本サイトでも天皇制に関する議論が活発ですが、それに対して不可欠と私には思われるのに、一般的にはあまり意識されている様子がない一視点を、参考のために開陳させてもらいたいと思います。
天皇制の基礎である『古事記』『日本書紀』の神話観念が、かっての日本の侵略戦争において本質的な役割をはたしたことは否定できない事実です。例えば韓国併合においては神功皇后の三韓征伐神話が、アジア太平洋戦争において神武天皇の八紘一宇神話が利用されました。
しかしこのように古代イデオロギーが侵略戦争に利用されることは日本だけの特殊事情ではありません。例えばイスラエルの建国には「旧約聖書」の「約束の地」神話が利用されましたし、現在でも利用され続けています。現在のアメリカのキリスト教原理主義勢力がイスラエルの蛮行を支持する根拠として、キリスト教の立場から「約束の地」神話の実現を支持する「クリスチャン・シオニズム」なる思想が、アメリカ議会でとりあげられることさえあるのです。
ところで日本で毎年財界が「建国の日」を祝っていたり、アメリカ独占資本とキリスト教原理主義勢力が結託していたり(グレッグ・パラスト氏の『金で買えるアメリカ民主主義』など参照)、インドで利権政治家がヒンズー教原理主義を扇動していたり(アルンダティ・ロイ氏の『帝国を壊すために』など参照)することなどから、現在地球でグローバリゼーションにつながる各国の独占資本が、各国に残存する古代イデオロギーを積極的に利用している現実が確認されます。(マルクスとエンゲルスは『共産党宣言』の中で資本主義の展開は各国の民族的遺産を精算すると言っていますが、世界史の現実はそうなっていません。)
これは古代イデオロギーが人民の論理性を破壊するのに威力があり、したがって独占資本の利権を護るのに有効だと言うことを、独占資本の側が自覚していることを意味します。しかし世界の人民の側に、この現実に対する認識が普及していると私には思われません。
私はこのような認識を国際民主主義の側が持つことは非常に大事なことでないかと思っています。神話による侵略戦争や差別の美化も、比べてみれば馬鹿馬鹿しいことが誰にでも実感できるからです。天皇制も日本の独占資本が世界の独占資本同様に、日本人民の論理性を破壊するために利用している(本来は馬鹿馬鹿しい)古代イデオロギーの一つだということが認識されるべきだと私には思われるのです。
こんな愚考でも多少なりとも参考にしていただければ幸いと思います。