劣化ウランは、主成分である238Uのα崩壊によってできる234Th、続いて234Paという2種類の短寿命中間娘核種(いずれもβ崩壊する)が次第に増えることで、精製1ヶ月後くらいからα崩壊よりβ崩壊の頻度の方が高くなり、4ヶ月後には、α崩壊の約2倍のβ崩壊が起こる状態に達し、以後、この比率はほぼ安定化します。世界中に保管されている劣化ウランやウラン兵器に使われているもののほとんど大部分は精製後少なくとも4ヶ月以上を経過していると考えられるので、「劣化ウランは 主要にはα線を放出する」と書けば、実際上これは誤りであると言えるでしょう。しかし、238Uはあくまでα崩壊しかしないので、「238Uは主要にはα線を放出する」と書けば、これは正しい。
●そこで大歩危さんにお願いですが、「238Uは主にはα線を出す」ではなく、「劣化ウランは主にはα線を出す」と記述している「一般的な科学(化学)辞典や科学雑誌」を紹介して下さい。おそらくそういうものが元になって、日本中に誤った知識が広まったものと思い、興味があります。
なお、私がこれまで書いてきた事の根拠としているのはあくまで同位体化学・放射化学の基礎理論であり、ダマシオ・ロペスさんの主張を根拠にしているのではありません。「図書館にもないような専門書」と書いたのもNGO等の報告書のことではなく、あくまで学術図書のことです。ロペスさんの主張に言及したのは、そうした放射化学の理論に照らして(素人にもかかわらず)驚くほど正確な記述がなされていると驚嘆したからです。それに比べて日本のレベルは低いという嘆きもあって・・・
まさか、ロペスさんの報告を根拠にして私が自説を展開しているというような誤解を受けるとは思いもしませんでした。それはともかく、そうした学術的な専門図書を読むまでもなく、インターネット上では、大学の講義ノートや放射線を取り扱う技術者による解説が公開されていますので、ついでに2つだけ紹介しておきます。
1)「放射性鉱物の取扱と保管」:この中の「Part1…放出されている放射線について」の中の図には、ウラン系列中間娘核種の半減期や放射線のエネルギー、分岐率などのデータが詳しく記されています。このようなデータは丸善の「理科年表」にもある程度は載っていますので参考にして下さい。
2)「放射能の基礎知識」:これは前回検索をお薦めしたサイトですが、理論面に重点が置かれています。特に「永続平衡」のグラフを見ていただくと、中間娘核種の含有量はその半減期(3)の5倍の15くらいの期間が経過すると、ピーク近くまで回復することが理解されると思います。
1)に示されている基礎的なデータを2)の中で解説されている理論式に当てはめて計算すると、私がこれまで書いてきた結論に達します。なお前回、上記2)に示されている近似式を用いて234Paからの2.27MeVのβ線の空気中での飛程を計算した結果を「約6.6m」と書きましたが、単純な計算ミスがあり、正しくは約9.2mとなります(20℃において)。これは最大エネルギーのβ線についの値で、平均的にはその3分の1程度になるので、これまでは「数m」と表現してきました。
●そこで大歩危さんにお聞きします。上記1)に示されている238U系列のデータ、2)に示されている放射化学の基礎理論、私の上記β線の飛程の計算や6/9(イラク討論欄)で示した各種計算や推論のいずれかに間違いがあるでしょうか。あれば具体的にご指摘下さい。
大歩危さんが危惧される通り、実際に米軍兵士や兵器工場の従業員も深刻な放射線の被害を被っていることが、中国新聞社のウェブサイトを見るとよくわかります。人類史上最初の大規模な被曝事件は、原爆実験に参加させられた米軍兵達の「死の行進」ということなのでしょう。以来、米国政府は放射能の被害補償の問題を大きくしたくないために、その「毒性」を過小評価するような宣伝を繰り返し流し続け、広島・長崎の原爆展にも執拗な妨害工作を続けてきました。劣化ウランはα線しか出さないと宣伝したことに引っ込みがつかなくなったことで、現在でも、先ずは自国民に深刻な放射線被害を招いている訳です。ウラン兵器の犯罪性は、非戦闘地域にも、また、終戦後にも未来永劫続く、地球規模の環境破壊をもたらす点にあるでしょう。そういう意味でもこれは「核兵器」と同じ性質の問題を含んでいます。決してイラクやコソボだけの問題ではないのです。