イラク邦人人質事件では、新聞・週刊誌などの「右倒れ」の結果、人質・家族
への凄まじいバッシングの嵐が吹き荒れています。
もともと、事件発生時には、小泉首相が宴会をやってて事件の把握が遅れたのをは
じめ、内閣・政府の危機管理能力の欠如が問題になっていたはず。
転んでもただでは起きないこの国の指導層。見事に情報・世論操作を行い、危機管
理能力の問題を、「自己責任論」にすり替えました。
マスメディアでは、読売の、悪意のある構成に頭にきました。4/16の紙面で、
帝京大学の教授の論評が掲載されました。中身はこうです。サマワの自衛隊に対して
は、デモは行われていない。このことから見ても、サマワの人々に自衛隊の復興支援
活動は理解されていると。
しかし、現実には4/14に初めての、イラク大学生による自衛隊撤退要求デモが
行われています。このデモのことを読売は報道していなかったのか、もしくは帝京大
教授の論評を、事実でないと知っていながら、編集者はそのまま脚注も付けずに掲載
したのか…
一方、マスメディアの中でも気を吐いている新聞はあります。
私個人のおすすめの新聞なのですが、それは東京新聞です。
全国紙が御用新聞化・大政翼賛会的になっている状況で、バランスのとれた編集姿
勢でもって、紙面を作っています。
東京新聞HPでは読めない、おすすめの記事を見つけたのでここで紹介したいと思
います。
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東京新聞4/20付け 人質「自己責任論」横行の背景
ロシアのチェチェン紛争の取材を続けるジャーナリスト、林克明氏は「三人はジャー
ナリスト、NGOの役割、使命を考えたときに、見るべきもの、助けるべきものがあ
るという使命感から、イラクに行くという考えに至った。そういう意味でそれぞれの
自己責任を全うしていた」と話す。
しかし、そういう声は政府のいう「自己責任」の論理にかき消されがちだ。
まだ三人が拘束されている最中から、外務省の竹内事務次官は「邦人保護には限界
がある。自己責任の原則を自覚していただきたい」と発言。三人の解放後は救出にか
かった経費を公表し、本人や家族にも負担させろという声が政府与党内からあがった。
評論家の佐高信氏は「自己責任を強調するなら、国家はいらなくなる。与党は、自
分たちがいらなくなるといっているようなものだ」と皮肉る。「自己責任が一番ない
のは銀行だ。公的資金で救われ、経営陣には退職金まで払っている。政治家はそのこ
とは批判しない」
政治家の強気な発言も、世論の裏付けがあると感じているからだ。「自己責任を言
う人は『自分を超える社会』とか、『日本を超える世界』について考えたくないし、
認めたくない。だから自己の修養で決まるとか、道徳が大事とかそういう議論におさ
めようとする。被害者や家族を責めるぐらいなら、もっと銀行の責任者を責めろと言
いたい」
政治評論家の三宅久之氏は「私はかなり早い段階から三人の自己責任についてテレ
ビなどで発言してきた。はたから見ると独りよがりだと。事務所には『三宅は冷たい』
などの抗議の電話があると思ったら、反対に激励の電話があった。あまりに皆が言う
から、もう言わないことにした」
政府流「自己責任」論噴出の背景について、三宅氏は「皆、年金だって受給できる
か分からない。老後も自己責任でと、政府の失政の尻ぬぐいをさせられる。そういう
世知辛い世相も反映しているのでは」と見る。「ただ誰かが自己責任を言ったときに、
ひどすぎると反発の声があがったら言わないだろう。『みんなで渡れば怖くない』式
で、尻馬に乗っているだけ。自己責任論を唱える自分の『自己責任』については考え
ていない」
評論家の室伏哲郎氏も「日本人は振り子民族。『被害者がかわいそう』に最初ふれ
たと思ったら、また一気に『自己責任』にふれた。本当はその真ん中に正論はあるの
だが」と話す。
精神科医の斉藤環氏は「日本人は『判官びいき』という弱者に味方する感性がある。
しかし主張する弱者は嫌いだ。主張する強者よりも憎まれる。家族や本人を叩いても
批判されないから、右にならえとなった」と分析する。
「(日本に顕著な)ひきこもりの現場を見ていると、本当の自己責任が定着するに
はあと百年はかかる。西欧型の個人主義が土台にないと自己責任は成立しない。それ
がなければ浮ついた感じがする。今言われている自己責任論の内実は非常に情緒的な
『主張する弱者』叩きのメンタリティだ」