今朝のNHKテレビで「ハイチの混乱」を報道していましたが、「駐留するアメリ
カ軍とフランス軍によってようやく治安が維持されています」といったコメントがな
がれ、こんなコメントを真に受ける人も多いだろうことを思い、朝からいやな気持ち
になりました。
2月下旬の「政変」で亡命したといわれたアリスティド大統領は3月になって「自
分はアメリカ軍に拉致された。これはアメリカによるクーデターだ」との声明を出し
ています。アリスティド大統領が、アメリカが推奨し、IMFや世界銀行が関与する
「構造調整プログラム」を拒否するなど、アメリカ独占資本によるハイチ人民の利益
を護る姿勢をとり続けたことから、今回のような「政変」は十分予測できたことでし
た(佐藤文則『ハイチ圧制を生き抜く人びと』岩波フォト・ドキュメントなど参照)。
なぜならそれは中南米で何回も何回も起こってきたことだからです。そこではアメ
リカ独占資本の搾取をさまたげ、貧民の立場をとるような政権は、常にアメリカの転
覆工作を経験しなければならなかったからです。(それでもベネズエラのチャヴェス
政権が持ちこたえていることは拙稿「社会主義はベネズエラで元気に生きている」で
述べました。)
そして中南米だけでなく中東で、東アジアで、アフリカでも類似のことが起こって
います。世界の絶対的貧困は決して必然の社会現象ではなく、アメリカ産軍複合体と
彼らの支配するIMF、WTO、世界銀行などの意識的コントロールと搾取の結果で
す。その結果世界の富の6割が世界人口の1%にも満たないアメリカ特権階級のもと
に集中し、世界の貧民は食物の薬もなく死んでいかなければならない状況におかれて
いるのです。
この世界全体の帝国主義的搾取の状況を一言で言えば「吸血鬼の地球」という表現
が合うように私には思われます。イラク問題もパレスチナ問題もハイチ問題も根は
「吸血鬼の地球」にあるということを、(めいる話ですが事実はいかんともしがたい
ので)世界人民は認識しなければならないと思います。
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これは余談です。
上に帝国主義的搾取状況にある世界を「吸血鬼の地球」と表現しましたが、もとも
と「吸血鬼」という観念が19世紀末のヨーロッパで流行した背景には、ヨーロッパ
人民の自分たちが帝国主義国の国民として植民地人民の富を収奪しているというコン
プレックスがあったのではないかという疑問を私はずっと抱いてきました。(グラム
シはヨーロッパが植民地に対して吸血鬼であったと言っています。)
例えば吸血鬼文学の最高峰と見なされているブラム・ストーカーの『ドラキュラ』
では、吸血鬼ドラキュラが東欧の辺境トランシルヴァニアから大英帝国の首都ロンド
ンを襲撃します。しかしドラキュラがなぜロンドンを襲うのかその理由はまったく書
かれていません。
私はイギリスの搾取にあえいでいたアイルランド出身のブラム・ストーカー(彼自
身はアイルランド上層階級でしたが)が、無意識のうちに大英帝国を真の吸血鬼とみ
なし、自国の被搾取体験コンプレックスからドラキュラにロンドンを襲撃させたといっ
た想像も可能なように思われるのです。
そうだとすると人類が小説・映画などで「吸血鬼」の観念にこだわる深層心理的背
景には、帝国主義に対する嫌悪感も関係するといった想像もまた可能かも知れません。
このとき「吸血鬼」という観念と「帝国主義」という観念は実は不可分の関係にあっ
たことになるわけです。これは私の考えすぎでしょうか。