筆坂秀世元参院議員のセクハラ辞職問題で、共産党指導部は被害者のプライバシーを理由に、詳しい説明を避けてきた。それに対して内外からさまざまな批判を受けることとなり、若干の追加的説明を行なわざるをえなくなった。6月30日、市田書記局長は記者会見を行ない、筆坂氏がセクハラ行為を行なった場所について「党幹部や国会議員の関知しない私的な場所だった」と述べ、党幹部が同席していないことを明らかにした。
だが、この説明はさらなる疑問を呼びおこす。もしそうだとすれば、なぜ最初の記者会見でそう説明しなかったのだろうか。最初の記者会見では、「酒席の性格を明らかにできないということだが、他の共産党関係者は同席していないのか」という質問に対して、「そういうことも含めて控えさせていただきたい」と答えている。もしその場がまったく私的な場で、党幹部や議員などの党関係者が出席していなかったのなら、その場でそう説明すればよい。にもかかわらず、市田氏は言葉を濁した。「そういうことも含めて控えさせていただきたい」と答えれば、そこに何か説明のしにくい事情があるのだなと思わせてしまうことになるのは必至だろう。
それとも、党幹部や国会議員は出席していなかったが、それ以外の党関係者はいたということなのだろうか?
もう一つ、党指導部がきちんと説明していないのは、かつて党の幹部であった市川正一氏が不倫で党そのものを除名になったにもかかわらず、今回の事件では筆坂氏が党の役職の解任だけで除名になっていない事実についてである。「不倫」それ自体は、上下関係などのない対等な成人同士のあいだでなされるかぎりでは、基本的に党が介入するべき問題ではなく、当事者同士が話し合いで解決するべき問題である。だがセクハラは犯罪行為であり、当然ながら政治的な問題である。ところが、「不倫」を理由に市川正一氏は除名され、セクハラの筆坂氏は党員としての地位を維持するというのは、いったいどのような判断基準にもとづくものなのか。
うがった見方をすれば、筆坂氏を除名にせず、党員としての地位を維持することで、引き続き筆坂氏を党の統制下に置くとともに、そうした温情的措置の代わりに口止めを図ったと推測できなくもない。今回の事件公表後、筆坂氏が完全に姿を消していることも、奇妙である。今回の事件に、党として公表されては困る何らかの事情があるのではないかと、疑われるような状況がたしかに存在するのである。