標記の映画、今日見てきました。映画のタイトルですが、映画では「華氏9/11」になっていました。しかしインターネットでは、私の知る限り全て「~911」となっています。どちらが正解なのでしょう?まあそれは置いといて、印象に残った場面についてピックアップして解説します。
冒頭は'00年秋の米国大統領選挙の場面から。最後まで開票がもつれたフロリダでは一旦ゴアの勝利が確定しましたが、ブッシュ実弟の州知事が裏に手を回し、右寄りメディアのFOXを使ってブッシュ勝利の報が流され、それが大勢を決しました。民主党やマイノリティ出身の下院議員は選挙結果に異議を唱えますが上院議員の賛同が得られず、議会規則によってブッシュの当選が確定します。
次いで、その後の4年間のブッシュ大統領の日常を映画は映し出します。ここで強調されていたのは、ワシントン・ポストの報道によれば、大統領就任後から9/11までの8ヶ月間の内の42%を休暇に費やしていた、という事です。ゴルフに興じるブッシュ氏の姿が映し出されます。8ヶ月の任期の内42%が休日=1週間に換算すれば4日働いたら残りは休み(勿論、給与保障付で)。いいなあ~。
そして例の9/11の場面。当時大統領はどこかの小学校を視察中で、生徒に絵本を読み聞かせていました。付き人の秘書が大統領の耳元で、1機目がWTCに突入した事を知らせますが、大統領は自分が何をして良いか判断が付かないまま、約7分間に渡って絵本の朗読を続けます。その時の呆然自失の顔は見ものです。
この9/11同時多発テロについては今までも数々の疑惑が報じられてきました。曰く、CIAやFBIが挙げたテロ情報を大統領が握りつぶした、当日の警備体制が信じられないほど手薄だった、WTCユダヤ人従業員たちの不自然な当日欠勤、等々。ブッシュ一族や政権中枢とサウジアラビアのビン・ラディン一族の間の、石油利権をめぐる癒着についても有名です。ブッシュやチェイニーがCEOを勤めるハリバートンやユノカルといった軍需企業が石油パイプライン利権の為にタリバンを育成し、タリバンからビンラディへの資金供給を助けます。
映画でも、同時多発テロ後の9/14日から24日までの間に、142名の在米サウジ人を最優先で帰国させ、とりわけ9/29日にはビン・ラディン一族24名を緊急出国させた事を描写しています。その一方で、ブッシュ政権は愛国者法を制定し、全国民、とりわけイスラム系移民を徹底的な監視下に置きます。しかし実際には、同時多発テロ以降、国内治安関係の予算はどんどん削減されていきます。オレゴン州の太平洋岸500キロに渡る海岸線を、実はたったひとりのパート警備員が巡視しているのです。戦争準備に予算が割かれた為に、こうなったのです。
映画の後半は、イラク攻撃についてです。ブッシュ政権がアフガン戦争で投じた兵力は約1万5千人。マンハッタンの警官の数より少ない数です。イラクの10数万+有志連合の布陣に比べ、あまりにも違いすぎます。これは、単に相手国の国力の差によるものか?アフガンは親米派のカルザイ(ユノカル社の顧問)を傀儡に据えればそれでお終い、ビンラディン捕獲も単なる目眩まし?実は9/11があろうがなかろうが、最初からイラク攻撃を狙っていたのではないか?
映画は、イラク攻撃をめぐる政府見解や世論の変化について映し出します。ラムズフェルド・パウエルらの発言の変遷(戦争目的が当初のアルカイダとの繋がりや大量破壊兵器破棄からフセイン政権打倒へと変化)と同時に、イラクに派遣された兵士の声の変化を伝えます。当初はピンポイント攻撃やハイテク兵器を操作するゲーム感覚で戦車に搭乗していた兵士が、実際の戦場はゲームなんかではなく血まみれになって生きるか死ぬかの戦いである事、最初の解放者気分・英雄気取りがイラク民衆の敵意に遭遇するうちに崩れ、自己崩壊を遂げていく様。その中で、日本人人質拘束のニュースや今井・郡山・高遠さんたちの映像も出てきます。
映画はまた、米国内の「貧困徴兵」の様子を暴きます。マイケル・ムーア監督の故郷ミシガン州フリント。其処は、産業空洞化が進み失業率50%にも達する地域です。其処では、米軍担当者が二人一組で「いかにもプータロー」風の若者を見つけては「プロバスケット選手の誰それは海兵隊出身だ、君も海兵隊に」と声を掛けていきます。そんな中で「貧困から脱出するために息子を軍隊にやり高等教育や職業訓練を受けさせた」女性が登場します。彼女はイラク戦争賛成派でした。しかしその長男がイラクで戦死し、死ぬ前に家族に宛てた手紙で「みんながあいつ(ブッシュ)を再選しないように」と書いてあるのを見て、徐々に戦争の真実を知り始めます。
資本が低賃金を求めて工場を海外に移転し、其処の民衆を搾取する。資本は民衆の抵抗運動を抑え搾取を維持する為に、本国の覇権確立を求める。本国では「後は野となれ山となれ」で産業空洞化が進み、失業者は心ならずも軍隊に入る。低賃金-失業-戦争の連鎖。
映画の圧巻の一つは、ムーア監督の突撃取材です。連邦議会の前で、海兵隊のパンフを片手に、議員に息子の入隊を勧めるのです。議員連中は、最初は監督を目にして「宣伝になる」と自分の名刺を差出しますが、監督がしつこく息子の入隊を勧めるのに辟易して逃げ出します。やがてみんな監督を遠ざけるようになります。「連邦議員全議員の中で、息子が兵役に付いているのが実はたったひとりだけ」と言う事実が、ここで暴露されます。
階級社会の現実、エスタブリッシュによる民衆コントロール、それを見抜きつつある民衆。約2時間の映画はそれをまざまざと見せ付けてくれました。
【参考】