2001年12月30日付朝日新聞朝刊に、「テロ後 世界は」という記事がありました。ドイツ連邦軍のアフガニスタン派遣についての連邦議会の承認をめぐる経過をまとめた記事でした。シュレーダー首相は、中道左派連立政権維持のために保守系野党の協力なしで承認を得るために、自らの信任案と抱き合わせで派遣承認を求めました。
社民党、緑の党所属のわずかな議員が反対を表明しました。シュレーダー首相は社民党長老に協力をもとめました。この長老は、「テロは犯罪。警察力で対処するのが原則だ。だが、警察力で不十分なときに限って、軍事力を使うのはやむを得ない。」として、反対派議員の説得に乗り出しました。
日本共産党はアフガニスタンへの武力行使に反対し、自衛隊の派遣に反対しているぶんだけ、ヨーロッパの社会民主主義政党よりは「まし」です。しかし、ドイツ社民党長老の「テロは犯罪。警察力で対処するのが原則だ。だが、警察力で不十分なときに限って、軍事力を使うのはやむを得ない。」という論理が、極めて近い将来、不破、志位、市田ら各氏の口をついて出るのではないかという危惧をもつのは、私だけではないでしょう。現在、日本共産党指導部は、一定の条件付とはいえ、基本的にはテロに対する武力行使を容認しており、ただ、これに自衛隊が参加することを認めていないだけです。
先日、海上保安庁法「改正」案に日本共産党指導部が賛成しました。「さざ波通信」は、これを厳しく批判しましたが、議会に一定の議席をもつ政党がこれに反対することはなかなか難しいことです。「主権国家が領海侵犯に対して警察力を行使することがなぜ否定されなければならないか」という主張は、俗耳に入りやすく、反対すれば選挙で他党から批判されるでしょうし、得票の減少につながるかもしれません。しかし、そうであっても日本共産党指導部がこれに賛成したのは根本的な誤りです。得票の減少につながろうとも、選挙戦で他党から批判されようとも、これに反対しなければなりません。「さざ波通信」が日本共産党指導部を批判したのは当然でしょう。
日本の支配層は近年とみに自衛隊の海外派兵に対する衝動を強めています。日本の有力企業はほとんどが多国籍企業となり、海外に多くの生産拠点をもっています。帝国主義国家として欠けているのは、対米従属と自由に軍事力を行使することができないことだけでしょう。ことあるごとに段階的に自衛隊を海外に派遣し、既成事実の積み重ねの努力をしています。小泉内閣は、アフガニスタンへの武力行使についても、アメリカの求めるもの以上の「協力」をしようとしています。ここには「自由に軍隊を使いたい」という日本の支配層の衝動があります。不破氏は、これを「武力を使えないような自衛隊が行っても足手まといになるだけだ」と言って笑い飛ばしています。日本の支配層のこの意図を見抜けないとしたら、不破氏の政治的感覚は使い物にならないほどの鈍感なものと言わざるを得ません。
先般の不審船撃沈事件は、法的根拠は漁業法であり、位置的には200海里漁業水域内のことであったとのことですから、直接的には「改正」された海上保安庁法とは関係がないようですし、これらについて詳しい知識は私にはありません。しかし、逃走するからといって、船体射撃をするまでの必要性があったとは思えません。国内での警察官の銃器使用が厳しい条件付で行なわれていることと比べても「領海外における船体射撃の必要性」には大きな疑問が残ります。
私は、不審船撃沈事件は「主権の擁護」とか「邦人の安全」の名の下に、自由に軍事力を行使できる状態をつくりだす過程でおきた事件だと思います。
日本の支配層の衝動を洞察し、どのような政治的脈絡の中で海上保安庁法「改正」案が出されたかを考えれば、これに賛成するなどという選択が日本共産党に許されるはずがありません。
日本共産党指導部がこのような選択を続けるならば、やがて、「警察力で不十分なときに限って、軍事力を使うのはやむを得ない。」という論理が大変役に立つ時期がやってきます。そして、そこに至れば、憲法の平和的条項は空文化し、現行憲法下で長らく戦禍とは無縁であったわが国の政治的、軍事的環境は一変するでしょう。
国が戦火を交えることとなれば、民主主義、人権も大幅な制約を受けます。目立たない投稿でしたが、私が注目したものがあります。怒髪天(ハンドルネーム)さんの投稿「タウンミーティングイン東京での学生逮捕について 2001/11/21」をぜひ参照していただきたい。怒髪天さんの結論は「私は、日本がついに戦争に参加するということに強い危惧を覚えています。憲法がないがしろにされることを放置することはできません。そして、今まさに私の眼前で起きた、日本の歴史の歯車が50年以上前の状況に逆戻りすることを何とかしなければ、と思っています」。まことに同感です。
怒髪天さんの認識は、決して杞憂ではなく、派手なパフォーマンスがマスコミにもてはやされる小泉首相の政治とはそういう政治であり、歴代自民党政権のなしえなかったことを次々とやってのける政治であり、厳しく指弾されなければなりません。
また、海上保安庁法「改正」案が、日本共産党が議席の一角を占める国会の中で、反対する政党とてなく可決されたということは、事態がさらに厳しいことを示しています。
選挙権を得て以来、選挙では自分が所属する日本共産党へ一票を投じていますが、近年、投票を終えるたびに、胸に重いものが残ります。次の選挙でも日本共産党に一票を投じるでしょうが、それは、他に投票すべき政党がないからであり、それでもまだ、日本共産党が下層の人たちの要求を相対的に反映しているからです。
党内で自由に討論することが可能となったときには、人的交代がすべてではないにしても、党中央から不破指導部を放逐することなくして、党全体を綱領的路線に立ち戻らせることはもはや不可能ですから、私は不破指導部の罷免を要求するでしょう。
新しい年は、閉塞状況に少しでも明かりが差し込むような年にしたいと思います。