10年程前、私は新宿紀伊国屋で「父と暮らせば」を観ました。娘にも見せた いと思い、その後テレビで放映された(俳優は変わっていたけど)のを一緒に観まし た。
その芝居が現在各地で再演され、また映画にもなり、評判になっています。一人の 作家が、これだけ多くの人に影響を与えることができる。実にすごいことだと思いま す。もちろん、優れた俳優達がいたから、私はあの話を自分のことのように感じて涙 を流したのですが、それでも、脚本を読んだだけでも、59年前の今日何が起きたか、 多くの人々がどのように死んでいったか、そして生き残った人々がどんな重荷を背負っ て生きなければならなかったかを知ることが出来ます。そして、それを踏まえて希望 を生み出すことも出来ます。
無数の人々の悲劇と苦悩をたった2人の親子の対話に凝縮した、1人の作家の共感 の能力と想像力が、無数の人々に事実を知らせ、感動させているわけです。
それに対して、多くの人々が力を合わせて国を変えるために働いているはずの共産 党は、どれだけの人にどんな感動を与え、希望を語りかけているでしょうか?
小泉をけなすだけでは国民を動かすことは出来ません。既に東ヨーロッパや中国で、 共産党がおぞましい人権抑圧を行ったという負の遺産をかかえ、その事実もデマもひっ くるめて巨大なマイナスイメージを植え付けられた国民を相手にしていることを考え れば、甘いことは言っていられないはずです。深い反省と強い決意をもって、明るい 未来を描き出す巨大な努力が求められているはずです。1人の作家が多くの人々に与 える影響に見合ったものを、多くの人材が集まった政党がどうして作り出せないので しょうか?
それは、惰性に流されて、現実と取り組む覚悟がないからではないでしょうか?最 近、党員投稿欄が低調なことが、その印象を強めます。私は最近ろくなことをしてい ませんが、それでも住民の意思を無視した公共工事を進める市に対してたった一人で 対抗戦略を考えるのは、けっこうつらいものです。「あの人とはこういう問題では話 し合える」「あのグループはいっしょに行動すべきだけど、強いことを言うと険悪な ムードになってしまう」などと考えなければなりません。
それぞれの立場で、誠実に可能なことをやってゆく。それに尽きるかもしれません が、優れた人たちが成し遂げたものから学ぶ必要があるでしょう。私はいくら頭から 湯気を出してしゃかりきになったところで、井上ひさしさんの100分の1、いや1 万分の1もできないでしょうが、それでも同じ人間で、同じ願いを持っているのです。 何かできるだろうと思って努力します。