1.外部被曝と内部被曝:α線とβ線は飛距離が小さいので外部被曝はないとい
うことのようですが、皮膚に付着すれば被曝もあり得るのではないでしょうか(皮膚
は細胞分裂する活性の高い組織です)。
飛距離が小さいということは、減衰が大きいこと、つまり自己遮蔽効果も大きいと
考えられるので、空間へ放出される放射線量はますます表面積に依存するようになり、
微紛化によって被曝量は増えることになります。また、短い距離で全エネルギーを放
出することになるので、被曝した場合の危険性はむしろ増大するように思われます。
もし土壌に堆積すれば子供や農民が被曝する可能性が0とはいえないでしょう。傷
口から取り込まれる危険もあり得ます。
したがって、飛距離が小さいということは、単に外部被曝の危険性を小さくするだ
けであって、劣化ウランを100%安全なものであるとする根拠にはならないと思いま
す。確かに多くの資料で外部被曝の危険性は小さいと述べていますが、これは、微紛
化して環境に放出されることを想定していなかったからではありませんか?α線やβ
線が安全なものだとはどこにも述べられていません。
こうしたことから、やはり微紛化した劣化ウランを環境中に放出すべきでないこと
は明らかだと思いますが、これに加えて内部被曝の問題があります。確かに、劣化ウ
ラン弾の危険性の指摘は主に内部被曝の問題のようですが、今の私達の論点は、外部
被曝であれ、内部被曝であれ、危険性のある物質を環境中に放出することを許すのか
どうかという問題です。
2.広島・長崎との比較の問題:イラクにおける劣化ウラン弾による外部被曝が広島・
長崎の一万分の一ということの根拠が、単位面積当りの総放射線量ということですが、
面積は一体どの範囲を考えているのでしょう?また、総放射線量はどうやって計算す
るのですか?核分裂したU235の量も推定しなければなりませんし、核分裂で生じた核
種や放射線の中身も違います。
私には、微紛化した劣化ウラン弾の人体に及ぼす危険性と原子爆弾による被害とを
同じ次元で比較すること自体無意味だと思えます。さらに、内部被曝が一兆分の一な
どとは計算のしようが無い気がします?
3.政治的キャンペーン?:あらゆる統計データを疑ってみる必要性は認めます。統
計データは多くの場合、因果関係の生じる理由までを立証するものではないからです。
しかし、むやみに政治的キャンペーンであると決めつけることは、むしろ反対の立場
から政治的に利用されることになります。
多くの公害問題で、企業あるいは行政サイドから、住民運動に対してそうした攻撃
が行われました。したがって、疑問を呈するのなら、何がどのように問題であるかを
明らかにすべきです。
ちなみに1998年にアメリカの国防総省が発表した報告書では、調査対象に体調不良
者を含めていなかったこと、劣化ウランにさらされた程度の評価が誤りであったこと、
性差が考慮されていないこと、可溶性劣化ウランと不溶性劣化ウランの比率が間違い
であったこと、劣化ウランの毒性の度合い評価が間違いであったこと等が指摘されて
います。また、2000年に公表された米国陸軍健康促進予防医学センターの報告につい
ては、アメリカの市民団体からも、劣化ウランの吸入量の推定に問題があることが指
摘されています。
過去の歴史をみると、危険な行為を行う側、とりわけ権力を有する側は、常にあら
ゆるデータをそろえて安全であることを主張します。ベトナムでの枯葉作戦がそうで
した。これに対して、被害を受ける側は、乏しい資料と費用で被害を受けていること
を立証しなければなりません。もともと大きなハンディがあり、不備なデータに頼ら
ざるを得ないことも事実です。科学的な態度は大事ですが、どちらの危険度が大きい
かも考えるべきです。疑わしきは罰するというのが、公害問題で培われた原則ではな
いでしょうか?
4.エネルギー保存:この点については仰るとおりだと思います。放射線エネルギー は粒子あたりにすればとてつもなく大きいが、熱量にすればごく僅かであると説明さ れていました。しかし、微細化によって内部での減衰量が減るので、放出される放射 線が増えるということは事実だと思います。
最後に一つお聞きします。あなたはイラク戦争で劣化ウラン弾が使われることを支 持しているのですか、それとも、反対ではあるがNGOの報告には疑問があるというこ となのですか?読み返してみると、これまでのあなたのご発言にはどこにも明示され ていません。