先にも申しましたが、統計調査というものは、因果関係を立証するものではあ
りません。しかし、得られた結果が偶然ではないことを示すことによって、別の角度
から因果関係を推論する根拠とはなりえます。
バルカン紛争前後、あるいは湾岸戦争前後で癌の発生件数が急増したこと、また、
劣化ウラン弾の爆発にさらされた人とそうでない人の癌の症例に差が見られる(さら
された人には白血病やリンパ腫が多いなど)という事実は、統計的に有意であること
が示されており、戦争が何らかの影響を与えたと言う推論は、そうではないという根
拠がはっきり示されない限り、もっとも有力な説と考えられます。
あなたも認めているように、劣化ウラン弾の使用による内部被曝の恐れは可能性と
してあり得るわけですから、2つの戦争に共通する因子として劣化ウラン弾の使用を
考えるのは当然の推論でしょう。放射線が遺伝子に影響を与え得ることは誰もが認め
ているわけですから、積極的にこれを否定するデータが示されない限り、内部被曝に
よる障害の可能性が最も高いとされるのは当然です。
障害の発生機序が解明されないのでこれを否定すると言う考え方は、水俣病の過ち
を繰り返すものです。低レベル放射線障害の発生機構は確率的なものであるだけに、
その解明には長い時間がかかります。しかしそのことは決して疫学的調査による推論
を否定するものではありません。機構の解明まで対策を待つということは、被害を拡
大するだけとなる可能性があり、そのことは絶対に避けねばなりません。ここに疫学
的調査の重要な意義があります。
報道されている異常児の写真集が政治的キャンペーンだと言うお考えのようですが、
政治的とはどういうことですか?これによって何かの政治目的が達成されると言うこ
とですか?それは何でしょう?私には思い浮かびません。もし逆の立場だったら如何
でしょうか?つまり、もしあなたが劣化ウラン弾の被害を受けて苦しんでいる側であっ
たなら、劣化ウラン弾を世界に告発するために、最もインパクトのある資料を公表す
るでしょう。
ですから、疑問を呈するなら、集められたデータのどこに問題があるかを客観的に
示すことです。それなくして政治的キャンペーンと決めつけることは、逆に何かの政
治的意図があるのではないかと思ってしまいます。たとえば、http://www.llrc.org/
のDepleted Uraniumのページには、悲惨な異常児の写真が載っていますが、これは低
レベル放射線が人体に及ぼす影響を警告するキャンペーン(LLRC)の一つであって、
私には何ら政治的意図は感じられません。これに政治的意図を感じる人は、逆によほ
どの政治的意図のある人だと思ってしまいます。
ときには、逆の立場に立ってみることも大事なのではないでしょうか。私も含めて
の話です。