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党員用討論欄

民衆の政治的成長を示した総選挙(1/2)

2000/7/3 川上慎一、50代

 総選挙が終わりました。今回の総選挙の結果を見て、思いつくままに個人的な感想を投稿します。
 残念ながら日本共産党は議席、得票、得票率のすべてにわたって減少し、しかも、すべての野党が議席をのばした中で、ただ日本共産党のみが減少させたというあまり経験したことのない結果でした。
 政党支持の動向を理解しやすい比例区を中心に考えます。

【自民党の凋落】
 自民党の得票率は28.3%でした。前回の32.8%から4.5%の減少でした。この数字は政権を担当する政党の得票率とは思えないものでした。
 自民党の集票構造は公共事業などさまざまな「利権」を通じて結びつきを強め票を集めるというものでした。大きなものでは関西国際空港や中部国際空港などから、細々としたものでは、官庁などへの口きき、コネをきかした就職の斡旋、交通違反のもみ消しなどにいたるまで、さまざまな利権誘導が自民党を支えてきました。都市部を中心に始まった自民党支配の崩壊はしだいに広がり、全国的な趨勢になり、今日ではもはや28.3%(最高は石川県の45%、最低は東京都の19.5%)の得票率しか獲得できないところまで進行してきたということです。
 無党派層とよばれる若年層を中心とする人々は、このような利権誘導を基本とした従来の枠にとらわれず、そのときどきの政党の政策や政権へのスタンスなどを判断材料として、その都度、選択をして投票をするのだろうと思います。企業、農業団体、労働組合、同業組合などの拘束によらず、自分で判断して投票するという点で、これらの無党派といわれる人々が厚い層を形成するようになったことは、民主主義の成熟という点では歓迎すべきことだろうと私は思います。「日本は天皇を中心とする神の国」と言おうが、「投票には行かずに寝ていてくれると…」と言おうが、収賄をしようが、有罪判決を受けた候補者であろうが、「地元に利権をもたらす人」に投票をする従来の選択より格段に優れた選択ではないでしょうか。そして、自民党支配に致命的な困難をもたらしているのは、この層の成長にほかなりません。自民党と民主党との政策的な本質的な相違がどれほどあるかという点については別にして、ともあれ、自民党政治が音を立てて崩壊しようとしていることは間違いないでしょう。そして、崩壊が進行しつつある自民党支配がふたたび回復することはないだろうと思います。
 旧来の自民党政治が崩壊しつつある中で躍進したのは共産党ではなく民主党であったというのが今回の総選挙の特徴です。人々の政治意識の現実です。

【現在の選挙制度こそ民主主義に対する最大の害悪】
 自、公、保の得票率の合計は41.7%です。投票率が約60%ですから有権者の4分の1そこそこの支持しか獲得していない勢力が再び政権を担当することになるのでしょうが、この仕組みこそが日本の民主主義の健全な発展を阻害するものといわねばならないでしょう。謀略ビラは厳しく糾弾されなければならないでしょうし、この卑劣な行為を許すことはできませんが、何よりも日本の民主政治における最大の害悪は小選挙区中心の現在の政治制度にあることを不断に主張しなければならないでしょう。開票時のインタビューで、党幹部はこのことをもっともっと言うべきであったと思います。比例区得票率を単純に総議席数480にかけると日本共産党は53議席を獲得することになります。
 日本共産党の正規の選挙総括はあらためて行われると思いますが、他の党と同じような議席数最優先の立場ではなく、議会内のできごとだけに目を奪われることなく、日本の政治を全体として考える立場で総括されなければならないと思います。「政治は議会の中だけで決まるのではない」という立場を、だれよりも党指導部が深く認識すべきであって、このことは「人民的議会主義」においても当然のことです。このことは「人民的議会主義」なる言葉が用いられるようになった当時には自明のことでした。だから、やや釈然としないものを感じた人も少なくなかったのでしょうが、あえて誰も「人民的議会主義」に異論を唱えなかったのだろうと思います。議会内のかけひきやテレビ討論会に埋没し、本当の政治の主人公である無数の民衆の闘いを組織し、励まし、広げていくことを忘れてしまったのでは、その議会主義はもはや「人民的」ではなく、「ブルジョア議会主義」といわれてしまいます。それは政治や社会の仕組みを真に人民的なものに変革していく上で役に立たないばかりか「有害」なものになってしまいます。選挙総括は綱領の立場に立って行われなければなりません。

