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再び無差別テロを考える

2004/3/18 勘太郎、50代、教師

 現在の世界反戦運動において、アルンダティ・ロイ氏やノーム・チョムスキー氏 は、絶大な敬意をもってそのオピニオンリーダーとみなされています。私も両氏に対 する敬意を世界反戦運動と共有するものです。
 両氏は現在の世界の帝国主義的構造に対するもっともアグレッシブな批判者です が、9・11を「イスラム人民のアメリカ帝国主義に対する抵抗」などという評価を 当然ながらとっていません。
 ロイ氏はイスラム原理主義が(ブッシュも属するアメリカの)キリスト教原理主義 と「区別がつかなくなった双子」だとされています(『帝国を壊すために』)。
 またチョムスキー氏は次のように指摘されています(『9・11』)。

 「ビンラディンのネットワークに関して言えば、彼らは、グローバリゼーションに も文化的ヘゲモニーにも、ほとんど関心を持っていない。彼らが長年害し続けてきた 中東の貧しい、抑圧された人々に無関心なのと同じく。彼らは、彼らの関心が何であ るか、声高に、明快に言っている。彼らは、腐敗し、弾圧する「非イスラム教徒」政 権とその支持者に対し、1980年にロシアと戦ったように、聖なる戦争を挑んでい る、と・・・ロバート・フィスクのように、彼に深層インタビューを行った人々は、 彼が世界のことを事実上何も知らないし、知ろうともしない、と報告している」

 また9・11で死んでいったのは決してアメリカ資本主義のエリートたちだけでは ありません。自分たちの職務のために殉職した尊敬すべき消防士や警察官もそうです が、そこには多くのパートタイマーや現業の人もいました。
 アフガニスタン国際戦争犯罪民衆法廷で9・11事件被害者遺族として証言に立っ たボビー・マーシュ氏は、フィアンセのマーガレットさん(パートタイマーとして世 界貿易センタービルで働いていた)がビル崩壊直前に「あなたをとても愛している」 と携帯電話でかけてきたことを証言しています(マーシュ氏はそれでもアメリカのア フガニスタン空爆を犯罪だと思っているのです)。
 グレッグ・パラスト氏はWTOやIMFや世界銀行がいかに世界人民を搾取し、悲 惨に陥れているかを我々に教えてくれる貴重な(本当に貴重な)ジャーナリストで す。そのパラスト氏は、世界貿易センタービルにオフィスを持っており(事件当時は 不在)、そこにはブッシュ政権の不正を追及する多くの弁護士や公務員がいたことを のべ、9・11を「アメリカ資本主義覇権のシンボルの崩壊」として喜ぶ「多くのお めでたいヨーロッパ左翼」に辟易しています(『金で買えるアメリカ民主主義』)。
 もちろん9・11とは実はアメリカが国外で行ってきた暴虐がアメリカ国内におい ても実現されたということであり、その事実から眼をそむけることは許されません。
 そしてその事実をもっとも一貫してアピールしてきたのがロイ氏やチョムスキー氏 でした。そして犠牲者遺族をふくむ多くの人々(例えば上記マーシュ氏)がその事実 を受け入れてきました。
 ところで多くの人々がその事実を受け入れたのは、9・11を「アメリカ資本主義 覇権のシンボルの崩壊」とか「イスラム人民のアメリカ帝国主義に対する抵抗」とす る「おめでたい左翼」の見解に同調したものと私には思われません(犠牲者遺族がそ んな「見解」を聞かされてどんな思いをするでしょうか)。
 そうではなく、多くの人々の心を動かしたのは、無差別テロは許されない、しかし そこでの死者だけではなく世界中の死者に思いをはせ、それらの死の理由を考え、そ の原因を除くことが死者の尊厳を護ることだという、ごく当たり前の(それを妨害す る多くのプロパガンダがなされている中では必ずしも容易ではありませんが)「凡人 の論理」だったのではないでしょうか。
 日本の反戦勢力の一部に、9・11を「イスラム人民のアメリカ帝国主義に対する 抵抗」として美化する姿勢が見られます。私はその志を同じくするだけに、その認識 を惜しむものです。