日本共産党資料館

湾岸地域での開戦の事態にさいしての不破哲三日本共産党幹部会委員長の談話

一九九一年一月十七日

 、〔一九九一年一月〕十七日午前、米軍はイラク、クウェートにたいする大規模な空爆など、武力行使を開始した。日本共産党は、戦争ぼっ発を阻止するために、十二日にイラクとアメリカと国連にたいして、十五日には国連安保理構成十五カ国にたいして、それぞれ電報を打つなど、平和解決をあくまで追求してきたが、アメリカの軍事行動発動によって世界の諸国民が危ぐしてきた湾岸戦争が開始されるにいたったことは、きわめて遺憾である。

 、問題の根源は、イラクのクウェート侵略・併合にある。イラク大統領のフセインは、デクエヤ国連事務総長の十五日の理性的なよびかけにたいしても、いっさい反応せず、みずからの侵略主義を変えようとしていない。わが党は、このイラクの態度をきびしく糾弾し、イラクが侵略主義、覇権主義を放棄することをつよく要求する。

 、海部自民党内閣は、平和解決の独自の努力をなに一つおこなうことなく、米軍の武力行使を支持し、「多国籍軍」への新たな多額の財政支出によって、この戦争への全面協力を推進しようとしている。これは、国際紛争の武力解決を禁じた日本国憲法の平和原則を一気にふみやぶろうとするものであり、断じて許されない。米軍の戦争への支持、協力はただちに中止すべきである。

(「赤旗」一九九一年一月十八日)

歴史的岐路にあたり、アメリカは平和的解決のために手をつくしたか
――わが党はなぜフランス提案を重視したか

一九九一年一月二十三日「赤旗」主張

 イラクのクウェート侵略問題を平和的、非軍事的手段により解決せよという強い国際世論に反して、米政権は十七日武力行使にふみきり、湾岸戦争が開始されました。
 戦争開始以来、報道は事態の表面的経過をおうことに終始していますが、やはり開戦に至る根本問題は何であったかを、いまこそ明確にすることが、今日や将来のためにも重要です。
 今日の湾岸問題の元凶は、イラクによるクウェート侵略・併合にあります。同時に、イラクの頑迷さがあったにせよ、イラクを道理をもって追いつめていく平和解決のために力をつくさずに、開戦を急いだ米政権のやり方に重大な問題点があります。
 とくに、米政権が十四日夜から十五日未明(米東部時間、以下同様)にかけての最終段階での国連安保理の協議のなかで、戦争回避、平和解決のためにだされたフランスの提案に反対し、これを葬ったことは、過ぎ去ったこととしてはけっしてすまされない、決定的な問題です。それはまた、戦争の終末がどのようになるにせよ、中東地域の今後にもかかわる重大な問題です。

 フランス提案の重要な意義

 国連安保理が定めたイラク軍のクウェートからの撤退期限、一月十五日を前にして、ベーカー米国務長官とアジズ・イラク外相の間での会談(九日)、ついでデクエヤル国連事務総長のバグダッド訪問(十三日)がおこなわれましたが、どちらも不首尾に終わり、十四日夜からの国連安保理の非公式協議という最後の土壇場で、フランス政府は、六項目提案をおこないました。
 それは、①安保理事国はイラクに最後の呼びかけをする、②イラクにただちに計画的・迅速・大規模な撤退の開始の意思を表示するよう促す、③これが公約され次第、国際監視団と平和維持軍を設置し撤退を監視する、④イラクに攻撃しない保障を示す、⑤アラブ諸国と連携し交渉推進へ必要な措置をとる、⑥平和解決が実現されたら他の諸問題とりわけパレスチナ問題で、ふさわしい時期にが国際会議をひらく、というものです。
 クウェート侵略・併合をつづけるイラクをつけあがらせ、強気にさせている重大な問題は、「多国籍軍」の中心に立って、イラクを包囲している米国自身、国連決議でもあるパレスチナ問題の解決を妨害し、イスラエルを支持・擁護していることです。フセインはそれをもちだすことによって、侵略を「合理化」し、アラブ諸国をはじめとする世界の世論に一定の影響を与えてきました。
 フランス提案は、パレスチナ問題の解決をクウェート問題の解決の前提としてもちだすフセイン流の「リンケージ(関連づけ)」論とは明確に異なり、イラクの侵略を解決したのちに、重要な国際問題でもあるパレスチナ問題の解決にとりくむという道理ある内容でした。
 一月十四、十五日のギリギリの段階で、この提案で安保理が一致してイラクに迫っていくならば、「国際社会はパレスチナ問題を放置している」というイラクの「主張」を打ち破り、アラブ諸国をふくめた国際世論を大きく結集して、イラク・フセイン政権を政治的外交的に追いつめ、平和解決の道をひらく可能性が存在していました。それは、この提案にたいし、ソ連、中国をふくめて安保理十五カ国中少なくとも十二カ国がこれを支持し、EC〔欧州共同体〕諸国やアラブ諸国も支持を表明し、イラクの国連大使も歓迎を表明せざるをえなかったことにも、はっきりと示されています。
 重要なことは、イラクのクウェート侵略から五ヶ月余を経ていたとはいえ、本格的な和平提案が安保理に出されたのはこれが初めてであり、平和的解決のための交渉は、まさにこれから始まるところだったということです。
 ギリギリの時点での提案でしたが、十五日の期限が過ぎても、協議や交渉を継続することは当然可能であり、絶対に必要でした。国連安保理六七八決議も、期限がきたらすぐ武力行などということを定めているものではないからです。

