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同位体平衡説についての大歩危さんの理解についての疑問

2004/07/03 Sekio 50代 教員

6/27と6/28の私とさつきさんに対する大歩危さんの発言を受けて、改めて6/9のさつきさんの同位体平衡説についての解説を慎重に読み、いくつか計算もしてみました。その結果、大歩危さんの認識にやや疑問を感じましたので述べさせていただきます。とはいえ、にわか仕込みの素人考えですので、ご批判は歓迎いたします。

 大歩危さんは、さつきさんが同位体平衡の理論に基づいて劣化ウランがα線の2倍ものβ線を放出すると説明されたことに対していくつかの疑問を提示されています。

>劣化ウランは99.8%が238Uであり、私はその科学的性質は同等と考えました。劣化ウランが定常状態でα線の2倍のβ線を出すのでしたら、238Uもまた同様と考えます。

 劣化ウランのβ粒子は238Uからのものではなく、238Uに対してはほんの僅かしかない234Thと234Paからのもので、にもかかわらず238Uのα粒子の2倍もあるというところが同位体平衡説です。238Uはどんなときでもα崩壊しかしていないので、238Uもβ線を放出するような解釈は如何かと思います。
 ちなみに、最初にあった238Uの原子数に対する第一番目の娘核種234Thの原子数比率を、6/9のイラク欄でさつきさんが提示された計算式で計算してみました(238Uの壊変定数はさつきさんの示されているものを用い、234Thについては、半減期24.1日から、10.50とした)。すると、その比率は約2.4年後にピークに達し、それ以降は極めて緩やかに減少(1億年後でもピーク時の98%程度)するのですが、そのピーク時の値でも、10の-11乗程度に過ぎません。であるにもかかわらず、別稿でものべますように、劣化ウラン弾からは高レベルのβ線が検出されているのです。これは何故なのか、これを解き明かすのが同位体平衡説です。
 ポイントは、平衡状態を、娘核種の存在比率ではなく、娘核種の時間当たり変化率が0になるということから理解する点にあります(減少率は、さつきさんの示された式を時間で微分すれば簡単に得られ、0と置けばピーク時が求まる)。そのような状態、すなわち、娘核種の原子数が一定に保たれる状態では、新たに生じる娘核種(すなわち238Uのα崩壊)の数と現存する娘核種の減少(すなわちβ崩壊)数は等しくなっていなければならないので、親核種と娘核種の崩壊が同じ頻度で起こっていると言うことになるはずです。
 娘核種の存在比率は無視できるほどなのになぜと思われますが、キーは、娘核種の半減期が親核種のそれに比べると殆んど瞬間と言っていい時間であることにあります。α崩壊からβ崩壊までの時間差は1つの原子核だけに目を固定すれば10日かそこらはあるのでしょうが、集団として考えれば、両方の崩壊が同時に起こっていると考えられます。234Paについても同様ですから、結局平衡状態では1回のα崩壊ごとに2つのβ粒子が生じることになります。

>個々の238Uについて考察すれば・・・、最大限当初崩壊するα線の2倍のβ線を出すと思われます。

 上に述べたことから、劣化ウランがα線の2倍のβ線を放出する理由は、大歩危さんが示された1つの原子核に目を固定した考え方ではなく、あくまで集団としての性質であることを理解する必要があります。ここで大歩危さんのいわれる「永続平衡により」は、意味がよく分かりません。

>しかしながら物質全体を考えると、・・・ベータ線は最大のエネルギーをもったものでも何㎜も進むことは出来ないと私は考えています。

 確かに、一つのβ粒子だけに注目すれば、自己遮蔽により、ごく僅かしか物質の外へ飛び出せないことはさつきさんも述べられています。しかしこのことはα線についても同じで、さつきさん(6/9)の説明では「放射線量率」の計算式によって飛び出す数を求めることが出来、α線よりも相当多くのβ線が放出されることが説明されています。

>但し、使用されたDUから高濃度、高レベルのβ線が検出されればそのような仮定が立証されたことになります。

 上のさつきさんの説明を裏づけるように、イラクの破壊された戦車や、路上に放置された不発劣化ウラン弾から、極めて高濃度のβ線が科学者の調査チームによって検出されたことが、http://www.llrc.org/du/duframes.htm のDU In Iraq およびLLRC at the Royal Society に紹介されています。