先ず、アンクル・トムさん、「被爆」と「被曝」の使い分けについてのご指摘 ありがとうございます。無自覚に混同していました。
次に大歩危さん、私の質問に答えていただきありがとうございます。せっかくです
が、そのほとんどが誤りです。この際文献でも紹介しようかと思いましたが、あいに
く図書館にもないような専門書しか知りません。そこで、大学の講義ノートのような
ものがインターネットに公開されてないかと捜しました。「放射化学」と「講義」の
2つのキーワードを併せて検索してみて下さい。多分、検索結果の先頭に表示される
であろうサイトがお薦めのひとつです。その中の「永続平衡が、イラク討論欄への
私の投稿(6/9)で解説した「同位体平衡」です。また、β線の物質中の飛程を、エ
ネルギーと媒質の密度の関数として近似計算する方法についても解説されています。
この式を元に234Paからの2.27MeVのβ線の大気中での飛距離を計算すると、約6.6m
となります。
なお、劣化ウランそのものは燃えにくいもので、劣化ウラン弾はマグネシウムを混
ぜて「燃える」ようにしてある訳です。戦車の装甲版に使われている劣化ウランには
当然、マグネシウムは混ぜられていません。
最後に、私がこの問題で科学的な記述にこだわってきた理由について書かせていた だきます。私は、この問題にコミットする最初の投稿(イラク討論欄5/20)の冒頭に 「劣化ウラン弾についての誤った認識を流布する恐れが あると思い・・・」と書い たように、大歩危さん個人と論争してうち負かそうなどと思ったのではありません。 先日、伝言板で中国新聞社の「劣化ウラン弾 被曝深刻」というサイトを紹介しまし たが、これをみていただくだけで、その危険性、犯罪性については多くの方々に十分 理解されると思っています。例えば、この中で、NRC(米原子力規制委員会)が238U の一日の体内摂取限度量を、一般人0.19mg、原子力施設関連従業員で2mgと定めてい ることが明らかにされています。この数値が妥当なものかどうかは別にして、劣化ウ ランは安全だと主張する側が、実はこのような厳しい規制措置をとっていたことは重 要です。
しかし私は、この事を言いたいのではありません。実は、中国新聞社のこのサイト
には劣化ウランそのものの物質科学的な記述に重大な誤りがあります。それは、
「238U(ウラン238)」と「劣化ウラン」が混同されているために、「劣化ウランは
主要にはα線を放出し・・・」と書かれていることです。国内の関連サイトの殆どが
同じ誤りを犯しています。この点、例えば欧米の劣化ウラン弾を告発するNGOグルー
プはシビアーです。例えば、昨年11月にオーストリアのリンツで開催された国際的な
反核シンポジウム「より明るい未来のために」の報告冊子を読むと、その中に、アメ
リカ人のダマシオ・ロペスさんの報告内容が記されています。彼は昨年発足した「劣
化ウラン兵器禁止国際キャンペーン」の中心人物の一人ですが、元プロゴルファーで、
本来、放射化学の素人です。彼の報告には、劣化ウラン弾の危険性の本質が、238U
そのものではなく、その中間娘核種からのβ線やγ線にあることが、限られた紙面を
割いてほぼ完璧に書かれています。
彼らは、劣化ウラン弾を実戦配備している自国の軍部や政府と直接対峙する中で理
論武装を強化してきました。そうしなければ、相手の理論をうち負かし、人々を組織
し、自国民の多数派を、ひいては世界を納得させられないと、闘いの中で自覚したか
らでしょう。私は、彼らのそのねばり強い努力を無にするような安易な議論を、日本
国内で広めてはいけないと思っています。
もう一つ大切なことは、現に今も劣化ウラン弾の放射能の脅威にさらされている人々 を、さらなる被害の拡大から守るにはどうしたら良いのかを考えなければならないと いうことです。この点、劣化ウラン弾の脅威の本質がα線なのかβ線なのかγ線なの かで、探査手法や防御法、治療法は根本的に違ってきます。こうした視点もまた、日 本の劣化ウラン弾関連の運動には少し欠けているのではないかと感じ始めています。 このことはしかし、これまでこの場で討論に参加したことにより新しく得られた今の 私の到達点です。皆様、ありがとうございました。