【日本共産党の後退の原因は謀略ビラか】
 日本共産党の後退の原因がはたして今回の謀略ビラであったかどうかは、もう少し票の分析をしてみないとわかりません。開票日の党幹部のTVインタビューは異口同音にこれを主張していました。さざ波にもこれに対して批判的な投稿がありましたが、私もどうかと思います。たとえば、比例区では長野県だけは前回の13.3%から13.9%へと得票率が0.6%増加しています。長野県だけは謀略ビラがまかれなかったのでしょうか。そして、後退している地方では例外なくまかれていたのでしょうか。私が住んでいる地域でも全国平均なみに得票率が後退していますが、地域にその謀略ビラが大量にまかれた形跡はありません。日本共産党の得票率は約2%減少しています。長野県を除くすべての県で減少しているということは、どう考えても謀略ビラのせいだとは考えられません。ほんのちょっと票の分析をしただけでも、6月27日「しんぶん赤旗」掲載の「常任幹部会声明」は道理にかなったものとは思えないという疑問が出てきます。こんなことは支部へ行って、謀略ビラがまかれたかどうか、まかれた地域では周りの人々の反応はどうだったかということを聞けばだいたいはすぐにわかることです。党幹部の責任問題とはひとまず切り離して、きちんと政治的に総括をしないと「日本共産党の壮大な立ち枯れ」状態はますます進行する一方でしょう。
 謀略ビラについては、私は現物を見ていませんが、おそらくは全体としてみれば内容的には真実とも正義とも無縁のものであっただろうと思います。ただし、「新日和見主義」事件の「査問」がネタとしてとりあげられていたらしいのですが、この時代から活動していた者としてひとこと付け加えさせていただきたいのですが、この事件に対する党中央の対処の仕方は規約に照らしても間違っています。あの事件は何と言おうが非人間的であり、本当にむごいものでした。日本共産党の党内民主主義からみても当時の党中央のやり方を弁護することはできません。不破氏にとって不幸であったのは、氏が当時から最高幹部でありながら、なおその上に最高実力者であった宮本氏の存在があったことです。ですから、不破氏が当時から最高幹部であったけれども、このことの責任を不破氏に問うのは、私は酷だと思います。しかし、今ではすでに宮本氏は政治生命を終えており、「査問」(川上徹著)や「汚名」(油井喜夫著)が出版されており当時の事情も明らかになっています。このときの党の対応が誤りであったことを認めて、事件関係者の名誉回復とそれに伴ういくつかの措置を講じるべきであったと思います。その意味でこの点に関していえば反共攻撃のネタは日本共産党自身が提供していることを、謀略ビラを批判する党員は忘れてはならないでしょう。この件は決して決着ずみの問題ではありませんから、今後のことを考えれば今からでも、党中央はきちんとした対処をしておくべきでしょう。選挙戦の第一線でこの謀略ビラによって苦戦を強いられた党員はこのことを党中央や党機関に意見を述べるべきでしょう。

【政策と政治的立場の検討】
 96年総選挙やこの前の参院選で日本共産党に寄せられた支持はどんなものであったかを考える必要があると思います。たとえば、財政赤字を解消するために消費税を3%に戻すことを先送りすることを決めたり、有事の際に自衛隊を使用することを認めたり、皇太后の死去に対して弔意を表明したり、国旗国歌を法律で制定することになれば「日の丸、君が代」が制定されることが明らかな情勢のもとで、これらの法制化を要求したりする党に寄せられた支持だったのでしょうか。また、どう考えても憲法(の平和的民主的条項)を擁護する勢力とは思えず、課税最低限の切り下げを主張したりする民主党との連立を視野に入れた政権入りをほのめかすことに寄せられた支持であったとは、私は思えません。
 さまざまなアカ攻撃の中で、独善的だとか言われながらも、日本共産党が全体として支持を広げてきたのは、社会の貧しい人々、底辺の人々の立場に立ち、戦後もっとも一貫して憲法(の平和的民主的条項)を擁護し、民主主義と平和を守って闘ってきた党に寄せられた支持であることを忘れてはならないと思います。別な表現をすれば、批判勢力としての日本共産党に寄せられた支持であるという限界を心得ておかなければなりません。今回の総選挙で、ほとんど「憲法一本槍」で闘った土井社民党の回復は日本共産党の後退と対照的で、政策的な内容は単純なものでしたが、その訴えは戦闘的で人の心をとらえるものがありました。選挙戦は厳しい階級闘争です。どのような立派な政策でも、「口先だけ」と受け止められるような態度では、選挙闘争を民衆自身の闘いとして発展させ、日本共産党への指示を獲得することはできないでしょう。
 人々の意識が社会をの大きな変革を望むところまで進んできていないときには、社会を変革する勢力に大きな支持が寄せられることはありません。そういう時期に「政権」に参画しようとすれば、その政治的立場をねじ曲げなければならなくなるでしょう。
 もう1回このテーマで投稿する予定です。