の性格を規定しています。
これが日本共産党綱領の核心部分です。この綱領の最も肝心な部分を、編集部は理解していないようです。
<アメリカ帝国主義も日本独占資本も、多国籍企業と西側同盟を中心とする新自由主義的グローバリズムを推進しつつ、その過程で生じる混乱や地域紛争を圧倒的軍事力で押さえつける新しい帝国主義的秩序の構築を、その基本路線とするようになりました。また、全国民的統合ではなく、下層を切り捨て中上層に依拠する階層的統合を目的意識的に追求するようになりました。新自由主義と新帝国主義との結合を「新保守主義」と呼ぶなら、まさにこの新保守主義こそが、日米支配層の(そして基本的には世界のすべての先進資本主義国の支配層の)主要戦略となったのです。>
これは、綱領が規定している日本を支配する2つの敵、アメリカ帝国主義と日本独占資本の戦略が「新自由主義」と「新帝国主義」という新しい「基本路線」を選択したという、「さざ波通信」編集部独自の考えです。しかしこのような考えは綱領のどこにも出てきません。「新自由主義」「新帝国主義」の文言も大会決定やその他の党の文章でも見たことがない気がします。もし事例があれば教えて下さい。
しかしいずれにせよ、綱領の核心である2つの敵との闘いを、「基本的には世界のすべての先進資本主義の支配層の主要戦略」である新保守主義と新帝国主義との闘い解消しようというのは、2つの敵との闘いを弱めるものであり、日本共産党綱領の立場ではありません。その態度は私への次の言葉に端的に表れています。
<タケル同志が、「私たちの当面する敵は、あくまでも『アメリカ帝国主義』『日本独占資本』であって、新保守主義や民主党や自由党ではありません」とおっしゃっているのは、まったく問題の本質を見失っていると言えます。>
問題の本質はまさに2つの敵を直視するか否かです。とりわけ連立政権を提唱するような時には、この2つの敵との関係がどうなるかが重要な基準になると思います。
編集部に問います。私たちの当面する敵は何ですか。
編集部が新しい考えを持つのは自由ですし、そういう考えが何らかの形で党の決定に反映するれば面白いと思いますが、現在の水準では私すら納得させることは出来ません。そして、最初に述べたように、こうした新しい考え方を持って暫定連合政権論を批判しても「戦術的な効果の程度」くらいの議論にしかなりません。
■綱領における統一戦線と政府の問題
では次ぎにその2つの敵と闘うのが、幅広い統一戦線だということを編集部が理解していない点を示したいと思います。
私が産別に対抗して出来た総評が、日本の労働運動の主な担い手になった例を示して民主党が変化する可能性を述べたことに対して次の様に批判されました。
<総評が生まれたころの日本と現在の帝国主義日本とでは、根本的に情勢が変わっているのです。民主党の支持基盤は、都市労働者一般ではなく、主としてその上層です。この事実を見落としてはなりません。>
情勢の変化は先にあるような新保守主義の台頭ということだろうと思いますが、これは都市労働者上層部は、私たちとの統一戦線の対象にはならないと宣言したものです。つまり
<「国民」という一枚岩の存在はますます幻想になりつつあります。豊かな国民と貧しい国民、安定した雇用と収入を保障されている国民と保障されていない国民、競争に強い国民と弱い国民、経済の新しい流れにうまく乗ることのできる国民と乗ることのできない国民、このように国民は大きく分裂し始めたのです。>
そもそもの「国民」という一枚岩、という「幻想」がどこにあるのかわかりませんが、少なくとも上記のように都市労働者上層部は競争に強い国民ということを指摘されているのでしょう。
こうした情勢の捉え方では、共産党の暫定政権論に異を唱えるのは当然と思われます。しかし、党綱領とは縁もゆかりもない考え方だと指摘せざるをえません。
綱領で指摘されている「国民の分裂」は、一人にぎりの大企業、反動政治家、上層官僚と、その支配の元に矛盾を深める、労働者、農漁民、勤労市民、知識人、女性、青年、学生、中小企業家などがあるだけです。(ちなみに後者をさして「人民」と呼び分けることがあります。)そしてこうした階層の人々を結集して、広範な民族民主統一戦線を作るのです。もちろん綱領には民族民主統一戦線について、【反動党派とたたかいながら民主党派、民主的な人々との共同と団結をかため……】という記述がありますが、この反動、民主の両党派というのもまさに2つの敵に対する態度を問題にするのであって、最初からその党の「階級的本質」を問題にして区別するような考えが科学的社会主義のものでないことは明らかです。