 米政権はこの歴史的瞬間にどのような態度をとったのか

 このフランス案を拒否したのは、パレスチナ問題の解決を妨害してきた当の米政権でした。アメリカのピカリング国連大使は、この提案は「リンケージ」であるなどといってすぐ拒否し、国連安保理の正規の会議に提出することさえさせなかったのです。  ブッシュ大統領は、「世界はもう待てないのだ」といって開戦を指示しましたが、以上の経過が示すように、実際には、最後の段階で生まれかけた、交渉によってイラクを追いつめ、問題を平和的に解決する可能性を押しつぶし、経済制裁による問題解決の道も閉ざして、武力攻撃を急いだのです。
 なぜ、アメリカが武力行使を急いだか。
 それは、端的にいえば、軍部だけでなく、アメリカの権力の中枢に、覇権主義とともに早く力を行使しようとする好戦主義的傾向があったからです。また、今回は、国連を背景にしながら、「多国籍軍」のなかで戦争の主導権をにぎろうとする思惑もからんでいました。さらに、ベーカー米国務長官がペルシャ湾岸地域に新しい軍事同盟が必要だと主張していたように、ソ連中心の軍事ブロックがくずれたなかで、世界に残っ唯一の超大国としてアメリカは、軍事ブロックをテコにして全世界を力で支配しようとしており、そういう「力の体制」をつくるためには「力の行使」が必要だったのです。
 これによってイラクのクウェート侵略問題がたとえ解決されたとしても、パレスチナ問題などは依然として残り、中東の公正な平和をさまたげることになるでしょう。ブッシュ米政権の態度は、歴史的に非難されるべき重大な誤りであり、湾岸問題の根源にイラクの覇権主義があるかということで、あいまいにされたり、見のがされたりしては断じてならないものです。
 日本共産党は、フランス提案が伝えられると、その内容をただちに検討し、即座に国連安保理十五カ国に電報をおくり、これが「道理と根拠をもった提案であると考える」として、「このフランス政府の提案の方向で安保理が平和解決をはかること」を要請しました。同時に、日本政府にもその方向での努力を求めたことはいうまでもありません。日本共産党は、歴史的瞬間をとらえ、平和解決に向けて世界に働きかけたのです。
 今日の人類文明のもとでは、この湾岸問題に限らず国際紛争の平和的な解決は可能であり、戦争はけっして不可避ではないはずです。国際紛争の平和的解決は、世界の公理とし各国とも一様にとなえ、国連憲章もこのことを強調しています。
 湾岸問題にかんしていえば、その可能性は十四日から十五日の時点に、フランス提案という形で具体的に示されました。これを具体化するかどうかは、世界に深刻な惨害をおよぼす大戦争に人類をまきこむことなく、イラクのクウェート侵略問題平和的解決の道に導くことができるかどうかの、歴史の岐路であったのです。
 それだけに、この世界の岐路において、世界とアラブの諸国民が心底切望していたこの道を断った米政権の責任は、きわめて重大であることを厳しく指摘するものです。

 わが党の立場は「どっちもどっち論」ではない

 わが党の代表は、国会質問でもこの問題の重要性を鋭く指摘し、そのことは、心ある人びとに感銘を与えるものでした。しかし自民党、海部首相は、「イラクとアメリカ、どっちもどっち論」とこれをわい曲しました。
 論ずるまでもなく、イラクが直接のクウェート侵略の当事者であり、その国際的糾弾は圧倒的な国際世論の一致するところであることは明白なことです。一方、国連決議は、イラクの無反省と居直りへの制裁として、一致して経済制裁を決め、国連安保理決議六七八も、平和的解決を重視しつつも、イラクが最後まで無反省な場合は国連加盟国が「必要なあらゆる手段を行使する権限を付与する」としたのです。
 しかもこの六七八決議は、「みずからのすべての諸決定を維持しつつ、善意による猶予として、イラクにたいして諸決議を順守する最後の機会をあたえることを決定」し、「本事項を継続審議することを決定する」としているのです。国連決議全体としては、平和的解決のため、最後のギリギリまで全力をつくす精神であったことは、疑う余地がありません。
 したがって、侵略者イラクへの制裁の方法としてのアメリカの対応がどうであったかが、イラクの責任と同列に論じられているものでないことは明らかです。問題の根源は、あくまでもイラクの侵略行為にありますが、それを制裁する手段として、アメリカが武力行使を急ぎ、世界の一致した世論でイラクを追いつめていく平和解決の道を閉ざしたことであり、この点をアメリカの対応の重大な問題点として、われわれはきびしく指摘しているのです。それを「どっちもどっち論」として、わが党がイラクとアメリカを同一の基準で論じているかのようにわい曲するのは、奇弁であり曲論であることは明らかです。
 これは、アメリカのやることは何でもすべて結構で、アメリカを美化することだけがわが国の態度という、卑屈な追随態度を基本とするわが国の対米外交のゆがんだ姿勢です。
 この問題の明白な理解は、今日のわが国政府の態度の問題だけでなく、この大戦争の展望、結末にかかわる大問題をふくんでいるのです。