綱領に書いてある二つの敵の支配が、現在はどのような具体的な戦略的方向性を持っているのかを明らかにすることであり、綱領路線を、その時々の情勢に応じて具体化することです。その具体化の作業は、党中央がやってくれるまで待っておけばいいというものではなく、個々の党員が、日々の情勢や社会変化に注意を向け、綱領路線を踏まえつつ自らの意見を形成し、そして党内において自らの意見を述べ、こうして党中央が全党の英知を結集した形で、綱領路線の正しい具体化をはかれるようにしなければなりません。正しい方針、正しい情勢分析が、突然、上から降ってくるのではありません。
その心掛けは素晴らしいと思います。中央の水準に自分を持っていくのは大変ですが、私も自分の頭で考えてモノを言っているつもりです。そしてあなた方も綱領路線を大事にしようとしていることも分かりました。
しかし下記の点でやはりあなた方は間違っていると指摘しなくてはなりません。
1.新保守主義は情勢規定か
私はあなた方が主張している新保守主義という考え方自体に異を唱えているのではありません。
新自由主義と新帝国主義との結合を新保守主義と呼ぶ
という考え方に同意出来る訳ではありませんが、情勢分析の一つの方向性としてそうした議論があることは多いに結構なことだと思っています。ちなみに私も『経済』の読者です。毎月毎月なかなか難しいので咀嚼出来ていませんが、勉強になると思って頑張って読んでます。昨年5月の論文にも目は通しました。「新自由主義が打倒しようと格闘しているのが戦後の福祉国家だ」という様な記述は良く覚えています。
しかしこれはあくまでも経済学の言葉です。党中央が大会、中央委員会など一連の決定文章の中で行った情勢規定ではありません。
支配階級の最新の戦略方向について必ずしも綱領に書いていないことは十分ありうることであって、綱領に書いてないことをもって、それを綱領路線からの逸脱だと言えるのなら、綱領は毎年のように改訂しなければならなくなるでしょう。
支配階級の最新の戦略方向などという重要な情勢規定については、綱領でなければ大会決定、でなければ全協ないし中央委員会総会に置いて決められることと思います。
最近の党大会の決定をはじめとして、党の公式の文章は、基本的には、私たちが新自由主義や新帝国主義という言葉で表現した中身について語られています。現在進行しつつある、福祉切り捨て、規制緩和、公的部門の民営化、間接税中心の税制度、等々はいったい何でしょうか? これは、何のまとまりもない、それぞれ偶然出てきた諸政策でしょうか? もちろん違います。これらの政策を「新自由主義」と呼ぶのは、社会科学的常識です。
と言われても困るのです。それらの政策が「新自由主義的」だというなら私にもわかりますが、それが「偶然出てきた」のでなく「基本的戦略」だというのなら私にとっては常識ではないからです。
あなた方の議論は、
新保守主義こそが、日米支配層の主要戦略となった。
というところから始まっていますが、それは共産党全体の一致点ではないのです。大会、全協、中央委員会総会の決定にそうした規定があるかどうか今一度問います。
ちなみに
わが党中央は最近の諸文章では「帝国主義」という言葉を極力使おうとせず、「覇権主義」という曖昧な言葉でお茶を濁しています。「覇権主義」というのは、綱領では、ソ連をはじめとする旧「社会主義」諸国の大国主義的外交政策についてしか言われていません。
というのは間違いです。アメリカの覇権主義の問題は経済、憲兵戦略、党の過去の闘い、核兵器、アジア太平洋地域の問題で5度も指摘されています。誤った認識あるいはあいまいな認識に基づいて党中央を批判するのは止めましょう。綱領を読み直すことをお勧めします。
2.闘うべき敵はどこにいるか
都市上層に属する市民でも、良心的な人々は、統一戦線に結集するでしょう。しかし、問題が新自由主義と対決すること、日本の帝国主義化と対決することであるかぎり、この階層が総体として統一戦線の側に獲得されると考えるのは、幻想でしかありません。
