今日、ある運送労働者の放火事件の裁判に参加しました。
被告席の彼は真面目で温厚な、中年労働者そのものでした。
今年の春、勤めていた運送会社の賃金が余りにも安く、とても生活できるものではなかったので抗議したところ、社長が無視して全く相手にしなかったため、とうとう怒りを抑えることが出来ず、その夜、買ったガソリンを駐車場のトラックに撒いて火をつけ、結果として5台のトラックが炎上した事件でした。
この春、名古屋で軽急便に勤めるトラック運転手が「約束が違う」と会社のビルに押しかけ、持ち込んだガソリンが爆発して亡くなるという事件がありました。
この事件はその直後に発生しています、「誘発」されたのかも知れません。
が、しかし被告の労働条件は名古屋より、もっと悲惨で不当なものでした。
入社の時の約束の賃金は月30~40万でした、ところが住み込みと言え、請負契約で不当にピンハネされ、月々彼が手にするのはほんの小遣い程度の3~4万だったのです。
だから彼にとって食事とは、朝は餅一切れ、昼と夕はインスタントのラーメン一杯、コンビニの300円の「ノリベン」が贅沢品という生活を強いられて来たのです。
ある地方都市での出来事です、ある有力企業に中国から技術研修生として青年が来日しました。
彼は学校を卒業し希望に燃えて、この「北の経済・技術大国日本」にやってきたのです。
ところが彼の毎日は、想像と全く違うものでした、研修など一切なく、日々技術とは何の関係もない単純な切削作業ばかり押し付けられ、ノルマを強制させられ、その労働対価がなんと時間給210円だったのです。
この国でリストラ、首切り、賃下げが進み、パートや派遣など不定形労働者が文字通りの右肩上がりで増加しています、しかしそれでも最低700円や800円の時間給は保障されている。
同一労働で、ただ国籍が違い、研修生だからと言ってこんな差別賃金が許されるていいのか?だが彼にとってこれが現実だったのです。
このふたつを目にし、聞いた時、私はただ頭を抱え、必死にまさかと思う様にしました。
しかし、これらはただ私達が知らず、知ろうとしないだけの、現実の日本の底辺を支えている労働者の実態、底辺労働者の実態ではないのか?
「組織率が20%を切った」と嘆いてみせる「連合」や「全労連」とかのナショナルセンターや大手労働組合が、殆ど見ようとしない「労働者の真実の姿」ではないのかとの思いでした。
今日の裁判で放火犯とされた彼は、検察官によって、この手の裁判では最高と言われる懲役5年を求刑されました、判決はこの9月となります。
彼の職場には労働組合がありません、だから今日傍聴席に来たのも、新聞をみて「酷い」と思って、勝手に支援に駆けつけた私たちだけでした。
私たちが希望するように判決で「執行猶予」がつくかどうかは分かりません。
しかし、私たちは公判の後、手錠されながら傍聴席に頭を下げた、彼の元気そうな微笑みに希望を託しています。
人間とは何なのか、労働者とは何なのか、労働者の誇りとは何なのか、労働組合とは何なのか、労働者の団結とは何なのか、そして労働者の国際連帯とは何なのか、等など様々に考えさせられる一日となったのです。