β線の飛距離について記載のあるウェブサイトの紹介をありがとうございます。以下、Sekioさんの7/7の2つの投稿にあるご質問に、分かる範囲でお答えします。
>β線の最大飛距離の計算式も載っていますが、この最大飛距離というものがよく理解できません。というのは、単位が面積当たりの質量になっているので、私たちが考える単純な直線距離のことではないような気がするのです。
β線やα線は粒子線なので、弾丸を粘土に打ち込むのに似て物質中での運動限界が存在し、これを飛程と呼びます。飛程の長さは、基本的には粒子の初速度、つまりエネルギーに比例し、透過する物質の密度に反比例して一義的に決まります。単位面積に飛程をかけると飛程の長さ分だけの値を持った体積となりますが、単位体積あたりの質量が密度なので、飛程の計算に入れる密度を面密度(単位g/cm2)で表現すると計算が簡単になります。β線の運動が弾丸のモデルとちょっと違うのは、β線の場合は運動の終端近くのエネルギーを失った状態で他の粒子とぶつかった際にジグザグに進む点です。その意味で、直線で近似した飛程を、一つのエネルギーでの最大飛程と呼んでもさしつかえないと思います。これに対して、電磁波であるγ線やX線はまったく違った挙動となりますが、省略します。
>また、図に示されているような確率分布をするエネルギーの最大値というのはどうやって定義できるのでしょうか?
特定のβ崩壊で生じるβ線の「エネルギーの最大値」は、放射壊変による質量欠損をエネルギーに変換した値から、反跳エネルギー(β線を放出した原子核が反動で後退運動するエネルギー)を差し引いた値として厳密に求められます。これに対して、図に示されるような山形のエネルギー分布の最頻値や平均値のエネルギーの値については、どうやって求めるのか、私にはわかりません。
>ついでに素人考えですが、β線の飛距離はもともと物質によって異なるのではないですか?放射線量率の計算式の説明によれば、β粒子が物質の表面に出るまでには、自己遮蔽によりエネルギーは減衰し、その程度は物質によって異なるだろうと思われるからです。そうだとしたら、物質ごとに飛距離を言わなければならなくなります。この点についても教えてください。
一定のエネルギーを持って発生したβ線について考えると、それがどんな物質から抜け出て外部へ放射される場合であっても、飛程限界ぎりぎりの深さからやっと抜け出てきたβ線はエネルギーの大半を失っていて、逆に表面から直接放射されるものは、エネルギーを全く失っていないので、結果的には自己遮蔽効果によるエネルギー毎のβ線量の分布様式は物質に依らず同じ形になります。この時、表面に向けて斜めに進むと飛程を超えて物質中から抜け出ることができなくなるという現象の確率から、深い所から抜け出てくるβ線ほど数が少なく、表面近くから抜け出るものほど数が多くなるので、結果的に、エネルギーをあまり失っていないβ線ほど数多く放射されることになります。結局、自己遮蔽効果によるβ線のエネルギーの減衰については、これよりも発生時のβ線のエネルギー分布のばらつきの方がずっと大きいので、厳密に計算する意味はあまりないものと思います。
>空気中での飛程:3H:約5mm; 14C:約20cm 32P:約6mとありました。これは発生源の物質によっても違うと言うことでしょうか?
「発生源の物質によって違う」という表現は正しいのですが、その理由は、発生源の物質によって発生時のβ線のエネルギーがそもそも全く異なっているからであり、自己遮蔽効果とは無関係です。β線の大気中での飛距離について述べる場合には、エネルギー毎に、せめて核種毎に記述しないといけません。エネルギーや核種の特定抜きにβ線の飛距離一般について述べることはできないので、そうした記述が欠落したものは無視してかまわないと思います。人工的に作られた放射性同位元素を利用する者(医療や材料科学の現場)、自然放射能を計測している者、原子力産業に従事している者の間などで、一般的に直面するβ線のエネルギー分布が大きく異なっているので、β線の飛距離に対する感覚にはかなりのズレがあります。
>確率的に広く分布する数値の何を最大値とするのか、何を代表値と考えるのかについてはいまだに理解に苦しんでいます。
これについては私もうまく説明できません。ただ、放射線防護の観点から押さえておかなければならないのは、一つは最大エネルギーのものについての最大飛程の値(劣化ウラン弾については大気中で9m程度)で、これより遠ざかれば、とりあえずはβ線については全く安全だということになります。また、「平均飛距離」を厳密に定義したり計算したりすることはあまり意味がありませんが、おおよその目安として、それが数m程度なのか、あるいは数十cm程度なのかで対処の仕方が違ってくるので、この点についての認識は必要です。しかし、実際に計測すれば済むことですから、そうしたデータこそが重要だと思います。
さて、この投稿が掲載される頃には選挙の結果が明らかになっていることでしょう。どんな結果であろうと、とりあえずは、亀のようにノロマでも地道に着実に前進する道に戻りましょう。