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無力という名のもとに・・・  天邪鬼様

2004/06/21 高山 優 20代

 奥様の「除名」に賛同した社員が、すぐ隣に座り、表面的には同情の目を向け、 励ましているのかもしれない・・・。
 誰を信じていいのか、信じられるのか、解らない状態ですね。

 そんな中で、お仕事を続けて行かなければならない奥様と、やきもきしながら見守 らなければならない天邪鬼様の姿は、ちょうど1年前の私達親子の心情を思い出させ ます。

 早期退職を促されてから退職を決めるまでの3ヶ月間。
 人事の人間には「(辞職は)いつ頃になる?」と急かされ、労働組合の人には「裁 判にかけてでも戦おう!」と声をかけられながらも、調理部(父の部署)のみがリス トラになると聞いた途端に何も言って来なくなりました。

 今まで、さんざん父の真面目さに寄り掛かり、いいように使っておきながら、退職 に向けての書類作成に時間がかかるからと言って、「いつやめるのか?」と平気な顔 で聞いてくる・・・。
 そんな職場に、(4ヶ月という短い期間でしたが)身を置かなければならなかった 父を、私達家族は本当にやりきれない思いで、じっと見守っていました。
 天邪鬼様同様、変わってやれる事ができたら、どんなに楽になるだろうと感じたも のです。

 最前線にいる本人はもちろん辛いでしょうけれど、すぐ側で、ただただ見守る事し かできない家族の苦しみというのも、それはそれは、言葉では言い表せないほど、辛 く、切ないものです。
 それが、とてもずうずうしくて、人の事などおかまいなしな、ずるがしこい人間で あれば、今の状況もさほど悲哀なものでは無いかもしれません。
 しかし、天邪鬼様の奥様はそうではない。
 誰よりも冷たい視線を敏感に感じ取り、本来なら自分に向けられたリストラムード を跳ね返す事も容易に出来るような強さ(ずうずうしさ)など持ち合わせていない。

 奥様の事を良く理解されている家族だけが、今の状況がどれだけ深い傷となって突 き刺さっているのかが、わかるのだと思います。

 何もできない・・
 何もしてやれない・・・
 それがどれほど歯がゆく、苦しいものなのか、同じ「リストラの危機」を体験した 家族として、嫌というほど共感しています。

天邪鬼様
 何の慰めにも、力にもならないかもしれませんが、私が人と関わっていく上で、一 番大切にしている言葉を贈らせて頂こうと思います。

     「not doing but being」
~何もできません けれど あなたの傍にいます~

 シシリンダーという方の言葉です。
「自分は、何て無力なのだろう?と、虚しく思ったとき、何もできないのならせめて、 心だけは傍らにいよう。辛いこと苦しいことを精一杯聴いて、どんな言葉でも受け止 めていこう」
というものです。

 たったそれだけの事が、苦しむ人々の、大きな勇気になることを願って・・・・。