さらに、綱領では民族民主統一戦線の【政府を作る過程で党はアメリカ帝国主義と日本独占資本の支配を打破していくのに役立つ政府の問題に充分な注意と努力を払う。一定の条件があるならば、民主勢力がさしあたって一致できる目標の範囲で、統一戦線政府を作るためにたたかう。】と述べています。この典型が革新統一戦線による民主連合政府ですが、2つの敵の支配に役立つ政府ならば、今回提唱されている暫定連合政府でも構わないのです。
労働者を都市労働者と地方労働者、上層部と下層部に分けるのは、情勢を分析する上で必要なこともあるでしょう。しかしそれを「分裂」と捉えて情勢を俯瞰していくものの見方では日本革命はおぼつかないでしょう。
綱領では、統一戦線においては【当面の差し迫った任務に基づく民主勢力と広範な人民の共同、団結を、世界観や歴史観の相違などを理由として拒んだりさまたげたりすることは、祖国と人民の解放の根本的な利益を損なうものである】とあるのを思いだして下さい。
■民主党の階級的本質という議論について
そこで、民主党が民主勢力と云えるか、反動党派と云えるかについて考えてみましょう。編集部は繰り返し民主党の階級的本質を問題にします。
<民主党と自由党の新自由主義的・帝国主義的本質は、その一連の政策に、その政治行動に、その主張に、そしてそれが選び出した党首の言動に、その政治的意見に十分示されています。>
として民主党の階級的本質が「新自由主義・帝国主義」にあると考え
<今後ますます階層分化は進み、ますます国民の分裂は進行するでしょう。こうした状況もとで、民主党と共産党とがそれぞれ依拠する基盤はますます対立を深めていきます。民主党はますます都市上層の党として純化されていくでしょう。民主党の階級的本質は変わるどころかますます強化されていくでしょう。>
としてその階級的本質の担い手を都市上層の労働者と規定してます。
確かに、外資系やネット企業の社員の最近の振る舞いはこれが労働者階級かいな、と思わせる点もあります。またこうした階層に反動的な思想傾向が強く現れるのも事実でしょう。しかし上記でも述べたように、我が党はそうした人々を階級敵とは見做しません。また、実際の民主党へ投票する人々の多くは無党派層であり、編集部の言う「都市上層」など一部にしかすぎません。
そしてそうした「都市上層」も「無党派」も「階級的」には兄弟です。ですから編集部の言う「階級的本質」論は誤りです。
しかし現実に民主党が掲げる政策は、憲法にせよ安保にせよ「反動的」な傾向が強いのも事実です。でもそれは変えられるのです。その原動力は反動的でありたい政治家と、自民党政府に苦しめられているその支持者の間でにある矛盾です。彼らは今のところ野党第一党として、政府の批判票を集めなければなりません。そして我が党との間で少しずつ様々な共闘が形作られてきています。国会外でも年金問題などで全労連と連合が一定の共闘が図られました。変わりつつあるのです。
自民党とは組めるのか、という疑問も出てくると思います。
大多数の国民は被支配層ですから、ほとんどの党の支持層も同じです。その意味でいえばどの党も支持層の本質的な要求に従えば変わりうる可能性を持っています。しかし自民党は長年アメリカ帝国主義と日本独占資本による日本支配を政治の上で司ってきたわけですから変わることは極めて困難であり、自民党を支持する人々は日本支配と矛盾を投票行動に現せない人々です。他の党は全て様々な角度でこの政治支配構造との矛盾を抱え、それを変えようというエネルギーが内在しているのです。
■編集部の立場
私は暫定連合政権論は、まさに綱領路線から来たものであって、「不破執行部」の「ソフト路線」に起因したものではないと考えます。ですから、「不破政権論」を批判するのであれば、綱領路線を批判すれば良いと思います。しかしそれはもう共産党員の立場ではないでしょう。
ちなみに、この後、・安保の問題、・細川政権との違い、・連立政権で起こりうること、・その他戦術の問題、などについても反論しようと思いますが、まず綱領路線に対する編集部の考えを糾したいと思います。
ご返答お待ちします。