ここでも問題は、「新自由主義や日本の帝国主義化と対決する」という表層を見るのでなく、アメリカ帝国主義と日本独占資本という二つの敵を見据えることが肝要です。日本革命おいても、革新統一戦線に於ても、どれだけ広い層にまで戦線を広げるかが大切であり、その基準は2つの敵に対する態度です。ですから、「都市上層」やプチブルを味方にする努力も必要になるんじゃないですか。「総体」の議論をすれば、これだけ情報化社会や個人の自立が進んだ現代に於ては、労働者階級であろうが農漁民、勤労市民であろうが「総体」として統一戦線の側に獲得されることはありえません。どの階級でもイデオロギー闘争が必要ですし、とりわけあなた方の言う「都市上層」ではイデオロギー闘争が激しいだけのことです。【労働者、農漁民、勤労市民、知識人、女性、青年、学生、中小企業家、平和と祖国を愛し民主主義を守る全ての人々】が私たちの仲間です。あなた方は「新保守主義」などの現象を捉えるあまり、敵を見失っています。
ちなみに「都市上層」という概念規定はさすがに私には全く分かりません。これも党の決定でなければ文献などでどう使われているかお教え下さい。
<<この反動、民主の両党派というのもまさに2つの敵に対する態度を問題にするのであって、最初からその党の「階級的本質」を問題にして区別するような考えが科学的社会主義のものでないことは明らかです。>>
という私の意見に対して、
「階級的本質を」問題にする考えが、「科学的社会主義のものでない」とは驚きです。
と決め付けられるのには私も少し驚きました。私は、(要求と目標で一致する何らかの組織を)「階級的本質」を問題にして、統一戦線から排除することが科学的社会主義者の態度ではないと言っているのです。この点はどうお考えですか。
3.民主党について
民主党は現在、要求や目標で一致している訳ではありません。
二つの敵に対する態度が問題だというなら、まさに民主党は、この「二つの敵」に奉仕する政党です。この政党がいつ、どこで、二つの敵と対決したのか、教えていただけないでしょうか?
民主党の階級的本質が例え二つの敵に奉仕するものだとしても、当面する目標で一致出来れば連立政権を組むに値するでしょう。その可能性を排除するのかどうかを問うているのです。その点では、
民主党が変わりうるということをさかんに力説しています。しかし、なぜ変わりうるのかについて、何も述べられていません。
再掲します。
<<その原動力は反動的でありたい政治家と、自民党政府に苦しめられているその支持者の間でにある矛盾です。彼らは今のところ野党第一党として、政府の批判票を集めなければなりません。そして我が党との間で少しずつ様々な共闘が形作られてきています。国会外でも年金問題などで全労連と連合が一定の共闘が図られました。>>
ご不満であれば具体的にご指摘下さい。
4.当面の差し迫った任務とは何か
「当面の差し迫った任務」とはいったい何でしょうか? それはまさに、現在、日米支配層が自民党政治を通じて推進している新自由主義政策と帝国主義化路線と闘い、それを阻止することです。これこそが、「当面の差し迫った任務」です。この「当面の差し迫った任務」と正反対の方向を目指している政党と連合政府をつくろうとすることは、まさに「祖国と人民の解放の根本的な利益を損なうもの」でしかありません。
この発言が私とあなた方の考えの違いを最も明確に示しています。当面する差し迫った任務は、革新三目標の実現です。引用しましょう。
(1)日米軍事同盟と手を切り、真に独立した非核・非同盟・中立の日本をめざす
(2)大資本中心、軍拡優先の政治を打破し、国民の命と暮らし、教育を守る政治を実現する
(3)軍国主義の全面復活・強化、日本型ファシズムの実現に反対し、議会の民主的運営と民主主義を確立する。
どちらが分かりやすいですか。統一戦線を作るに当たっても暫定政府を作るに当たっても、大切なのは「路線」ではなく「目標」です。あなた方の言っている「路線」とは、まさに綱領が言っている世界観や歴史観の問題です。もう一度綱領の言葉を贈ります。
【世界観や歴史観の相違などを理由として拒んだりさまたげたりすることは、祖国と人民の解放の根本的な利益を損なうものである】